第35話 王都に忍び寄る影
前回のあらすじ
アラクネ(妹)怒り→テイム→王都へ→消えていた王都騎士団
ソウの提案で森へ行き、成り行きでアラクネを仲間にしたエルク達は王都騎士団と別れ、王都に帰ってきていた。
~王都 従魔寮
未だにウルの背中に固定されているアラクネ。
「もう…… 解いて…… 欲しいな……」
アラクネが女性陣に訴えかけると
「結局ここまで拘束したままじゃないの!」
「流石に可哀相です!」
「もしかしてそういう性癖が……!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
研究会女性陣がエルクに寄って集る。囲まれたエルクは正座をして小さくなっている。アラクネをテイムしたとは思えない姿である。その姿をクラウは遠くで眺めている。
従魔寮に到着するまでの間に何度も女性陣から「アラクネちゃんを解放しろ」とエルクは言われていたが、その時々に言い訳を使い、従魔寮に着いたときに言い訳が尽きたという。クラウは巻き添えになりたくないがために従魔寮に入った瞬間にエルクから距離を取っていた。
「ちょ、ちょっ!! 解くから! 今すぐやるから!」
エルクが何をされているかというと、メルとエネの従魔によって遊ばれているのである。メルの従魔のスライムがエルクの頭の上で跳ねていたり、エネの従魔のカマキリに様々な角度から近距離で眺められたりと、地味に嫌な事をされているのである。
渋々エルクはウルに近づき、ウルとアラクネを固定している糸を切りに掛かる。
「え? ふんっ! あれ?」
切れない。破けない。磨り潰せない。
ウルとアラクネを固定している糸をサバイバルナイフで切ろうとしても切れず、腕で引き千切ろううとしても千切れず、エルクが何をやっても簡単に解けてはくれないようだ。
「エルク~?」
「ちょちょちょちょ! 本当に切れないんだって! アラーネ! どうなってんの!?」
メルは能力に「威圧」は無いはずだが、エルクに対しては威圧できているようだ。そんなエルクはこの糸を作りだした張本人を呼ぶ。
「あら? どうしたの?」
「この糸を解いて欲しいんだ! 頼むよ! このままじゃ僕が危険だよ!」
「そうね~ じゃあ少し離れててもらえるかしら?」
アラーネは糸を1本指先から出し、ウルとアラクネの間に通していく。糸が通り、アラーネは思いっきり引っ張った。一瞬の内に固定されていた糸が切れていった。
「エルク~?」
「え!? な、なんで!?」
アラーネがいかにも簡単そうに糸を千切ったため、先程エルクが苦戦していた姿が疑わしいとのことで、本日2度目の正座をさせられることになる。
一方で、拘束を解かれたアラクネは自由の身になった瞬間にエルクに跳びかかろうと考えていたが、現在エルクは正座させられており、周りにはメル達が囲んでいるため、そんな雰囲気では無かった。
「良かったわね~」
「お姉ちゃん!」
『まったくだ』
アラーネはアラクネに向かってではなくウルに向かって言っているのだが、拘束を解かれたアラクネはそんなことは関係無いかのようにアラーネの周りではしゃいでいた。
従魔寮の入り口付近で少しの休憩(正座)を挟み、従魔の小屋へと向かう。アラクネの2人はまだ、エルクの従魔ではウルとダクトにしか会っていないため、他のメンバーを紹介をすることになってる。
小屋に向かったのはエルクとクラウで、メル達は寮に帰っている。既に空は暗くなっていて、星が綺麗である。
「ここが従魔小屋だよ! 少しの間ここでくつろいでね!」
「ずいぶんと大きいわね~」
「まあ、中に入ればその意味が分かるよ」
「なによ偉そうにして、さっきまで小さくなっていたくせに!」
「な、なにをー! 誰のためにああなったと思ってんでぃ!」
「先行くぞ~」
エルクとアラクネが小屋の前で口喧嘩を始めたため、クラウと従魔達は小屋の中に入っていく。アラーネはウルとダクト以外の従魔に会うのは初めてであり、その威圧感に驚いていた。
