第43話 迷いの湿地
前回のあらすじ
リザードマンの村到着→リザードマンの長→迷いの湿地出発
エルク達はリザードマンの頼みにより迷いの湿地に向かっていた。
迷いの湿地は、その場所で生まれてくるモンスター以外はまず近づくことがない。王都グラウンの図書館にも、学園の書物の中にも詳しい記載は無く、その場所がどんな所なのか知られていない。それでも、極僅かの人間が足を踏み入れることがある。その中の1人が冒険者をやっていたエネの兄であった。冒険者が迷いの湿地に行くということは、そこに何かがあるはずだという期待を持って行く者がほとんどである。
「……」
エルクは迷いの湿地で人は死なないとリザードマンの村に居たモンスターに言われた。疑問に思うことがいくつかあったが、それを聞いてはいけないような気がして聞きそびれてしまった。
『___い。おい! 聞いているか?』
「っえ!?」
『聞いていなかったか、もうすぐ着くぞ。皆にも伝えてくれ』
「あ、ごめん。ありがと」
「どうしたんだ?」
「ん? あ、いや、もうすぐ着くってさ!」
「何か考え事でもしてるの?」
クラウとメルはエルクが村を出てからあまり話しに参加してこなかったために、心配していた。エルクはただ考え事をしていただけだが、変に心配をかけてしまったようだ。
「なんでもないよ! それよりも、ここからだよ! エネ!」
「はい! 絶対に見つけましょう!」
「……行くぞ~」
そして、リザードマン戦士隊長の足が止まる。
『ここが迷いの湿地と呼ばれている』
「すごい霧だね~ 離れないように気を付けないとだよ!」
迷いの湿地に到着するが、近付くにつれてだんだんと霧が濃くなってきていたが、戦士隊長が足を止めた場所では、10メートル先は何も見えない程霧が濃くなっていた。もし、こんな場所に1人で来たとすれば、進んでいるのか、戻っているのかも分からずにこの霧の中を彷徨うことになるだろう。この霧では方向音痴ではなくても、方向が分からない。
「皆! 離れないでよ!?」
「大丈夫だ!」
「ここで離れたら怖すぎるわ」
「お兄ちゃん……」
「エネ。大丈夫だよ!」
エルク達は霧の中をただまっすぐ、ひたすらまっすぐに進んでいた。この霧の中を散策するように歩いていては、戻る道がどの方向か分からなくなってしまうためであるが、すでに、まっすぐ進んでいなかった。
「クラウ居る!?」
「あぁ! 大丈夫だ! メルもエネもソウも居るぞ!」
「戦士隊長は!?」
「……」
リザードマンの戦士隊長に話し掛けるが、返事が無い。まるで近くに居ないかのように。
「ッ!? クラウ! 戦士隊長そっちに居る?」
エルクは少しだけ焦ったようにクラウに問いかける。
「……」
返事が返ってこない。
「ウル! スラ、ライ、ラネ! 周囲の警戒!」
『任せろッス!』
『分かりました』
「ねぇエルク? なんだかこの辺り変よ」
そして、現在の状況に気付く。エルクの周りにいるのは、肩に乗っているスラとライ、真後ろを歩いていたラネ、のみである。
「どうなってるの? まっすぐ歩いてただけなのに」
『エルクの兄貴! 若干だけど、魔法の痕跡があるッスよ!』
『そうですね、どうやらエルクさんの周りに居た僕達は湿地のどこかに跳ばされたようですね』
「だからさっきと雰囲気が違うのかしら」
「跳ばされた? 誰に?」
『分かりません』
ライ曰く、エルク達はこの迷いの湿地に住む何者かによって、先程居た場所ではないところにとばされてしまったようだ。対象物または生物を転移させる魔法、そんな魔法を使う者がこの湿地に居るということが分かる。その何者かだけで十分に危険な場所へとエルクの認識は変わっていく。
「ウルが近くに居ない、ある程度の位置は掴めるけど、難しいな」
こんな霧の中でも、従魔との繋がりは有効であるそうで、ウルと離れてしまったエルク達だが、従魔との繋がりによってどの方向にウルが居るのかを感じ取ることが出来ていた。方向は分かるが、距離が掴めない、近くにいるのか、離れているのか。普段なら、近づけば繋がりを強固に感じるのだが、今肩に乗っているスラ達でさえ、繋がりが薄く感じられていた。
『なんとなく分かったッスよ!』
「え!? スラが!? 何に!?」
『うっ! 地味に傷付くッス!』
『何が分かったんですか? ダクト君の人気の秘訣ですか?』
「すごいじゃない! エルクとは違うわね!」
「う、うっさいわ!」
エルクが心配しているというのにいつも通りのスラ達。そのおかげで、少しだけいつも通りのエルクに戻る。
「クラウ達大丈夫かな~?」
『そこにウルの兄貴がいると思うッスよ』
『何が分かったのか説明してください!』
『ほいほい! え~とッスね。まずはこの場所についてッスかね』
「そんなことが分かるのか!?」
『生まれつきの兄さんの変な能力なんです』
『これは確実って訳じゃないッスから全てを鵜呑みにしないでくださいッス!』
スラが話した内容はこうだ。
・この霧が魔法そのものではないか
・エルク達を転移させたのは誰でもなく、この霧ではないか。
・この霧は魔力を抑える力がある
「なんだか、魔法を主に使う者にはここでは厳しい環境だね」
『おいらかライがはぐれたら一環の終わりッスよ』
『そうですね、エルクさんの肩に乗っていれば大丈夫ってことですね!』
「私はどっちも出来るからいいけどね~」
スラの言っていることが正しいと判断するなら、この迷いの湿地はB級危険地帯ではなく、A級かS級になるだろう。自分の意思とは関係無く、勝手に跳ばされて、もしその場所にモンスターが居たら危険この上ない。
「ねぇ皆。なんだか囲まれているような感覚があるんだけど」
エルクがウルの居るであろう方向に歩き出してすぐのことだった。霧の向こう側で微かに黒い影が動いている。視認することができるためその相手との距離は10メートル弱。襲ってくる様子は無いが、一定の距離を保ちつつエルク達と一緒に動いてくる。
『おいらも感じてるッス!』
「隠れてないで、出てきなさいよ!」
ラネが囲んでいる黒い影に対して、声を挙げる。それに反応するかのように黒い影が慌しく動き始める。
「ん?」
エルクが何かに気が付く。黒い影だと思っていた相手の存在が見えてきたのだ。その姿はエルクよりも小さく、羽が生えているが、どこからどうみても子供である。
「あれって……」
エルクが声を掛けようとした瞬間に目の前に居た相手が消える。どこに行ったかは不明である。
『エルクの兄貴! また跳ばされたッスよ!』
「めんどくさいわね!」
ラネの言う通りここまで思い通りに進まなかったことは無い。この迷いの湿地に生息しているモンスターにはまだ遭遇していない。この場所には居ないんじゃないかと錯覚を覚えるほどである。
「さっきのモンスター見た?」
『さっきッスか?』
『黒い影としか分からなかったです』
「私も~」
「じゃあ見間違いかな~」
エルクは転移する前のモンスターについて考えていた。少し変なところはあったが、子供がこんな場所に居ると言うことは考えられない。何かしらのモンスターだと考えているが、特長の一致するモンスターをエルクは知らなかった。
「とりあえずクラウ達と合流しようか! 皆、ちゃんと警戒してね!」
『ほいッス!』
『了解です』
『自分でやりなさいよ!』
そしていつも通りの従魔達と、ウルとの繋がりを頼りに歩いていく。
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