【雇用】暴動お疲れさん。サインせんと、不法侵入で罰金やで?
新大陸の拠点『ポート・サカズキ』。
街の朝は、かつての活気はなく、どんよりとした絶望感から始まった。
「……もうダメだ。家も、畑も、全部『ナニワ・ポイント』の借金のカタに持っていかれた……」
「昨日の『紅白ナニワ麺』を買うために、娘の結婚資金まで注ぎ込んじまったんだ!」
エリザベスがバラまいた「初月無料」のポイントカードと、中毒性抜群のインスタント麺。
そして、ギルが魔導通信で発信した「これ持ってないとマジで時代遅れ(笑)」という同調圧力。
気づけば、民衆の財布は空っぽになり、代わりに『ナニワ商会』への莫大な借用書だけが残っていた。
「こうなったら……立ち上がるしかない!」
「そうだ! あの高飛車な令嬢を引きずり下ろして、借金をチャラにしてもらうんだ!」
鍬や松明を手にした無数の群衆が、ナニワ商会が占拠する旧王宮(現・サカズキ支店)へと押し寄せる。
「「「借金をなくせ! 麺をタダにしろ! エリザベスを出せー!」」」
怒号が響くバルコニー。
優雅に扇子を揺らしながら、エリザベスが姿を現した。
「……。朝っぱらから、やかましいね。カシム、この人らの『残高』、合計なんぼ?」
「はい。延滞利息を含めて、国家予算の三倍ほどになっております」
カシムが事務的に答える。
ギルが自撮り棒を構えていた。
「ヤバい、マジで暴動じゃん! ライブ配信の視聴数エグいんだけどー! みんなおはよー、今日は『借金返せオフ会』の会場からお届けしてまーす!」
民衆のリーダー格の男が叫ぶ。
「ふざけるな! 俺たちはもう一文無しだ! 殺せ! 殺して借金を消してくれ!」
エリザベスは冷ややかに笑い、扇子で群衆を指し示した。
「殺す? ……あんたら、勘違いしたらあかんで。借金があるってことは、『将来の労働力』をうちに前売りしたってことや」
「な……何を……!」
「今日から、この国の『失業者』は、一人残らずナニワ商会の『契約社員』として、雇用したげるわ。給料から借金は天引きやけど、三食『ナニワ麺』付き、寮完備、福利厚生で、ギルのサイン色紙も付けたげる。……文句ある?」
民衆が顔を見合わせる。
殺されるどころか、仕事と、美味い麺が保証される。
「えっ……それって、実質……ホワイト企業?」
「借金さえ返せば、ナニワ・ポイントが貯まって、また新しい麺が買えるのか!?」
「当たり前や。うちは搾取なんかしたない。『永遠に働いて、消費する上客』に育てたいだけや。……さあ、入社届にサインしなはれ。せえへんのやったら、不法侵入で、えげつない罰金取るで?」
さっきまでの怒号はどこへやら。
数十万、数百万……。
地平線の彼方まで続く民衆の群れ。
事務処理魔導具(PC風)は、過負荷で火花を散らしながら、一秒間に数百人のペースで「終身雇用契約書」を吐き出し続けている。
「……。お嬢様、これで全人口の九割が、弊社の従業員になりました。実質的に『国』そのものが一つの企業です」
「ええねぇ。……カシム国王、さっそく社員教育(軍事訓練)始めなはれ。新大陸の開拓、人手はいくらあっても足りひんからね!」
こうして、史上最大の暴動は、一斉入社式へとすり替わったのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
借金のカタに、「人生」そのものを買収していくエリザベスの手腕、いかがでしたか?
暴徒すらも「労働力」と「上客」として再定義する、ナニワ商会の(真っ黒な)ホワイト企業ぶりを楽しんでいただければ幸いです。




