第47話 別行動 男性陣
前回のあらすじ
女性陣の動き→バジリスク襲来→テイム
~エルク達~
メル達と別れ、別行動になった矢先の出来事であった。
ラネが指を指した先に見える人影、近付いてみるとやはり人間。性別は男で、年齢はエルク達よりも5~10個上位。服装は軽装だが、上下の至るところに武器や道具を引っ掛けることができ、サバイバルに向いている服装である。そんな男は虚ろな目をしていて、ただその場に立っているだけである。
「エルク、どうする?」
「怖いな~ でも、とりあえず話しかけてみるしかないよね」
意を決して、エルクとクラウは怪しい人物に近付いていく。
「あの~」
「……」
「大丈夫ですか?」
「……」
「不気味ね」
エルクとクラウが話しかけようとするが、反応が無い。一体この人間はどこから来たのか、なぜここに居るのか。何を聞いても反応が無いため、助けようにも助けることができない。
「冒険者っぽいし、ここに迷い込んだ人間って訳じゃ無さそうだよな」
「冒険者…… エネの兄も冒険者って言ってたよね。その人の特徴効いておけばよかったな~」
「……ぇ……ね……」
「え? エルク、今」
「聞こえたよ!」
エルクとクラウの2人とも、目の前の男に反応があったことを確認しあい、確信する。
「もしかするとこの人がエネの兄なんじゃないか?」
「そうかもしれない! すぐにエネに知らせなきゃ! でも、その前にこの人どうにかしないと!」
エルクの転移魔法は転移する対象の同意が必要である。木や石といった物には必要ないが、生物に対しては同意が無いと転移魔法の対象に選ぶことができないのだ。
「どうにかするって言っても、どういう状態なんだ?」
「ん~全然分かんないな~」
「私も知らないわよ!」
エネの兄らしき人物は魂の抜けた体のように反応が無い。唯一反応することはエネに関する話をしている時だが、ただ名前を呼ぶだけで、他の反応はしない。
「とりあえずこの人を運びながら来た道を戻るか」
「そうだね、エネに会わないとこの人が本当に兄なのか分かんないしね」
幸いエネ達と別れてすぐの場所だったため、戻ればエネに会うことができるだろうと考えたクラウは戻ることを提案する。それに賛成し、来た道を戻るエルク達だったが
「この辺だったよな、霧が薄くなる場所って」
「この辺だと思うけどな~ もう少し進んでみよう」
明らかに先程と違う状況になっていた。エルク達が別れる前には霧が薄く、少し離れた場所まで肉眼で確認出来ていたが、今はどこも同じように霧につつまれており、視界が非常に悪い。別れてから進んだ道と戻ってる道の距離がおかしいことにクラウ達は疑問に思い始めていた。
「おかしいよな?」
「おかしいよ! もう明らかに進んだ道より戻った道の方が長いもん」
「エルク! これ見て、これって!」
クラウとエルクが異常に気付き、困惑しているところで、ラネがある物を見つけてしまう
「え! 嘘でしょ!?」
「どうしたエルク?」
それを見たエルクは驚き、クラウはどういうことなのか分かっていない。エルクとラネが見つけたのは
「おいエルク、この糸がどうかしたのかよ?」
糸である。何かの目印かのように木々に括り付けられた糸。その意味を知るものがここに2人も居る。
「これ、ラネの糸だよ」
「は? どういう意味だ?」
「何者かに僕達は転移させられたって事だよ!」
エルクとラネは一度ここで迷い、その対策としてラネの糸を張り、探索範囲を広げようとしていたのだが、結局エルクの転移によって無事合流することができたのだ。そのときに至るところに張り巡らせた糸であった。
「確かに、そうでもしなければいきなりエネの兄が現れるなんて有り得ないよな」
「言われてみれば!」
クラウはメル達と別れてすぐの場所でエネの兄が立っていることを不思議に思っていた。こんな近くにいれば探索している最中に見つけることが出来たはずであるが、なぜ見つからなかったのか。その理由は今現在居る場所は先程居た場所とは全く別の場所ということだからである。
いつ転移したのか、そもそも転移魔法は相手の同意が必要ではないのか。という疑問がクラウの頭の中でループする。
