【軍事王の誤算】剣は領収書を斬れない
聖都アイギスから、砂塵を上げて爆走する一台の魔導馬車があった。乗っているのは、同盟最強の軍事国家・ゼルドビアの王、バルガスだ。彼は馬車の窓を叩き、忌々しげに吐き捨てた。
「ナニワの小娘め……! 帳簿だの倒産だの、商人の理屈で脅せるとでも思ったか!」
バルガスの脳裏には、先ほどまでの屈辱的な光景が焼き付いている。無機質な事務員と、扇子で笑う追放令嬢、タピオカをお代わりするギャル。
だが、彼には自信があった。我が国には、列強諸国すら恐れる騎士団と、無限の鉄鉱脈がある。
「経済など、要は金の回し方の問題だ。一度鎖国してしまえば関係ない。ナニワが手を出してくるというなら、エリザベスの首ごと借用書を切り裂いてくれるわ!」
国境を越え、自国の堅牢な城門が見えた時、バルガスは勝利を確信して高笑いした。
翌朝。バルガスは意気揚々と玉座に座り、重臣たちを集めた。
「聞け! 本日をもって、ナニワ商会との一切の取引を停止する。国内の出張所はすべて封鎖、資産は没収だ!」
王の宣言に、重臣たちは静まり返った。だが、それは感銘を受けたからではない。恐怖と困惑に顔を白くさせていたのだ。
そこへ、息を切らした軍務大臣が駆け込んできた。
「ほ、報告します! 王様、大変です! 騎士団の連中が、一歩も寮から出てきません!」
「なんだと? 演習の時間だろう! 怠慢な奴らは首をはねると伝えろ!」
「それが……できないのです! 兵士たちの給与口座が、今朝から完全に『ロック』されています! 決済網を握るナニワ商会から、『契約違反に伴う資産凍結』の通告が届きました。兵士たちは『飯も食えないのに戦えるか』と、武器を置いて食堂に籠城しています!」
バルガスの顔がぴくりと引きつった。
「ば、馬鹿な……。なら、備蓄している兵糧を配れば済む話だ!」
「それが……倉庫の扉が開きません! 魔法封印の鍵の管理権限が、いつの間にか『ナニワ・ロジスティクス』に譲渡されており……あ、開けるには『滞納金の一括支払い』が必要だと……!」
バルガスは、玉座の肘掛けを激しく叩いた。
「おのれ、姑息な真似を……! 騎士団がダメなら、魔導ゴーレム部隊を起動しろ!」
「……もう『鉄屑』ですよ」
冷ややかな声が、広間に響いた。
王の魔導端末が勝手に起動し、映し出されたのは、書類の山に囲まれて淡々とペンを動かすカシムの姿だった。
「……バルガス王。貴国のゴーレムに使用されている魔導回路のライセンス契約、今朝の0時をもって失効しました。更新料の支払いが確認できなかったため、遠隔で全機停止させていただきました」
「き、貴様ぁぁ!」
「ああ、それから。貴国の鉄鋼山ですが、先ほど正式に『差し押さえ』の手続きを完了しました。今後、産出される鉄はすべて、ナニワの資産となります。あしからず」
端末の画面が切り替わり、今度はエリザベスが優雅にタピオカを吸いながら現れた。
「……あ、王様。無事に帰国できたみたいやね。でも残念、アンタの国、『全サービス終了』やわ」
「ふ、ふざけるな! 剣だ! 剣を持ってこい!」
「落ち着きぃな。剣を振るうのにも、腹が減るやろ? ……カシム、ゼルドビア国の今の『信用格付け』、なんぼやった?」
「……。測定不能。評価対象外」
エリザベスは扇子をパチンと閉じ、極上の微笑みを浮かべた。
「せやから言うたやん。暴力で踏み倒そうなんて、一番高くつくコストやでって。……あ、お腹空いたなら、ナニワ特製の『更生おにぎり』、一個金貨100万枚で売ったげよか? もちろん、ツケ払いは厳禁やで」
バルガスは力なく玉座に崩れ落ちた。最強の軍事国家が、一滴の血も流れることなく、ただの「数字の暴力」によって、沈没したのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
最強の軍事国家、「サ終」しました。
剣を振るうにも、ライセンス料と給与が必要……世知辛いですが、これがナニワの現実です。
次回も、どうぞお楽しみに!




