【座標の彼方へ】預かり物の返却と、再会の羅針盤
シルヴァーナがナニワ商会に現れてから、数日後のことだった。
聖都アイギスを見下ろすバルコニーで、エリザベスは自分の胸元にそっと手を当てた。
「……やっぱり、これやったんやな」
エリザベスが意識を集中させると、心臓の鼓動に合わせて、淡く輝く「光の粒」が体外へと浮き上がってきた。
それこそが、転生する際に無意識に抱え込んだ、『ロウィンの魂の欠片』だった。
「エリザベス……」
シルヴァーナが震える手で羅針盤を掲げる。
針は回転を止め、エリザベスの手元にある光の粒を真っ直ぐに指して、激しく震えた。
「シルヴァーナちゃん、持ってき。……うちは魂の欠片のおかげで、こっちの世界でもナニワの根性を維持できたんかもしれん。けど、持ち主に返してあげるのが、商売人の筋やからね」
エリザベスが光をそっと押し出すと、魂の欠片は吸い込まれるように羅針盤の中央へと収まった。
羅針盤から、聖都の夜空を貫くほどの巨大な光の柱が立ち昇る。
「……座標が、固定されたわ。……次の道に繋がった」
光の渦がシルヴァーナの体を包み込む。
転送が始まったのだ。
「おおきに、エリザベス。貴女に会えてよかった。……貴女の強さと、法善寺のクレープの味、一生忘れへんわ」
シルヴァーナが少しだけ、「ナニワの言葉」を混ぜて微笑んだ。
エリザベスは、眩しそうに目を細めて、去りゆく友へ向けて扇子を大きく振った。
「こっちの台詞や! アイルに会ったら言うときや! 『あんたのライブチケット代の元、欠片でしっかり取らせてもらったで』ってな!」
閃光と共に、シルヴァーナの姿は消えた。
後に残ったのは、静まり返ったバルコニーと、どこからか漂う甘いクレープの残り香だけ。
カシムが静かに歩み寄り、眼鏡を指先で押し上げる。
「……。お嬢様。魂の欠片を返却したことで、弊社の『魔導演算能力』が15%低下しました」
「構へん。……借金返してスッキリした気分や。……さあ、カシム。加護がなくなっても、うちの実力で、世界の富を全部毟り取ったるわ。仕事に戻るで!」
エリザベスは不敵に笑い、力強く足を踏み出した。
魂の欠片という「預かり物」は返した。
ここから先は、純粋なナニワの商女としての快進撃が始まるのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
魔導演算能力は下がっても、エリザベスのソロバンと根性は減りません。
むしろここからが本番です!
これからもエリザベスの無双っぷり(金儲け)を、ぜひ見守ってください!