「エルクは一度ここに来たことがあるんだよな?」
「あるよ、その証拠にラネの糸がそこら中の木に括り付けてある」
「転移魔法で跳ばされたって解釈するが、転移魔法は同意しないとダメなんじゃないのか?」
「そのはずなんだけど、転移魔法じゃない何かで跳ばされたって考えた方がいいかも」
エルクとクラウは意見交換をしつつ湿地を進む。謎に包まれたこの迷いの湿地では、様々な憶測が飛び交う。そのどれもが有り得そうで、エルクとクラウは余計に悩みを増やすことになる。
「これじゃ埒が明かないな、とりあえずエネの兄さんを元に戻す方法を考えよう」
「そうだね。考えても答えは分からないもんね~」
一旦悩みの種を置いておき、先ずはエネの兄を元に戻す方法を探ることにするエルク達は歩きながら治す方法について考えていた。
「こんな状態異常聞いたことがないぞ」
「僕もだよ。なんだか、魂が抜けたみたいな」
転移させられた方法も、エネの兄の状態についても情報が少なすぎるため、どうしたらいいのか結論が出ない。そんなとき霧の向こう側に小柄な影が
「その人間は記憶を旅している」
霧の向こうから声がする。その姿は霧の所為ではっきりとは見えないが、エルク達よりも身長は低く、明らかに人と違う部分があった。そんな相手を警戒しないはずは無く
「誰だ!?」
クラウがいち早く反応し、エネの兄の前を塞ぐ。エルクはこれに続き、クラウ達の前に出る。
「君は誰? 何をしに出てきたの?」
エルクが影に問いかける。
「私の存在はどうでもいいだろう。まずはそこの者をどうにかしたいのではないのか?」
「どうにかできるのか!?」
クラウが驚くような声をあげ、聞き直す。
「私がその状態にしたのですから、もちろんできます」
「なっ!?」
「なんでこんなことを?」
クラウが敵意を出した瞬間にエルクがクラウを止め、前に出て話を続ける。
「そうでもしなければこの湿地で死んでしまうからですよ」
「意味が分からないよ?」
「そこの人間はこの湿地にはまだ早いということです。ここには数多くのモンスターが生息していましてね。そのモンスターのどれもが厄介な能力を持っています。そんなモンスターに見つかってしまえばそこの人間では太刀打ちができない、ということですよ」
「なら、なんでこの状態で放置したのさ」
「私の能力は敵意を持つ者を無意識に遠ざけるというものがありましてね。それをその人間に掛けておいたので、モンスターに襲われる心配は無いかと」
影の主がエネの兄をこの状態にしたという。しかも、それは悪意のあるものではなく、エネの兄を守るためにやったことだという。
「さっきから話を聞いていれば、それが真実かどうかも分からないこの状況で、信じれるか!」
「信じるも信じないもあなた次第ですよ。ただし、その人間は私以外に治せると思いませんがね」
「クラウ! 落ち着いて!」
「私は信じてもいいと思うわ」
クラウの言うことももちろんだが、それに反対するかのようにラネがエルクとクラウに向かって言う。
「ラネ?」
「どういうことだ?」
「私にはあの者の姿が見えているものあれは人間に敵対するような者じゃないわ」
エルクとクラウは人間であり、この濃い霧の影響で視界が悪く数メートル先までしか見えないが、ラネはアラクネ。人間よりも目の数が多く、その視界も人間よりも広い。そのため、影の主がどんな奴なのかが分かるという。
「何者なんだ?」
「人間に敵対しない?」
「そうよ、出てきたらどうなの? 妖精さん?」
エルクとクラウはラネの発言に耳を疑っていた。妖精種はこの世に数十といないとされる希少な種族であり、人間の前に姿を現すのは数百年に一度と伝えられているからだ。
「私のことを知っているのか、賢いアラクネだ。ばれているのでは仕方が無い」
そういって霧の向こうから現れたのは人間の子供と同等かそれ以下の身長しかなく、背中には翼が生えており、宙を浮いている。
「さて、自己紹介をしよう。私の名は____」
本物の妖精種が現れたことにより、エルクの目は輝き、クラウは先程の発言もあり呆然としていた。
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