第66話 大会準備5 魔眼のラミア
前回のあらすじ
アース登場→共存→ラミア従魔立候補
「私が! 私が、行きます!」
リザードマンの村長の家。エルクとラミアの長の会話を聞いていた1人のラミアが、群れの中から力強く名乗りを挙げる。それは、他の者とは違う妖しい光を宿した『魔眼』を持つラミアだった。
「お前、何を言っている! 行くのならば、群れの責任者であるこの私か、もっと戦える者が行くべきだ!」
長が慌てて止めに入る。ラミアの数は先の戦いで大きく減っており、1人1人が種族の存続に関わるほど重要だ。おいそれと若者を差し出すわけにはいかない。
しかし彼女は静かに、だが決して譲らないという強い意志を込めて首を横に振った。
「いいえ、長。私の『魔眼』が、そうすべきだと告げているのです」
「魔眼が……? なんかすごい能力なの?」
エルクが首を傾げると、彼女は美しい顔をエルクへ向け、その妖しく渦巻く瞳でまっすぐにエルクの目を見つめ返した。
「私の眼は、ほんの少し先の未来を視ることができます。……エルク様。あなたのそばにいる未来だけが、ただ一つ、途切れていないのです」
「途切れてない?」
「はい。あなたが中心にいる時だけ……皆が笑い、生き残る未来が見えるのです。もし私たちがここであなたと別れれば、遠くない未来、私たちは深い絶望に飲まれる……。どうか、私を連れて行ってください」
「重っ!? なんか理由がすごい重いんだけど!」
横で聞いていたクラウが思わずツッコミを入れるが、彼女の表情は真剣そのものだ。
「お願いです、エルク様。あなたの力になりたいのです」
「そっか。まぁ、俺は別に無理にとは言わないけどさ。君が俺たちと一緒に来てくれるって言うなら大歓迎だよ。これからよろしくね」
「はい……! ありがとうございます、私の主様!」
エルクがあっさりと頷くと、彼女は深く頭を下げた。長も、彼女がそこまで言うのならとため息をついて引き下がった。
「じゃあ、君の名前は……『メア』でどうかな?」
「メア……! 素晴らしいお名前です。この命に代えましても、主様のために――」
メアが忠誠を誓おうとした、その瞬間だった。
エルクの生まれ持った固有能力が発動し、メアの身体全体が眩いほどの淡い光に包み込まれる。
「うおっ!? なんだ!?」
「エルク! お前またか! また規格外のテイムしたのか!?」
「いや、俺はただ名前を呼んだだけで……って、うわあ」
光が収まると、そこにいたのは先ほどまでの姿とは比べ物にならないほど神々しい気を放つメアだった。下半身の蛇部分はよりしなやかに艶を増し、上半身はより人間に近い絶世の美女へと進化を遂げている。
「おぉ……なんかスッキリして、より人間に近い見た目になったな」
「いや問題はそこじゃないだろ! なんか背筋が凍るような魔力を感じるんだけど! 特にその目!」
「え? そう? でも、ウルやドラゴみたいにデカくないし、これなら大会に出しても目立たなそうだし、ちょうどいいじゃん。よし、大会の相棒はメアにしよう!」
「いやいや絶対目立つって! その神々しさで目立たないわけないだろ!」
「主様……この力、全ては主様のために振るいましょう」
「うんうん、よろしくね。殺傷は禁止だからね?」
クラウの必死のツッコミを華麗にスルーし、エルクはメアの頭を撫でた。
・・・・・
「おまたせー! じゃあ早速ウーゴにお願いして、みんなの家を作ってもらうね!」
村長の家から外へ出たエルクたちは、広場に集まっていたリザードマンたちや、様子を見に来ていたウルやドラゴたち従魔と合流した。
エルクが呼び出すと、ウッドゴーレムのウーゴが地面からヌッと現れ、凄まじい速度でラミア用の家を建築し始めた。湿地帯の木々を器用に組み上げ、あっという間に立派な住居が完成していく。
