第六十一話 誤射
「大丈夫か!?」
春重が訊くと、桜子はこくこくと頷いて見せた。
ギガントシャークは、春重たちの周りをぐるっと一周する。そして、今度は春重に向かって、突進を仕掛けてきた。
「〝ソードガード〟!」
春重は、大剣の腹でギガントシャークの突進を受け止める。強烈な衝撃と共に、春重は波に呑まれたときのように、ぐるぐると水中の中で回転する。
「ぐぞっ!」
体勢を立て直し、とっさに大剣で反撃を試みる。
しかし、ギガントシャークの速度にはとても追いつけず、悠々と距離を取られてしまった。
すかさず、真琴が矢を放つ。それも、先ほどと同じように、容易く回避された。
「そんなっ……!」
そのとき、春重の『直感』が働いた。
いつの間にか、春重たちは一ヵ所に集まっていた。この状態で、もし、あの超高速の突進が飛んできたら――――。
「……やるしかない」
春重は、ギガントシャークを睨みつけ、その手をかざす。
「『支配』!」
すべてを支配し、操る力。このスキルを受けた者は、何人たりとも、春重には逆らえない。
ただ、唯一の問題は、高レベルの存在ほど『万物支配』が効くのが遅いこと。エルヴァーナのときは、効くまでに三分もかかった。ギガントシャーク相手ならば、おそらく二分ほどと予想しているが、それでも、耐えきるのは至難の業である。
「……べ?」
しかし、春重が『支配』をかけた瞬間、ギガントシャークが目の前から消えた。
これまでにない、スキルが空振りした感覚。
『万物支配』を発動するためには、必ずターゲットを視認しながら、手をかざす必要がある。
しかし、春重が対象を視認できなければ『万物支配』は発動しない。
つまり『万物支配』は、回避できる。
ギガントシャークが『万物支配』を理解しているのか、それは誰にも分からない。ただ、やつは今、確かに春重の前から姿を消した。まるで、嘲笑うかのように。
――――なら、もう一度……!
幸い、空振りならSPは減らない。ならば、当たるまでやればいいだけの話だ。
ギガントシャークを視界に捉え、再び手をかざす。
「『支配』!」
ギガントシャークが、またもや回避する。しかし、今度はMPがぐんと減る感覚があった。
名前:山本春重
種族:人間
年齢:38
状態:通常
LV:121
所属:NO NAME
HP:3207/3207
SP:2730/3340
スキル:『万物支配』『鑑定』『精神耐性』『ナイフ(LV4)』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『闘志』『直感』『両手剣(LVMAX)』『空間跳術(LVMAX)』『極限適性』『毒耐性』『体術(LVMAX)』『反応速度向上』『痛覚耐性』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『空腹耐性』『鳥獣特効』『水泳(LV4)』
――――当たったのか!?
「いや、違う」と、春重の本能が否定した。ギガントシャークが、ついさっきまでいた方向。そのさらに向こうに〝それ〟はいた。
名前:
種族:マッハドルフィン
年齢:
状態:命令待機中
LV:115
HP:2541/2541
SP:0/0
スキル:『突進(LV9)』『危険感知(LV8)』『索敵(LVMAX)』『水泳(LVMAX)』『エコーロケーション(LVMAX)』
どうやら、あのイルカは、遠くから戦いを見守っていたらしい。
悪いことをしたと、春重は内心謝罪する。しかし、今はそれどころではない。
「さがれ!」
桜子が叫ぶ。
春重と真琴は、すぐに桜子の背後に移動する。
突進の構えを取るギガントシャークに対し、桜子は、一度納刀した。そして、瞳を閉じ、意識を集中する。
こちらから追っても、ギガントシャークの速度には追いつけない。ならば、向こうが攻撃を仕掛けてくる、その一瞬しか、攻撃の機会はない。
ギガントシャークが突っ込んでくる。桜子は、目を見開いた。
――――九重流居合、大輪桜火。
すれ違いざまに、桜子の刀が走る。その刃は、ギガントシャークの肉体を深々と斬り裂いた。
名前:
種族:ギガントシャーク
年齢:
状態:通常
LV:143
HP:2188/3487
SP:0/0
スキル:『噛みつき(LVMAX)』『突進(LVMAX)』『硬質化(LVMAX)』『危険感知(LV5)』『水泳(LV9)』『水砲(LV8)』
一気に千以上のHPを削られ、ギガントシャークが悶える。
真琴が、その隙を狙って、矢を放った。空気を噴射する矢が、ギガントシャークに立て続けに命中し、ヒレを一枚破壊する。それによって、ギガントシャークの動きが大きく鈍った。
――――今なら。
春重は、再びギガントシャークに手をかざす。
「『支配』!」
大きくMPが減る感覚。今度こそ、ギガントシャークに『支配』をかけることができた。
名前:山本春重
種族:人間
年齢:38
状態:通常
LV:121
所属:NO NAME
HP:3207/3207
SP:1980/3340
スキル:『万物支配』『鑑定』『精神耐性』『ナイフ(LV4)』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『闘志』『直感』『両手剣(LVMAX)』『空間跳術(LVMAX)』『極限適性』『毒耐性』『体術(LVMAX)』『反応速度向上』『痛覚耐性』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『空腹耐性』『鳥獣特効』『水泳(LV4)』
ギガントシャークが、春重たちを睨む。
これまで通り『支配』が機能するまでは、やはりタイムラグがある。
おそらく、一分から一分半。その間は、ギガントシャークを退けなければならない。
「油断するなよ」
春重は、そう言って大剣を構える。
ギガントシャークが、大きく体を仰け反らせ、口の中に水を溜め込んでいく。最初に撃ってきたビームを、再び放とうとしているらしい。
しかし、先ほどは簡単にかわすことができた。掠っただけでもダメージを負う突進と比べたら、そこまで脅威ではない。
水のビームが放たれる。春重たちは、余裕をもって、ビームをかわした。
――――ギガントシャークは、その瞬間を待っていた。
ビームを避けるために、春重たちが散開する。それによって、春重が孤立する一瞬を突いて、ギガントシャークは最後の突進を仕掛けた。
圧倒的質量が迫りくる中、春重は、ふっと笑う。
やつが自分を狙っていることなんて、とっくに気づいていた。何故なら、ギガントシャークはずっと、春重だけを睨みつけていたから。
ギガントシャークは、春重もとい『万物支配』を脅威と見なしたようだ。それが本能によるものなのか、それとも、知る機会があったのか。やはりそれは、誰にも分からない。
今考えるべきなのは、そこじゃない。ギガントシャークに狙われているのなら、桜子のように、カウンターを入れるチャンスでもある。
春重は『集中』スキルによって、意識を研ぎ澄ます。それから『極限適性』『一騎打ち適性』を発動する。それによって、春重の身体能力が大きく向上した。
極めつけに『直感』と『反応速度上昇』によって強化された反射神経が、剣を振るタイミングを的確に教えてくれた。
「〝ギャラクシーセイバー〟ぁああああ!」
春重は、ギガントシャークの突進に合わせて、光り輝く大剣を振り抜く。
肉を裂く感触が、剣を通して伝わってくる。それと同時に、ギガントシャークの皮膚が、春重の肩を削いだ。




