四天王とかマジウケる。血判の履歴書で即日採用☆
新大陸の空が、禍々しい紫色の雲に覆われた。
「来たな……。魔界からの『刺客』か」
カシムがバルコニーに立ち、冷たく視線を投げ下ろす。
足元には数万の魔物と、四天王が陣を敷いていた。
「ナニワ商会の不遜な令嬢よ! 我が主が命じる、この地を明け渡し――」
四天王の筆頭、破壊公爵・ゴウモンが斧を振り上げた。
だが、巨体の動きは鈍い。
筋肉隆々の外見とは裏腹に、長年の重装備による深刻な「腰痛」に苦しんでいた。
「……やかましいねぇ。カシム、『営業妨害』に対する損害賠償、払えるん?」
エリザベスが、扇子で仰いで鼻で笑う。
「いえ。魔界の通貨は、現在ハイパーインフレ中。彼らの命を売っても、ナニワ麺一食分にもなりません」
「あー、マジで不況じゃん。かわいそー。……カシム! 見て見て、あの鎧の騎士、ウチがライブ配信で使った限定のアクキー(アクリルキーホルダー)、カバンに付けてんだけど! ガチ勢じゃん!」
ギルがデコスマホを構えてズームし、声を上げて笑った。
その瞬間、四天王の空気が変わった。
「……っ! 今、ギル様が『ガチ勢』と仰ったか……!?」
絶望の騎士・ゼツボーンが一歩前へ出た。
漆黒の鎧に身を包んでいるが、「超メンタルが弱い」繊細な男だ。
ギルのSNS投稿だけが、生きる希望だった。
「おのれゼツボーン、戦いの最中に色めき立つな! ……あ、あの、それよりカシム殿。確認したいのだが、求人票にあった『社保完備、腰痛セラピー有り』というのは……真実か?」
ゴウモンが斧を下ろし、おずおずと尋ねる。
「……当然です。弊社はホワイト企業ですから。ただし、試用期間中は、ナニワ麺の工場勤務ですが」
「工場! 暖かい場所ですね!? 極寒の魔界に戻らなくて済むのですか!?」
氷結の魔女・フリーズが、冷え切った手をさすり、目を輝かせた。
冷徹な美女として恐れられているが、実態は「深刻な冷え性」に悩む女性だったのだ。
「え、ていうか隣のジジイ、毒ガス撒きすぎじゃね? 映えんわー」
ギルの言葉に、腐敗の賢者・ドブドスがガタガタと震え出した。
「申し訳ございません! これ、体質なんです……! 本当は『超潔癖症』で、毎日お風呂に入りたいのに、魔界の風呂は硫黄臭くて……! ナニワの最新洗剤で、自分を真っ白に洗浄したいんですぅ!」
エリザベスは不敵に笑い、バルコニーから一枚のビラを投げ捨てた。
「あんたら、戦いに来たんか? それとも『再就職』しに来たんか? ウチは実力主義や。無能はいらんけど、切実な事情がある奴は歓迎したげるわ」
次の瞬間、四天王は一斉に武器を捨て、懐から「血文字で書かれた履歴書」を取り出した。
「お願いします! ナニワ商会に入れてください! 魔王様は休みもくれないし、ボーナスは魂を吸われるだけなんです!」
「……。では、四天王の皆さんはこちらへ。一次面接を始めます」
カシムが、会議室へと誘導する。
――数時間後。
「……不採用、とまでは言いませんが。ゴウモンさんのスキルは、『破壊』のみ。これでは物流部門の『主任』止まりですね。腰痛ベルトを支給します。……ゼツボーンさんは、熱意が空回りしてキモいので、広報の『下っ端パパラッチ』から出直してください。それから、ドブドスさん。貴方は清掃部門で自分を磨きなさい」
「……あと、フリーズさんの『絶対零度』の魔力ですが……。新大陸の物流において、生鮮食品の鮮度保持は緊急課題です。
貴女には、ナニワ商会・物流倉庫の『最高冷却責任者(兼・歩く業務用冷蔵庫)』を命じます。
あぁ、安心してください。弊社が開発した『極暖・魔力発熱インナー』を支給します。これを着れば、氷魔法を使いながらでも体温は36.5度をキープできる優れものです。……どうしました、なぜ泣いているのです?」
「……あったかい……。こんなに心も体も温まる職場があるなんて……。一生ついていきます、カシム様……!!」
「公爵だった私が、ただの主任……! でも、福利厚生で腰が治るなら……!」
「ああ、神聖な清掃作業! 真っ白になれる!」
「やったぁぁ! ギル様の近くで働ける! これこそが聖域だー!」
こうして、世界を滅ぼすはずだった魔王軍四天王は、ナニワ商会の「物流主任」「広報部パパラッチ」「清掃員」「業務用冷蔵庫」へと華麗に転身を遂げた。
「ええねぇ。……魔王本人も、そのうち『バイトリーダー』くらいで雇ったげよか?」
新大陸の平和は、またしてもエリザベスの「雇用」という名の侵略によって守られたのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
魔王軍四天王、ナニワ商会へ転職です!
魔界のブラックな環境から解放され、福利厚生(と腰痛ベルト)の素晴らしさに号泣する四天王たち。
新大陸の物流をどう支えていくのか……。
そして、残された魔王様は一体どうなってしまうのか!?




