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【転生令嬢】愛より金や! 〜断罪の宴に響くソロバンの音。「慰謝料」キッチリ計算してええですか?〜  作者: ちいもふ
第5章:商売の神様も、ナニワの味には勝てへん。――これにて聖都、完全支配
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【中毒の香り】聖都を支配する三分間の奇跡

「……な、なんだ、この匂いは」


 聖都アイギスの広場。


 怒号と絶望に満ちていたはずの場所が、一瞬にして「困惑」に支配された。


 ギルたちが巨大なかまでお湯を沸かし、配り始めた「謎のカップ」から、それは立ち上っていた。


 醤油しょうゆの香ばしさ。動物性の脂の甘み。そして、鼻腔びくうを突き抜けるようなスパイシーな刺激。


「おい、三分経ったぞ! 食ってもいいのか!?」


「おうよ、火傷すんなよ! エリザベス特製『ナニワ・マジック・ヌードル』、存分にすすりな!」


 ギルの合図で、最前列にいた腹ペコの男が、おそるおそるフォークで茶色の縮れ麺を口に運ぶ。  


 ――ズルルッ!  


 豪快な音が広場に響いた。


「…………ッ!!」


 男の目が見開かれる。


 次の瞬間、彼は狂ったように麺をすすり、熱いスープをのどに流し込んだ。


「旨い……! なんだこれ、パンよりずっと味が濃い! 腹の底から熱くなって、力が湧いてくる……!!」


「本当だ! 飲み干さずにはいられないぞ!」


 一人が食べ始めれば、もう止まらない。


 三分前までモルガンの偽札を握りしめ、「パンをよこせ」と叫んでいた群衆が、今は一心不乱にカップを抱え、麺をすすり上げている。  


「ズズッ!」「ズルズルッ!」という、聖都では聞いたこともないような力強い音が、広場を埋め尽くした。


「……カカッ、カハッ……! バ、馬鹿な……!」


 魔導端末の向こう側で、モルガンがのどを鳴らした。


 ホログラム越しですら、「暴力的な香り」が伝わってくる。


 民衆が、モルガンの用意した高級パンなど目もくれず、見たこともない安っぽい麺に熱狂している。


 その光景は、「商売の常識」を根底から破壊していた。


「ジジイ、ええ音してるやろ?」


 エリザベスは、カップの底に残ったスープを名残惜しそうに眺めながら、不敵に微笑んだ。


「アンタのパンは、飢えをしのぐための『義務』や。でも、ウチの麺は、一口食ったら明日も食いたくなる『娯楽』や。商売で一番強いのは、『中毒』やねんで?」


「……おのれ、おのれぇ……!」


「市場の動きはどうなってる?」


 カシムが端末を操作し、非情な現実を読み上げる。


中通ちゅうつうが独占していた小麦の先物市場、大暴落です。投資家たちは『パンの時代は終わった』と判断。現在、モルガン氏の資産は一分ごとに金貨数万枚のペースで目減りしています」


「……あ、そうそう。アンタが買い占めた小麦、腐らせるのは勿体もったいないなぁ」


 エリザベスは、計算高い魔女の笑みを浮かべた。


「ウチが『ゴミ値』で全量引き取ったげてもええよ? もちろん、次のインスタント麺の材料にするためにな。……アンタが溜め込んだ小麦で、ウチがもっと儲けてあげるわ」


 モルガンの顔が、どす黒い絶望に染まる。


 買い占めた物資が売れず、逆にライバルの材料として安値で買い叩かれる。


 商人にとって、これ以上の「死」はない。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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