【予算外】計算機よりウチを見て! 事務官サマへの強行突破☆
新大陸拠点、旧王宮のバルコニー。
無数の「新入社員」の入社手続きを終えたカシムは、夜風に吹かれながら、ネクタイを緩めていた。
「……お嬢様も無茶を仰る。国民全員を雇用するなど、帳簿の管理コストが跳ね上がるだけなのに……」
月明かりの下で、計算機を叩くカシム。
背後に、ふわりと甘い香りが漂った。
「カシムー、お疲れっしょ! マジで王様ムーブ、超エモかったよ?」
現れたのは、ひらひらの寝巻き(といっても、デコラティブなガウン)を羽織ったギルだ。
カシムの隣に並び、手すりに身を乗り出した。
「ギル。夜風は体に障ります。貴女は一応『王妃』なのですから、もう少し自覚を――」
「出た、お説教! カシムってマジで可愛げないよねー。ウチがこんなに『王妃』として頑張ってんのに、ご褒美とかないわけ?」
「ご褒美? 貴女の今月のタピオカ経費は、すでに承認枠を越えています。これ以上の――」
「違うし! 金とかじゃなくてさ……」
ギルが不意にカシムの腕をつかみ、顔を覗き込んだ。
いつもはうるさいほどのギャルメイクも、夜の闇の中では大人びて見える。
「カシムってさ、ウチのこと『仕事仲間』としか思ってないっしょ。お嬢に言われたからペア組んでるだけ、みたいな。……マジで凹むんだけど」
「……効率を考えれば当然の判断です。私は事務官で、貴女は広報。私情を挟むのは、ナニワ商会の利益に……」
カシムが論理武装を始めようとした、その時。
「……うるさい。理屈、マジ無理」
ギルが爪先立ちになり、カシムの唇を力任せに塞いだ。
「ッ……!?」
眼鏡がズレ落ち、カシムの思考がホワイトアウトする。
柔らかい感触と、ストロベリーフレーバーのリップの香りが、鼻腔を突く。
数秒後、ギルがパッと顔を離すと、月明かりの下でも分かるほど、真っ赤になっていた。
「……今の、は……?」
「王妃としての『先行投資』だから! カシムが、ウチにマジ惚れするまでの前払い! 勘違いしないでよね!」
ギルはそれだけ叫ぶと、バタバタと廊下の奥へ走り去っていった。
一人残されたカシムは、震える指先で自分の唇に触れる。
「……。計算が合わない。あのような接触で、心拍数が通常の1.5倍まで上昇するなど……。そもそも、経済的合理性は――」
カシムはズレた眼鏡を直そうとしたが、手が震えて上手くいかない。
「お嬢様に、報告せねば。……いや、『福利厚生』の一環として処理すれば良いのか……? くそ……論理が組み立てられない……」
冷徹な事務官国王は、その夜、生まれて初めて「処理不能」なエラーコードを胸の中に刻むことになった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
あらゆる難問を解決してきたカシムが、ギルの強引な「先行投資」の前にエラーを吐く回でした。
仕事はデキるのに恋にはポンコツなカシムと、なんだかんだでカシムが大好きなギル。
果たして二人の経済的合理性は一致するのでしょうか……?




