伝説の魔竜、魔力酔いで『ガチ恋ギャル』にクラスチェンジ
「……。なぁ、カシム。そこにおる、ピンクのネイルを乾かしながら、魔導端末いじってる姉ちゃん。……まさかとは思うけど、『黒銀の魔竜』様やないよね?」
エリザベスが尋ねると、カシムは無表情に、しかし震える手で鑑定書を差し出した。
「……間違いありません。『高純度・暗黒魔石』を主食として過剰摂取した結果、魂が極度の『魔力酔い』を起こしました。……古の威厳は、現在『ギャル精神』という名の強固な防壁の下に封印されています」
すると、髪を派手に盛り、黒銀の鱗を模したドレスを着た美女が、気だるげに顔を上げた。
「あー、エリザベス。おっは~。つーかさー、照明マジ暗くて映えなくね? もっとキラキラした魔石とかないわけ? 闇属性とかマジ重いし、時代遅れっしょ」
「……。ギ、ギルさん? 『誇り高き魔竜』はどこへやったんや……。そんな喋り方、誰に教わったんよ……」
「は? 誇りとかマジウケる。つーか、魔石食べすぎたら頭の中『ウェーイw』ってなって、気づいたらこの姿? マジ奇跡体験なんですけど。……あ、てか見て。あそこの更地で泥こねてる陰キャの聖女、ウケる。あんなに必死に働いて時給いくら? マジ人生詰んでて草」
伝説の魔竜の口から放たれる、軽薄極まりないネットスラングの嵐。しかし、体から漏れ出す魔力は、以前の比ではない。酔っ払っているがゆえに力の制御が効かず、溜息をつくたびに、周囲の空間がミシミシと軋んでいる。
「カシム。ある意味、前の魔竜の状態より怖くない?」
「はい。今のギル様は、機嫌を損ねると『マジうざい』という理由だけで、大陸の半分を消滅させかねないほど、不安定な状態です。……まさに、『歩く超新星爆発』です」
その時、ギルの視線がカシムの方へと向いた。瞬間、彼女の瞳に異様な光が宿る。
「……。てかさ、……え、待って。カシム、マジでビジュ良くない? 無表情で計算機叩いてる指先、エモすぎて無理。尊死するんだけど」
「……ギル様。業務の邪魔です。あと、鼻息で書類を炭化させるのはおやめください」
エリザベスの脳内に、かつての記憶がフラッシュバックした。カシムは……『黒銀の魔竜』を単騎で討伐した騎士だったはず。
……待てよ。こいつ、魔力酔いでリミッターが外れたせいで、自分をボコボコにしたカシムに『ガチ恋』しとるんか……!?
エリザベスは扇子をパチンと閉じ、不敵に微笑んだ。
「カシム。『腕っぷし』は錆びてへんよね? ほんで、ギルはあんたにベタ惚れ。……。……いける。最高の『防衛パッケージ』やわ!」
「ギル! カシムに『ええとこ』見せたいと思わへん? 踏み倒しを計画しとる軍隊が来るんよ。カシムが見守る前で、シュパッと片付けてくれたら……。『ご褒美』がもらえるかもしれんで?」
カシムは無表情のまま、ギルを見た。
「……。ギル様。もし被害を最小限に、かつ迅速に敵軍を無力化できたなら。……来週の休日の午後、一時間だけ。『デート』という名の市街地視察に、同行しましょう」
「……。……。……はっ!? マジで言ってる!? カシムとデート!? それって実質、公開プロポーズじゃん!! マジ死ぬ、尊すぎて心臓がバックバクなんだけど!!」
ギルは鼻血を吹き出す勢いで身悶えた。
「ちょ、エリザベス聞いた!? マジで神、今の会話、魔導録音しとけば良かった!!」
「……カシム、自分の身を切り売りするとは商売人の鏡やな。デートを長くしたかったら、敵軍を秒で片付けてくるんやで。早く終わらせた分だけ、デートの時間を『5分』延長させたげるから」
「マジ!? 5分!? 結婚生活5年分くらいの価値あるじゃん!! おけ、秒でわからせてくる!! 今日の私は、伝説の魔竜(全盛期)の100倍マジでヤバいから!!」
ギルは爆発的な推進力を放ち、窓ガラスを枠ごと吹き飛ばして戦場へと消えていった。
「……。カシム、あんたも大変やね。デート、生きて帰ってくるんやで」
「……。社長、ご心配なく。修理代ですが、同盟軍への請求書に『魔竜の特殊発進料』として、30倍の額で載せておきます」
「……。まいどあり。あんた、ほんまに鬼やわ」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
伝説の魔竜様、魔力酔いでリミッターが外れた結果、ただの「推し活ギャル」になってしまいました。
デート5分のために大陸半分を消しかねない戦力を投入するエリザベス、今日も平常運転で「商売人」してます。
次回も、どうぞお楽しみに!