一際目を奪われていたのは中央に居たドラゴの存在だろう。ドラゴはその場に居るだけで何かと威圧感が増す。奥には作業をしているウーゴが居て、空中にはスラとライがグリフと遊んでいる。ライオは小屋の隅で寝ている。
『ついてくるといい』
「あら、先導してくれるの? 助かるわ~」
『皆、集まってくれ! 新しい仲間を紹介する!』
ウルがアラーネの前を行き、全従魔を集める。最初に近づいてくるのは空中で遊んでいたスラ達だった。続いて、ライオ、ウーゴ、ドラゴの順である。
『新しい仲間ッスか! よろしくッス~』
『僕はライです。こっちが兄のスラです』
『グリフっていいま~す』
「あらあら!」
『ライオだ、よろしく頼む』
『ウーゴ、ヨロシク』
『ドラゴなのだ!』
「アラーネという名を貰ったわ~」
『知っていると思うが、我はウルだ。上に乗っているのが』
『ダクトと申します!』
一通り挨拶が終わった頃に口喧嘩していた2人がぶつぶつ言いながら、入ってくる。片方は従魔を見たときに笑顔になり、もう片方は口を押さえて動かなくなってしまった。
「いや~ 今日は疲れたよ~」
『エルクの兄貴、おつかれッス!』
「もう自己紹介は終わった?」
『終わったのだ~』
「お! 早いね! じゃあ、というわけでアラーネ。仲良くしてね!」
『うむ』
『おッス!』
『はいです!』
『了解なのだ!』
『おう』
『ほ~い』
『了解しました!』
『ン』
「相変わらず軽いな~」
「クラウ! クラウの従魔は紹介した?」
「全部済ませたよ」
「そっか! じゃあ今日はもう帰ろうか」
「いやいや、あのアラクネはどうするんだよ! 固まったままだぞ」
「あ~ 何とかなるよ、大丈夫! 行くよ!」
「本当かよ、知らんぞ」
エルク達が小屋を出て、数メートル進んだところでアラーネが小屋から出てきた。
「ちょっといいかしら~」
「どうしたの?」
「少し体のサイズを測らせて欲しいのよ」
「ん? いいけど、どうしたの?」
「んふふ、秘密よ」
アラーネはエルクの体に沿うように糸を出し腕の長さ、足の長さ、胴の長さで糸を切っていく。一通り測り終わったアラーネは怪しい笑みを残して小屋に入っていった。
「お前、何か危ない奴を仲間にしちゃったんじゃないか?」
「た、多分大丈夫……」
そうして激動の一日を過ごしたエルク達は寮へと帰っていった。
~王都 どこかの建物の上
『ククク、平和ボケした人間共め、今すぐこの場所を血の海に変えてやろう』
『まだ待て、もう少しで全員集まるんだ』
『ククク、分かっているさ、だがこの高揚感が抑えられないのだよ!』
『まったく…… 程々にしときなさいよ? 今騒がれてしまっては厄介よ』
『ああ、ちゃんと分かっているよ! だからここ最近は1人か2人で抑えているんじゃないか!』
「んぁ? ぬぁんだ? お~い! あぶねぇ~ぞぉ!」
建物の上には月の明かりで逆光となってよく見えないが、黒い人の形をした者が3人程いるのが分かる。建物の上にいるため酔っ払った人が上を見たときに視線に入る。
『見つかっちゃったじゃない!』
『ククク、今日も早速1人ですか…… ッ!!』
建物の上にいた1人が消え一瞬で地上に降り立つ。
「あ? あんたへっ……ん……」
『また面倒ごとを増やしてくれる』
『ククク、見られてしまったのですよ? こうするしかないでしょう!』
地上に降りたはずの1人が手に何かを持って建物の上に移動している。地上から見上げていた酔っ払いは頭部が無く、地面に倒れていた。
『あの人間の知り合いを殺すのも手間なのよ? 分かってる?』
『あの死体も頭が無ければ使いようにならんだろ』
『ククク、すいませんね。手が滑ってしまったので』
この日、王都内で家族惨殺事件が起こった。犯人は不明。死体は無く、服が切り刻まれたかのように部屋に散らばっており、部屋中血だらけであった。その知らせが冒険者ギルドに届いたのは日が出てきてからであった。
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今更なんですが
「」この括弧は普通に喋っているときで、『』これは声に出さずに会話しているときです。
第1話に追記しておきます。




