これ、飲むだけで24時間寝んでも平気、魔力もみなぎる特製品や。……聖女様、あんたの肌荒れにも効くで?
ストライキが失敗に終わった日の午後。
作業場の空気は、重油と絶望が混ざり合った淀みに満ちていた。肩を落とし、機械的に手を動かすセレスティーヌたちの前に、エリザベスが「現場視察」と称して姿を現した。
「みんな、お疲れさん。……さっきのストライキ、ちょっと感銘を受けたわ。あんたらの『やる気』が足りんのは、きっと栄養が偏ってるからやね」
エリザベスがパチンと指を鳴らすと、カシムが銀色のトレイに乗せられた小瓶――どぎつい紫色の液体が入った『エナジードリンク・ナニワGOLD』を配り始めた。
「これ、飲むだけで24時間寝んでも平気、魔力もみなぎる特製品や。……聖女様、あんたの肌荒れにも効くで?」
「……えっ、本当に? それを、私たちにくれるの?」
セレスティーヌの目が輝く。悪徳だと思っていたエリザベスが、急に優しくなったように見えた。だが、横で瓶を受け取ったアルベルトは、ラベルの裏を見て顔をひきつらせた。
「……セレスティーヌ、待て。裏に……『一口につき、弁済期間1ヶ月延長』って書いてあるぞ……」
「正解や、アルベルト。……福利厚生やない。【労力前借り型の栄養支援】や。今すぐ元気になる代わりに、しっかり長く働いてもらう。合理的やろ?」
セレスティーヌは、つかみかけた希望が、またしても「利息」という名の鎖に変わる瞬間を目の当たりにした。
「……そんなの、飲めるわけないじゃない! 私たちはただ、少しの休息と、まともな食事が欲しいだけなのよ!」
「お、交渉の続きか? ええよ、うちは民主的な商売人や。……カシム、彼女らの要求する『まともな食事』を提供した場合の、追加コストを計算して」
「はい。……現在の低コスト配給食から『まともな食事(肉・野菜含む)』に変更した場合、食費が300%上昇。これに伴い、返済完了予定日は……さらに45年伸び、計295年となります」
「295年!?」
ヴィクトールが悲鳴を上げた。彼はもはや、自分が貴族だったことすら忘れかけている。
「さあ、どうする? このまま泥水を啜るか、それとも『ナニワGOLD』を飲んでバリバリ働いて、返済スピードを上げるか……選ばしたげるわ」
エリザベスは、毒蛇のような、しかし抗いがたい魅惑の微笑みを浮かべた。極限まで疲れ切った体に、紫色の液体が放つ魔力の香りは、何よりも甘美な誘惑だった。
「……私、飲むわ。明日までにノルマの3倍をこなして、絶対ここから出てやるんだから!」
セレスティーヌが震える手で小瓶を煽った。その瞬間、彼女の瞳に異様な光が宿り、顔色が急速に赤らんでいく。
「ああ……力が、力が溢れてくる……! もっと、もっと泥を練らなきゃ!!」
勢いよく撹拌棒を回し始める聖女。エリザベスは様子を見届け、満足そうに手元のスレートをチェックした。
「ええ調子や。……カシム、彼女らが『中毒』……やなくて、『仕事の喜び』に目覚めたところで、ナニワ商会の社歌の練習を入れるで」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「肌荒れに効く」と言われれば、飲まないわけにはいかないのが乙女心(?)。
たった一口で、人生の1ヶ月がナニワ商会に捧げられるという恐怖のローンが始まりました。
次回も、どうぞお楽しみに!




