第53話 見張り番
前回のあらすじ
グレムリンを保留→クラウ達と合流→リザードマン救出
約20体のリザードマンが固まって拘束されていたところにエルク達が到着し、次々と拘束を解き回復を施して助けていった。その中には戦士隊長の姿もあり、抵抗したのか体中が傷だらけであった。
『すまない、助かった』
戦士隊長の第一声が感謝の言葉であった。エルク達はここで何が起きたのかを知らないため、いろいろと聞きたいのだが、隊長以外のリザードマンもいるため先に村へ帰る準備をしていた。
戦士隊長は拘束を解かれ、集まっているリザードマン達に説明をしに向かう。その間にエルクはクラウ達と相談してこの迷いの湿地を安全に抜けるための作戦を立てていた。
作戦といっても集団の先頭にエルクとリザードマンの戦士隊長、リザードマンを囲うようにクラウ達と従魔を配置するだけの配置決めをしていただけである。最初はクラウ達が前で後ろをエルクが担当するという案が出たが、先頭が詰まってしまえば囲まれるのも時間の問題ということになり、リザードマンをいち早く逃がすために先頭には道を切り開けるエルクが適任となった。戦士隊長はリザードマンの誘導役だ。
軽い作戦会議を終えエルクはリザードマンの集まっているところに向かう。
『だから! 言っているだろう! あの人間がここに来たということは既にあの化け物は居ないはずだ!』
『そんなはずは無い! あれを人間が倒せるわけが無いだろ!』
エルクが近付いていくにつれ、なにやらリザードマン達が争っているのが聞こえてくる。
「どうかしたんですか? 言い合いしているみたいですけど?」
エルクが戦士隊長に何を争っているのかを聞く
『いや、さっきまでこの辺りで我々を見張っていた化け物の話をしているのだが、倒してくれたのであろう? それを皆が信じなくてな、言ってやってくれないか?』
「化け物?」
戦士隊長の言う化け物が何なのかエルクにはさっぱり分からなかった。そんな顔をしていれば、リザードマン達にも分かる。まだリザードマン達の言う化け物が倒されていないことが
『まさか、まだ生きているというのか!?』
『やべぇよ! 早く逃げないと!!』
『こ、今度こそ殺される!』
戦士隊長の驚く声を聞いた途端リザードマン達が一斉に怯えだす。
「え? 何何?? 化け物って何!?」
リザードマン達の怯える様を見て、そんなに危ない奴がこの近くにいると思うとエルクも少しずつ焦りだす。焦りながら戦士隊長に化け物の存在について話を聞く
『私がここに連れてこられてから化け物と戦った。そいつの攻撃は全てが速く強かった。私が遊ばれるくらいには力の差があったのだ』
「ど、どんなやつ?」
『簡単に言うとドラゴンだ。しかしドラゴンではない。なんせ頭が6個もあるからな、他にも』
「頭が6個!? どんなモンスターだよ!」
戦士隊長が言う化け物の情報で頭の数が6個あるということを聞いただけでエルクは話を止めてしまった。ドラゴン並みのモンスターの頭部が6個、どんなモンスターなのかエルクは想像しているが、どう考えても不恰好になってしまって、強そうには思えなかった。
「でも、今は居ないんでしょ? ならさっさとここを離れた方がいいよ!」
『そう言っているんだがな。この辺りから動けば問答無用で殺されると思い込んでいてな』
「仕方ないな~ 皆! 今すぐここを離れられないと化け物が結局ここに来るよ! いいの!?」
戦士隊長の話を聞かないリザードマン達にエルクから声を出すが、戦士隊長の言葉で動かなかった者がエルクの言葉で動くはずも無く、リザードマン達が動き始めるのに時間が掛かっていた。
「エルク! 大変だ!」
少し離れた場所からクラウがエルクを呼ぶ。クラウ達の居る場所で何かが起きたらしい。
「どうしたの?」
「いや、向こうを見てくれ!」
エルクがクラウの元まで駆け寄って話を聞こうとしたが、その前にクラウが帰る方向に指を指す。
「ん? よく見えないな? ん~? ん!?」
エルクが目を凝らして霧の向こう側を観察していると、一部だけやけに黒く影のようになっている。その影の大きさはトロールよりも、ドラゴよりもでかい。しかも上の部分は枝分かれしているようで、グネグネと動き回っている。
「まさか! これが言ってたやつか!?」
「どうしたエルク!?」
「さっきリザードマン達と話をしているときに聞いたんだ。この辺りでリザードマンが逃げないように見張っている奴がいたって、頭が6個ある化け物だって!」
影の形から考えてリザードマンから聞いたモンスターに違いないと考え、エルク達は急いでリザードマン達の元に駆け寄った。
「さっき言ってた化け物! こっちに向かってるよ! 急いで!」
『なんだと!? 早く準備しろ!』
エルクがリザードマン全員に聞こえる声でモンスターの接近を伝える。それを聞いた戦士隊長がリザードマン達を急かすように動き回っている。しかし
『もう終わりだ……』
『あの化け物には勝てるわけが無い……』
『ごめん……皆……』
一部の気の弱いリザードマン達がモンスターの接近を聞いた途端に準備の手を止め、力なくその場にへたり込んでしまった。
このままでは、戦わずして逃げれるところをわざわざ戦わなくてはならなくなる。幸いなことに接近してくるモンスターは体が大きい割りに移動速度は遅いようで、接敵するまで少しの時間があった。
その時間を使って、なんとかリザードマン達を歩かせようと様々な言葉を送ったが、エルクの言葉、戦士隊長の言葉は右から左に受け流された。準備していたリザードマンは、へたり込んでいるリザードマンを見て、逃げ切れないと考える者が増え、その場に無気力状態で立ってしまう者が出始めていた。
「エルク! どうなってる!? リザードマン達が動こうとしないぞ!」
「気持ちがやられちゃってるよ、直るまで時間がかかりそうなやつだ」
動こうとしないリザードマンを見てクラウが心配になってエルクに話しかける。しかし、エルクにできることはなく、クラウに返す言葉が出てこなかった。
『すまない。君達だけでも行ってくれて構わない』
戦士隊長がエルクに向かって言う。それに対してエルクは
「いいや、僕たちも残るよ。ここまで来たんだし最後までちゃんとつれて帰らないとダメでしょ!」
『遊びじゃないんだ! 確かに君達は強い。だが奴には勝てるかどうか分からないんだぞ!』
「なら、なおさらリザードマン達を置いて帰れないよ」
『まったく、変な人間だよ! 君達は____』
ドスンッ! ドスンッ!
「おい、エルク! あれって!」
大きな音を立てつつエルク達に近付いてくるモンスター。今度は影ではなく、はっきりとではないが体が見え始めていた。
通称ヒュドラ、大きな体格を持ち、頭部の数が4~7個あるといわれ、その頭部1つ1つからは別のブレスや魔法が放たれるという。基本的には沼地に生息しており、生息数は僅かしか居ないとされる。
「こりゃすごいや…… これが、本物のヒュドラか……」
遠くに見えていた黒い影は既に目に見えるところまで近付いてきていた。
『これが私を、リザードマンをここから逃げれないように見張っていた化け物だ!』
戦士隊長が腰にある剣を取り構える。それに続いてエルク達も従魔達も次々とヒュドラの攻撃を待ち構える状態になった。
「グギャアァァ!!」
ヒュドラが身構えているリザードマンとエルク達を見て叫びだす。
エルク達の後ろに居るリザードマン達は震え上がってしまい誰1人として武器を手に持つ者はいない。ヒュドラと戦う覚悟があるのはエルク達と戦士隊長のみであった。
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