恋の始まりは、【全財産没収】。――ゼロ距離ダンスと、経営破綻の宣告
「……ちょ、ちょっと待ちなはれ。距離、近くない!? パーソナルスペースの侵害やで!」
エリザベスは、自身の腰に回されたエドガーの腕の熱さに、思わず悲鳴を上げた。
華やかな旋律がホールを満たす中、ダンスが始まる。
「一歩動くことに、利益がなんぼ」と弾き出す、エリザベスの脳内ソロバンが、パチパチと空回りするばかりで、全く数字を刻まない。
「……緊張しているのか? 君の鼓動が、私のハートにまで響いているよ」
エドガーが、楽しげに目を細めて、囁く。
至近距離で浴びせられる、極上の香水と、宝石のような瞳の輝き。
エリザベスの「商売人としての防衛本能」は、完全に機能停止していた。
「……こ、鼓動やないわ! これは……そう、投資のチャンスを前にした武者震いや!」
「ふふ、君の稼ぎ方は強引だと思っていたが、訂正しよう。……強引なのは、私の心を一瞬で奪い去った、君の瞳の魔力だ」
「……ウチの目に、ダイヤモンドでも埋まってるように見えたんか!?」
必死で啖呵を切るエリザベスだったが、顔はゆで上がったカニの如く、真っ赤だ。
強気な言葉とは裏腹に、足元はふわふわして、エドガーに身を預ける形になってしまう。
だが、甘い雰囲気をぶち壊したのは――。
「……エドガー卿。お嬢様の腰に触れている指一本につき、金貨百万枚の『特別接触税』を課します」
見れば、カシムとギルが、これ見よがしにステップを踏んで、エドガーに張り付いていた。
カシムの眼鏡は殺気で真っ白に光り、ギルは「いつでもいけるよ、旦那サマ!」と言わんばかり。
「……今、ええとこなんや! 恥ずかしいから、どっか行きなはれ!」
曲がクライマックスに向かい、エドガーが、エリザベスを強く引き寄せた。
そして、先ほどまでの熱っぽい眼差しを、急に冷徹な「監査卿」のものへと切り替える。
「……エリザベス。甘い時間はここまでだ」
「……え?」
「今のナニワ商会の稼ぎ方は危うく、他国から狙われるリスクがある。一時的に私の管理下に置いた」
エリザベスは、耳を疑った。
エドガーの腕の中から解放された瞬間、冷たい夜風が吹き抜けたような感覚に襲われる。
「……は? 冗談やんな? ……カシム! ちょっと確認して!」
カシムが懐から水晶端末を取り出すが、一瞬で絶望的な顔になった。
「……お嬢様。……誠に遺憾ながら、ナニワ商会の全資金、および我々の給料口座まで、『残高ゼロ』となりました」
「……ウチ、今、無一文……?」
恋のドキドキが、「経営破綻」の寒気に塗り替えられた。
史上最高に「ロマンチック(物理)」な夜会は、全てを失う最悪の幕開けへと変貌したのである。
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甘いダンスの時間は終了しました。
経営者として、恋人(?)として、エリザベスは絶体絶命のピンチをどう切り抜けるのか……いや、そもそも全財産没収って、ひどすぎませんか!?




