【ハネムーン】は異世界行き? ――朝のハーブティーと、招かれざる召喚
世紀の結婚式から数日。
エリザベスは、湖を一望できる離宮のテラスにいた。
「……お嬢様。……本日のスケジュールは『何もしない』。……昨晩の祝杯の飲み過ぎを考慮し、胃に優しいハーブティーを用意いたしました」
カシムが事務的な口調の中に、柔らかな独り言を混ぜて、湯気の立つカップを置く。
傍らでは、小さなトカゲサイズに縮んだギルが、クッキーの欠片を幸せそうに頬張っていた。
「……ふぅ。……カシム、たまにはこういう『バカンス』も、悪うないな」
エリザベスは、ダイヤモンドリングを外した指先で、カップを包む。
そこへ、背後から温かな気配が重なった。
「おはよう、エリザベス。……君がソロバンを手放している姿を見るのは、私だけの特権だね」
エドガーが、エリザベスの肩に顎を乗せ、耳元で低く囁く。
かつての冷徹な「監査卿」の面影はどこへやら、眼差しには、どんな高価な宝石よりも甘い「独占欲」が宿っていた。
「……っ。ア、アンタ、朝から商売っ気のない顔せんといて! 新婚やからって、サービス料がタダやと思ったら、大間違いやで」
顔を真っ赤にしながら、エドガーの手を振り払わない。
――カチリ、と。
世界の「歯車」が、無理やり逆回転するような不快な音が響く。
「……っ!? ……。お嬢様、離れてください! ……強制的な次元転送です!」
カシムが護身用の魔導ペンを構える。
エリザベスたちの足元に、複雑で、そして「バグ」だらけの召喚陣が浮かび上がった。
『――どうか、お救いください。……150億の命を、この破綻した世界を……!』
絶望に震える少女――アリスの声が、直接脳内に響き渡る。
「……な、なんやねんこれ! プライベートに土足で踏み込むなんて、営業妨害やで!」
視界は、真っ白な光に包まれた。
エドガーは離れまいと、エリザベスを強く抱きしめ、ギルとカシムもまた、光の渦へと飛び込む。
幸せな新婚生活は、一瞬にして上書きされた。
辿り着いた先は、あまりにも巨大で……「不健全な」単一サーバー王国、『オーバーライド・エンパイア』。
「……ふん。……呼んだんは、アンタか?」
エリザベスは、ボロボロの服を着た少女を睨みつけ、手元のソロバンをパチリ、と鳴らした。
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幸せなハネムーン気分も束の間、またもや厄介な案件に巻き込まれました。
破綻した異世界……エリザベスは「バグだらけの王国」をどうやって立て直すのか?




