空の覇者vsブラック事務官。――伝説の前では、族長もただのトカゲ
天教国スカイハイの麓から、魔導杭を打ち込みながら登ること数時間。
道中で威嚇してきたドラゴンたちは、カシムが事務的に「備品」として梱包・出荷済みだ。
ついに一行は、頂へと辿り着いた。
全長五十メートルを超える古代竜の族長、バハム・ズ・アゴが、逆巻く炎を纏って君臨していた。
「……下等な人間どもめ! 我が聖域を金色で汚した罪、その命で償え!」
族長の咆哮一閃。
雲が裂け、並の勇者なら気絶するほどの「王の威圧」が放たれる。
だが、カシムは耳栓を装着しながら、淡々と腕時計を確認した。
「……族長、お嬢様の待ち時間は残り三分です。……無駄な叫び声で酸素を浪費するのは止めて、雇用契約書に、判を押してください」
「貴様ぁぁ! 誇り高き竜の一族が、麺などという小麦粉の塊を運ぶわけが――」
「……あー、マジうるさい。耳キーンてなるんだけど」
族長の怒号を遮ったのは、スマホをいじりながら、欠伸をするギルだった。
彼女が一歩、前に出る。
「ねえ、トカゲちゃん。ウチ、今めっちゃ機嫌悪いんだよね。初夜は『玉拾い』で潰れるし、さっきからカシムとの時間を、アンタの騒音で邪魔されるし……」
「黙れ小娘! 貴様のような人間に何が――ッ!?」
族長の言葉が、物理的に凍りついた。
ギルが、ふわりと浮き上がる。
背後に立ち昇ったのは、空を、光を、概念そのものを喰らい尽くす『黒銀の魔竜』の残影。
神話の時代、たった一息で世界を更地にした「終焉の象徴」が、ギルの瞳の奥で冷たく笑った。
「……アンタ、誰に口きいてんの?」
「ひ、ひ、ひぎぃぃ……っ!!」
族長が、そして山を囲んでいた無数のドラゴンが、一斉に「墜落」した。
生存本能が、魂の根源が、目の前のギャルに「ひれ伏せ」と絶叫している。
「……はい、そこまでですギル。族長が恐怖で失禁して、お嬢様の土地が汚れます」
カシムが事務的に間に入り、震える族長の鼻先に巨大な「契約書」と「朱肉」を叩きつけた。
「……理解できましたか? 貴方が戦っているのは、ただの人間ではありません。……『お嬢様の私有地』で働く、伝説の魔竜と、その夫です。……拒否すれば、貴方の一族は今日から『絶滅指定種』ですよ?」
「……くっ……書けば良いのだろう! 運ぶ! 我ら一族、総力を挙げて貴公らの麺とやらを運んでやるッ! だから……『バケモノ』を引っ込めてくれぇぇぇ!!」
族長が、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、前足で「判」を押す。
空の覇者は、世界最速の「ナニワ・スカイエクスプレス」へと再就職が決まった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
誇り高き古代竜も、ナニワ商会の「雇用契約書」の前では一匹のトカゲ……。
めでたくスカイエクスプレスの就航が決まりました。
次回も、どうぞお楽しみに!