「すごい……何度見ても規格外ですね、ウーゴちゃんの建築スキルは」
「ウーゴちゃん、おうち作るのほんと上手! 私も住みたーい!」
「エネちゃんにはちょっと湿気が多すぎるんじゃないかな?」
ソウが感心し、エネが目を輝かせ、メルが苦笑いする。
そんな平和な光景を見つめながら、ソウがふと真面目な顔で眼鏡の位置を直した。
「……でも、すごいことですよ。こうして、本来なら相容れない異種族同士が争わずに共存する場所を作れるなんて。これこそが、僕たち『モンスターの国研究会』が学園や王都に示すべき理想の形です」
「あぁ! その通りだ!」
ソウの言葉に、クラウが力強く頷き、エルクの肩をバンッと叩く。
「エルク! やっぱり春の大会は、俺たちにとって重要な意味があるぞ! ただの武術や魔術の自慢大会じゃない。俺たちが王都の連中の前で結果を出して、モンスターは共に生きる存在なんだってことを証明してやろうぜ!」
「そうだね! 私たちも頑張ろう!」
「えぇ……。俺は適当に負けて、目立たずにさっさと終わらせたいんだけど……」
熱く燃え上がる研究会メンバーたちを前に、エルクは心底面倒くさそうにボヤいた。
すると、進化したばかりのメアがエルクの隣にすり寄り、妖艶な笑みを浮かべる。
「主様の実力、そしてこの私に与えてくださった力……! 王都の愚か者たちに、たっぷりと見せつけてやりましょう! 主様に敵対する者は、私の魔眼で全て石に変えて砕いてみせます!」
「いや、だから殺傷は禁止だってば! 石にしたらダメだからね!?」
・・・・・
「それじゃあ、俺たちはそろそろ学園に戻るね。レオル、ラミアのみんなのことよろしく。ウルたちも、仲良くするんだよ」
「ははっ! お任せを!」
『グルル……』
ウーゴの仕事が一段落し、いよいよ春の大会に向けて帰還する準備を始めていた時だった。
エルクの隣に立っていたメアが、不意にピタリと動きを止め、茜色に染まる空を見上げてカッとその魔眼を見開いた。
「メア? どうしたの?」
エルクが声をかけるが、メアの顔からは先ほどまでの余裕が完全に消え失せ、真っ青になっていた。全身がガタガタと小刻みに震えている。
「主様……視え、ました……」
「視えた? 何が? 今日の夕飯のおかず?」
「そんな呑気なものじゃありません……っ! 春の大会の日。……空が、裂けます」
メアの絞り出すような声に、クラウやソウたちの表情が一気に強張る。
「空が裂ける……? どういうことだ、メア!」
「分かりません……。ただ……闘技場の上空が真っ黒に裂け、そこから……おぞましい絶望の大群が降り注ぐ光景が……視えました。血と、悲鳴と……」
「絶望の大群……モンスターの襲撃ってことか?」
「いや、王都のど真ん中でそんなこと起きるはずが……でも、メアさんの予知なんだよね……?」
クラウとソウが顔を見合わせ、メルとエネも不安そうに身を寄せる。
メアの予知が決して外れないことは分かっている。だからこそ、その場にいる全員の間に冷たく重い沈黙が落ちた。
「……そっか」
エルクは少しだけ目を細め、メアが見つめていた空を静かに見上げた。
「エルク……どうするんだ? もし本当にそんなことが起きたら……」
「どうするって、別に。俺たちの目的は大会に出ることだし、予定は変わらないよ」
「でも……っ!」
「大丈夫だって。もし空が裂けたら、俺がテープでも貼って塞いでおくから」
「物理でどうにかなる問題かよ!」
エルクの軽口にクラウが突っ込み、少しだけ場の空気が緩む。
(……まぁ、超面倒なことにならないといいけど)
表面上はいつものんびりとした青年のままである。
しかし、その瞳の奥には、自分でもまだ気付いていない微かな、しかし確かな『怒り』の火種が燻り始めていた。
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