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スキル【万物支配(ワールドテイム)】に目覚めたおっさんは、ダンジョンで生計を立てることにしました~無職から始める支配者無双~  作者: 岸本 和葉


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第六十話 水中

「ここは、思い切って進んでみるのはどうだ?」

「……そうだな。下手に消耗する前に、さっさと抜けたほうがいいかもしれない」


 春重は、丹波を見た。目が合うと、丹波が大きく頷く。


「丹波さんは、常に『隠密』をかけた状態で、ついて来てください」

「おう……! 悪いが、戦闘は任せたぜ」

「はい。エルヴァーナは、丹波さんが戦闘に巻き込まれないよう、そばにいてくれ」


 春重がそう言うと、エルヴァーナは肩を竦めた。


「はぁ、仕方ないのう。タンバ、食パンの約束忘れるなよ」

「わーってるって!」


 エルヴァーナがいたら、戦いの余波が丹波に向かっても、なんとかしてくれるだろう。

 春重、真琴、桜子は、互いに状態を確認し、頷き合う。


「――――行こう」


 春重は、水の壁に飛び込んだ。

 水の中は、とても冷たく、暗い。そして何より、ひどく静かだ。泳ぐたびに、水が耳元を流れていく音しか聞こえない。まるで深海を思わせるような環境は、身がすくむようだ。

 しかし、ここまで来て引き返すわけにもいかない。仲間がついてきているのを確認して、春重は前に進む。

『水泳』スキルの恩恵を、ありありと実感する。陸を歩くのと変わらない速度で、好きな方向にすいすいと進める。『水中呼吸』スキルのおかげで、呼吸も地上にいるときと変わらない。

 水の中での動きに徐々に慣れてくると、水が肌に触れる感触が、心地よく思えてきた。周囲には、敵の気配もない。このまま抜けられるかと思った矢先、やはり、そんなに上手くいくはずもなく――――。


「……っ!」


 春重の『索敵』スキルが反応する。ハンドサインを出すと、後続の者たちが歩みを止めた。

 直後、目の前を何かの影が横切る。

 驚きで、口から空気の泡を吹きながら、春重は身構えた。その影は、目の前で旋回し、春重たちの前で止まる。

 丸みを帯びたフォルムに、三角形の背びれ。瞳はつぶらで、なんとも愛くるしい。


 ――――イルカ?


 どこからどう見ても、そうだった。

 イルカは、水の中でも聞こえるほど高い声で、きゅいきゅいと鳴く。そして、目を細めながら、春重にすり寄ってきた。

 春重は、混乱しながらも、イルカに『鑑定』をかける。

 

 

名前:

種族:マッハドルフィン

年齢:

状態:通常

LV:115

 

HP:2541/2541

SP:0/0


スキル:『突進(LV9)』『危険感知(LV8)』『索敵(LVMAX)』『水泳(LVMAX)』『エコーロケーション(LVMAX)』



 ――――一応、モンスターなのか?


 春重は、イルカのステータスを眺めながら、首を傾げる。

 背中には、仲間たちの視線が刺さっていた。どうするつもりなのか問われているということは、言葉がなくても分かる。

 しばらく考え、春重は武器を下ろした。そして、そっとイルカの頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細めたイルカは、またきゅいきゅいと鳴いた。

 あまりにも可愛い。このまま連れて帰りたいという衝動に襲われる。しかし、そんな手段があるはずもなく――――。

 ふと、春重の視界の端に、何かが映る。

 それは、巨大な鳥の頭部のような形をしていた。春重は、とっさに『鑑定』をかける。



名前:怪鳥ウィンドマスターの頭部

種別:加工用アイテム

状態:未加工


HP:260/700



 ぞくっと、寒気が走る感覚があった。


 ――――この先にいるフロアボスは、風を自在に操る怪鳥らしい。


 桜子が言っていた言葉が、春重の脳裏に過る。

 あの頭は、本来のフロアボスである怪鳥のものだろう。頭の片隅には、ずっとあった。百三十階層が水中に呑み込まれたのなら、フロアボスはどうなったのだろうと。その答えが、今、目の前にある。

