【魂の羅針盤】懐かしき香りと、引き寄せられた少女
聖都アイギス。
モルガンとの激戦を終え、ようやく一息ついたナニワ商会の執務室。
エリザベスは、ギルが買ってきたクレープを頬張りながら、ふと窓の外を眺めていた。
「……大阪・法善寺横丁の店の味にそっくりやわ。異世界に『コテコテの浪速の隠し味』がある理由……思い浮かばへんな」
その時、部屋の空気が震えた。
次元の狭間を抜けて現れたのは、フードを深く被り、羅針盤を握りしめたダークエルフ――シルヴァーナだった。
「……ついに、見つけたわ。座標の地を」
警戒するギルを制し、エリザベスは彼女の前に立った。
「……お姉さん、不法入国は感心せんなぁ。うちになんか用?」
シルヴァーナは答えず、羅針盤の針がエリザベスを激しく指し示しているのを見つめていた。
そして、エリザベスから漂うクレープの香りに、ハッと息を呑む。
「……『天王寺』を知っているの?」
エリザベスが、手に持っていた扇子を床に落とした。
「……え? あんた、今なんて言うたん? 天王寺……?」
「この羅針盤は、私がずっと探し求めている『ロウィンの魂の欠片』を追うためのもの」
エリザベスは呆然とシルヴァーナを見つめた。
フードの隙間から見える顔立ち、そして凛とした立ち振る舞い。
記憶のパズルが、凄まじい速度で組み合わさっていく。
「……ちょ、ちょっと待ち。あんた、どっかで見たことあると思ったら……! 学園で、アイルと一緒に暴れとった、シルヴァーナちゃんやんか!?」
今度はシルヴァーナが息を呑む番だった。
「……何故、私の名を? 学園のことまで……?」
「当たり前やん! うち、ステージ最前列で観とったファンやで! あんたが放った魔法の火花で、ブラウスの袖がちょっと焦げたんやから!」
共通の「故郷」の地名。
そして、あまりに具体的な思い出。
二人の間に流れていた緊迫感は、一瞬にして奇妙な親近感へと塗り替えられた。
シルヴァーナはふっと表情を和らげ、羅針盤を胸元に寄せた。
「そう……。なら、羅針盤が貴女を指した理由がわかったわ」
「……ロウィンの魂、世界に散らばってるん? ……ええよ、協力したげる。うちも前世でぎょーさん元気を貰ったからね」
エリザベスは落ちた扇子を拾い上げ、パチンと威勢よく閉じた。
「ただし! うちはナニワの商人。タダでは動かへんで。シルヴァーナちゃん、あんた今日からナニワ商会の『特別用心棒兼、広報担当』や。美貌とカリスマで、聖都の連中をメロメロにさせなはれ。客寄せしながら、一緒にロウィンの欠片、集めようやないの」
シルヴァーナは戸惑ったが、エリザベスの差し出された手を見て、くすりと笑った。
「契約成立ね。……ふふ、異世界に来てまで、『商売人』に捕まるなんて思わなかったわ」
「褒め言葉として受け取っとくわ! カシム、シルヴァーナちゃんに一番ええ部屋用意しなはれ! あ、晩ごはんは、粉もんパーティーやで!」
聖都アイギス。
法善寺の香りが繋いだ二人の女性は、新たな運命へと歩み出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
異世界で推しに再会して、自社の特別用心棒として雇用するエリザベスの商魂の逞しさ、さすがですね(笑)。
次回も、どうぞお楽しみに!




