四天王が五人いるのは、魔界では常識ですか?
正門前。
「いいから粉末を戻せ! 俺たちの『ナニワ麺』は、濃いスープがあってこそなんだよ!」
「ステルス値上げ反対! 実質的な減量案を撤回しろー!」
かつて世界を滅ぼそうとした魔物たちが、今は「消費者」としてプラカードを掲げている。
喧騒を見下ろしながら、カシムは逆さまに装着したままの眼鏡をクイッと押し上げた。
「……ゴウモン主任。スープ袋を一つ持ってきなさい」
「はっ! こちらに! しかしカシム殿、封は開いておらんのです」
カシムは手渡されたスープ袋を、指先で精密に検品した。
確かに、封は完璧に閉じられている。
しかし、振ってみれば音は軽く、重さを量るまでもなく、中身が減っているのは明らかだった。
「お嬢様の減量指示よりもさらに……15パーセントほど欠損している。……。『製造工程のミス』ではなく、何らかの特異能力による『窃盗』です」
「厳重な倉庫から、中身だけを抜いたってのか!?」
驚愕するゴウモンの横から、ギルがスマホを片手に割り込んできた。
「ちょ、初夜をブチ壊した犯人が『粉泥棒』とかマジ受けるんだけど! ……あ、カシム見て!
袋の端っこ、『ズゾッ』って吸ったような、ちっちゃいシワがない?」
ギルが画面をズームする。
そこには、針の穴ほどの微細な凹凸があった。
「……なるほど。特定の一点から、分子レベルで中身を『吸引』した形跡ですね。……ゴウモン主任、ドブドス、フリーズ、ゼツボーン。貴方たち四天王に、こういう芸当ができる知り合いは?」
全員が顔を見合わせ、気まずそうに視線を泳がせた。
「……いや、その……『四天王』の定義にも色々ありましてな」
腰痛ベルトを締め直すゴウモンに続き、掃除用具を抱えたドブドス、氷結魔法で周囲を冷やしているフリーズ、そしてレンズを磨くゼツボーンが、順に首を縦に振る。
「そうなんですぅ。実は魔界の四天王って、結構『入れ替わり』が激しいというか……」
カシムの眉間に、深い皺が刻まれる。
「……嫌な予感がします。端的に言いなさい」
「……我ら四天王の『補欠』というか、不祥事で除名された『五人目』がいたはずでして。名は、吸引公爵・ズゾー」
「……四天王なのに、五人目? 算数からやり直しますか?」
刹那、遠くから「ズゾォォォ……ッ」という、何とも情けない、しかし凄まじい吸引音が響き渡った。
「……出ましたね、イレギュラーが」
カシムは「粛清」の光を瞳に宿し、備蓄倉庫へと急ぐ。
「ここか……」
カシムは、静かに闇へと歩みを進めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
四天王……の補欠?
理不尽なトラブルも、「ナニワ商会」にかかれば人材確保のチャンスに変えていく(?)スタイルです。
次回も、どうぞお楽しみに!