 アシュラオーガが、エルヴァーナに蹂躙されていたように、この水中にいる何者かによって、やつは食い破られたのだ。

 そのとき、再び春重の『索敵』スキルが反応する。

 それと同時に、イルカが物凄い勢いで春重から離れていった。レベル100を超えるモンスターが、一目散に逃げていくほどの状況に、春重は猛烈に嫌な予感を抱いた。

 何かが蠢く音がする。その音は、少しずつ、そして確実に、春重たちのもとに近づいてくる。

 春重は、戦闘準備のハンドサインを送り、剣を構える。

 そして、それ(・・)は現れた。

 ゆっくりと近づいてくる、巨大な影。視界に捉えきれないほどの図体に、人間など容易く丸飲みできるほどの、大きな口。すべてのヒレが、刃のように鋭く、その冷たい瞳は、春重たちを矮小な獲物としか認識していなかった。



名前:

種族:ギガントシャーク

年齢:

状態:通常

LV:143

 

HP:3487/3487

SP:0/0


スキル:『噛みつき(LVMAX)』『突進(LVMAX)』『硬質化(LVMAX)』『危険感知(LV5)』『水泳(LV9)』『水砲(LV8)』



 ――――まさかこいつ……! 新しいフロアボスか?


 これまでのモンスターとは一線を画すレベルと、強力なスキル。

 動揺する間もなく、ギガントシャークが、春重たちに向かって大きく口を開く。


「ぶるヴぉ!」


 思わず「来るぞ!」と叫んでしまったが、果たして伝わっただろうか?

 次の瞬間、ギガントシャークの口から、水のビームが放たれた。春重たちは、散開してそのビームをかわす。

『水泳』スキルをしっかり上げて良かったと、春重は心底思った。あれに当たったら、いくら装備があるとはいえ、重傷は免れないだろう。

 真琴が、ギガントシャークに向かって矢を放つ。

〝ジェットアロー〟――――空気を噴射し、高速の矢で敵を穿つ技である。

 彼女の放った矢は、水中でも威力を落とすことなく、ギガントシャークへ向かっていく。

 しかし、ギガントシャークは、目にも留まらぬ速度で動き、真琴の矢をかわした。


「速(ばや)っ!?」


 真琴が、空気と共に声を漏らした。

 まさか、矢を回避できるほど速く動けるとは予想しておらず、春重たちに衝撃が走る。

 ギガントシャークは、水中でぐるんと体を捻ると、高速で突っ込んできた。やつがターゲットに選んだのは、桜子だった。


「ぐっ……」


 ギガントシャークの突進攻撃を、桜子はとっさに回避する。かろうじて、直撃は避けた。しかし、ギガントシャークの体が、わずかに桜子の腕に掠る。


「――――なるほど(ばるぼぼ)」



名前:九重桜子

種族:人間

年齢:24

状態:通常

LV:159

所属:NO NAME

 

HP:3598/3802

SP:3780/3817


スキル:『太刀(LVMAX)』『鑑定』『精神耐性』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『反応速度向上』『直感』『空間跳術(くうかんちょうじゅつ)(LVMAX)』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『体術(LVMAX)』『毒耐性』『痛覚耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『闘志』『鳥獣特効』『水泳(LV4)』



 桜子は、顔をしかめながら、皮膚が抉れた腕を見た。ダメージとしては、二百ほど。掠っただけにしては、なかなかの威力である。

 鮫の体は、楯鱗(じゅんりん)と呼ばれる硬い鱗に覆われている。歯と同じ材質であることから〝皮歯〟とも呼ばれ、触れるとやすりのようにざらざらしているのが特徴である。いわゆる、鮫肌というものだ。

 ギガントシャークの楯鱗は『硬質化』のスキルによって、さらに硬く、そして鋭い。ヒレだけでなく、もはや全身が、触れるだけで肉を削ぎ落すほどの刃となっていた。

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