三千キロを三十分。――定時配送を乱す者は、空域の権利を剥奪します
翌朝、天教国スカイハイの山頂は、かつてない熱気と「醤油の匂い」に包まれていた。
「……各員、翼を水平に保てと言っているだろう! スープ一滴でも零してみろ。我らは今日から『食材』に格下げだぞ!」
族長バハム・ズ・アゴの悲痛な号令が響く。
空を裂く咆哮を上げた巨体には、超大型の「魔導保温コンテナ」が、極太の鎖でがっしりと固定されていた。
「族長、無茶を仰るな! このコンテナ、重すぎる……っ! 羽ばたくたびに遠心力で首の骨が鳴るのだ!」
「黙れ! あの『バケモノ』に睨まれるよりはマシだ!」
族長が視線を向けた先では、ギルがドラゴンの尻尾の付け根あたりに腰掛け、スマホで自撮りをしていた。
「おっ、今の族長の必死な顔、マジで『詰んでる』感あって、超ウケる。ストーリーズに上げよっと。ハッシュタグは、#激ムズ再就職 #ドラゴン便」
カシムが、淡々とストップウォッチを止めた。
「……積み込み完了まで四分十二秒。お嬢様の許容範囲を三秒超過しました。族長……無駄な脂肪がついているから動きが鈍いのです。次は『余分な肉』を削いでから飛びますか?」
「ひ、うぉぉぉぉん……ッ! 冗談はやめろ! 今すぐ飛ぶ! 全速力で飛んでみせるから、『解体予定リスト』に、我らの名を書き込むのは止めてくれぇ!!」
カシムの瞳が眼鏡の奥で光ると、ドラゴンたちは一斉に震え上がった。
「……よろしい。今回の目的地は、直線距離で三千キロ先の強国『軍事帝国ガリア』。……お嬢様は『三十分以内に届けられないなら、空域の権利を、永久に剥奪する』と仰っています」
「さ、三千キロを三十分だと!? 音速を超えろと言うのか!?」
「……ナニワの社員に不可能はありません。……さあ、出発です」
カシムが合図を送ると同時に、数千匹のドラゴンが爆音とともに離陸した。
世界最速、そして世界最強の「空飛ぶナニワの物流網」が誕生した瞬間だった。
「……全機、マッハ二を超えて加速。お嬢様の『鮮度』を汚す者に、空を飛ぶ資格はありませんよ」
カシムの声が、風を切り裂いて、族長たちの耳に突き刺さる。
こうして、誇り高き古代竜たちは、醤油の香りを振りまきながら、青天の彼方へと消えていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
無茶なスケジュールも、カシムにとってはただの業務連絡。
ドラゴンたちの悲鳴よりも、納期と品質管理が優先されるのが、ナニワのルールです。




