【買収】中通の看板、掛け替えさせていただきます
モルガンの背後で、ガシャンと大きな音が鳴り響いた。
自慢のコレクションである黄金の天秤が、砕け散ったのだ。
大陸の富を支配した『大同盟中央通商(中通)』が、商売の神に見放された合図だった。
「……あ、ありえん。私の築き上げた王国が、……たった三分の麺如きに……!!」
モルガンは膝をつき、震えていた。
カシムが淡々と、空中に浮かぶ魔導文字の数字を指し示す。
「……中通の全資産価値、ゼロを割り込みました。買い占めた小麦の維持費が、貴殿の魂の価値すら上回っています。……たった今、『大陸最大の借金王』として魔法的に確定されました」
「ひっ……ひぃぃっ……!!」
エリザベスは魔道端末越しに、モルガンの方へ歩み寄った。
「商売の神様は、頑固な奴が一番嫌いなんやで。……アンタが小麦を抱えて固まってる間に、世界はもう『ナニワの味』に依存してもうたんや」
エリザベスが端末の『執行ボタン』をタップした瞬間、モルガンの眼前に漆黒の羊皮紙――『魂の譲渡契約書』が強制ポップアップした。
「さあ、これにサインしなはれ。アンタの商会、物流ルート、倉庫、そして山積みの小麦……全部まとめて、ウチが『一ゴールド』で買い取ったげるわ」
「い、一ゴールドだと!? 馬鹿にするな! 中通百年の歴史を、端金で売れるか!」
「歴史で腹は膨れへん。サインすれば、アンタの魂を担保にした数億の借金、ウチが肩代わりしたげてもええ。……拒否するんやったら、今すぐその首、差し出しなはれ」
契約書の周囲で、黒い霧がモルガンの体を締め上げ始める。
サインを拒めば、契約の不履行として魂を削り取られる――これが商売人の魔法契約の恐ろしさだ。
モルガンの喉が鳴る。
血走った目でエリザベスを睨み、そして――絶望に負け、震える指を走らせた。
――カッ、と。
羊皮紙が青白い炎を上げて燃え尽き、モルガンの胸に「ナニワ商会・所有物」を意味する魔導紋章が浮かび上がった。
「毎度あり。……カシム、すぐに『中通』の看板を全部叩き落として。明日からは『ナニワ・ロジスティクス・中央』に掛け替えや」
「承知いたしました。すでに準備は整っております」
モルガンの配った「偽札」が、ナニワの麺を買うための「整理券」として有効活用されている。
「新しい仕事を用意したるわ。……アンタが買い占めて腐りかけた小麦の山。全部一人で『麺』の袋に詰める作業や。……魔力で縛られてるんやから、サボったら電気が走るで? 商売の基本、手作業からやり直してきぃな」
翌朝。
聖都アイギスの中心にそびえる豪華な旧中通ビルには、巨大な垂れ幕が掲げられていた。
『パンがないなら、麺をすすれ! ナニワ商会、聖都全域・支配開始!』
「ナニワ令嬢」の快進撃はまだまだ続く。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
黄金の天秤も、ナニワの「麺」の前では無力でしたね。
聖都に響き渡る麺をすする音こそが、新たな時代の始まりです!
次回も、どうぞお楽しみに!




