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徳磨の時代  作者: 素元安積
五:喧嘩する程
9/20

 三人で行く道中、バスを乗り継ぐことになった。運賃は希羅が支払うと言ったものの、前の記憶が強いからかゆうきが、「要りません!」と断言した。これには流石の希羅も思うところがあったのだろう。困り顔を見せながらも、クスリと微笑んだ。こうも、よい顔を見せられるのだ。本来は悪い奴ではないのだろう。ただ、少し人を信用する勇気が持てないだけで。

 結局ゆうきが拙者の分まで運賃を支払い、希羅は何も言わずに自分の分の運賃を支払った。

「ここはデパートだよ」

「デパート……のう」

「食事の出来るところ、服、文具、その他生活用品や動物なども売買出来るところです。ところで、徳磨さんは戦国の方でいらっしゃいますか?」

「ちょっ!?」

 ゆうきは拙者を引っ張り、希羅から離れた。ちろっと後ろを見ると、希羅がニヤリと悪い笑みを見せている。

「と、徳磨さんっ! 何であの人あんなこと……」

「拙者の言動……だろうなぁ。聞いてはいるが、もう既にバレていると思うぞ?」

「普通信じないよあんなこと」

「拙者の存在全否定でござるな……」

 取り敢えずゆうきと共に希羅の下へと戻る。結局どうなのです? そう尋ねるかのように希羅は首を傾げておる。

「そうでござる」

「で、でも! 他言しちゃ駄目ですからね」

「当然。言っても馬鹿にされるのがオチですから」

「確かに」

 希羅の言葉に、ゆうきがものの数秒で頷く。何故拙者のことを言ったら馬鹿にされるのだ。そういや、あの玉虫色頭の連中も拙者の言動に腹を抱えて笑っておったな。戦国時代と言うのは、現世ではそんなに面白い情報が漏れているのであろうか。かと言って戦国のことを尋ねて拙者の人生に携わる内容であっても困る。うーむ……未来を知ると言うのは恐ろしいものだからなぁ。

 腕を組み、悩んでいるところをゆうきが、「あっ」と声を上げた。ゆうきの視線の先を辿ると、丈の短い布を巻いたおなごが、もう一人の色とりどりの奇抜な格好をしたおなごに四角い箱を投げつけていた。そして、その後すぐに言葉を放つ。

「私は他人(ひと)と違うのよ!」

 そう言って彼女は脇目もふらず、此方へと駆け出す。俯いているから此方の存在も確認出来ていなかったのだろう。拙者の腕にぶつかり、大きくよろけてしまった。大丈夫かと手を差し伸べようとしたのだが、逃げ出してその場でうだうだとやりとりをするのも格好がつかないでござるよなぁ。当然、手を差し伸べる前に逃げ出してしまった。箱を投げつけられてしまったおなごの方は呆然と立ち尽くしておる。

「其処らの女子と似たような装いをして、自分は人と違うだなんて。普通思っても口になんて出しませんよ。あの格好だって、ファッション雑誌で見たことありますしね」

 ファッション雑誌と言うワードはよく分からんが、要するに彼女は見本と同じような格好をしていると言いたいのだろう。希羅らしい厳しい意見でござる。

「だが、拙者の時代は嫌でも似たような装いしか出来なかったのう。まぁ、あの時代は個性がどうとか言っている余裕もなかったが」

「それだけ、暇な時代になったってことですよ」

 戦国を生きた拙者より厳しい意見でござるな。意外と古風な考えを持っている若人なのかもしれぬ。ゆうきの方はと言うと、立ち尽くしているおなごをじっと見つめておる。奇抜なおなごの方は逃げたおなごのことで頭がいっぱいなのだろう、此方を見る気配が全くない。

「俺は別に個性とかどうでも良いと言うか、他人に嫌な風に目立ちたくないので装いだって其処らの人と似ているものにしています。案外、戦国の方が楽しく生きられたかもしれませんね」

「うーん……制服はみんなと一緒が良いけど、私服が一緒なのは何だか嫌かなぁ」

「私服も、皆が統一すればそうは思いません。数名が合致するから、気不味さを感じるのみかなと」

 拙者とゆうきは徐々に鋭くなっていく希羅の言葉に思わず目を閉じて頭に手を当てる。途端に希羅の鼻で笑う音が聞こえてきた。希羅の本領発揮と言ったところか。

 其処へ、バスの多くあるバス停と呼ばれる方面から、おなごの悲鳴が聞こえてきた。三人で顔を見合わせて頷くと、バス停の方へと駆け寄った。バス停方面には多くの人だかりが出来ており、やたらとざわついている。人混みを掻き分け奥へと進むと、目の前の光景に目を疑った。

 拙者とぶつかった彼女が、薄汚れた大きな箱の隣で血を流して倒れていたのだ。この箱は、確かトラックと呼ばれる物。箱の前面には血も引っ付いておる。衝突したのは目に見えることだな。この大きさの、金属製の箱がかなりのスピードで突っ込んでくるのだ。こうなってしまっても無理はない。

「だ、大丈夫ですか!?」

「触れてはいけません。過度に揺らすと体が悪化する確率があります。それより、此方の運転主は?」

 希羅が振り向き、群衆に尋ねる。人々は顔を見合わせ首を傾げた後、希羅の方を向き首を振ったり分からないと答えたりする。運転主と呼ばれる(ぬし)がこの箱を操っていた者なのだろうな。

「怖いでござるな。殺意を持たずとも人を簡単に血みどろにさせられるとは」

「そうですね。運転主が幾ら慎重になっても、何時人が飛び出してくるか分からないし、逆も然りです。歩く人間が手を上げて進もうが、急いでいる車はなかなか止められない。馬どころの話じゃありませんよ」

「だな」

 淡々と言う希羅の目は、妙に黒々として見える。この時代に絶望している、そんな目付きで血塗れのおなごを見下しておる。

 幸い、救出部隊の到着は早かった。此処から拠点地が近かったとのことだそうだ。救出部隊が誰か同乗してくれと頼むので、拙者とゆうきが買って出た。

「じゃあ僕は車呼んで病院追いかけます」

「了解した」

 拙者とゆうきは白い車に乗り込んだ。其処で、救出部隊へと一つ質問を持ち掛ける。

「のう」

「なんでしょうか?」

「車に轢かれてしまった人間を運んでいるが、この車が人を轢いてしまう確率はないのか?」

「あ、ああ……確率が絶対にないと断言は出来ませんが、救急車はルールとして他の車が道を開ける必要がありますし、此方も気を張っておりますので」

「そうか……」

 これ以上は仕事の邪魔になるので口出しも出来ぬな。以降、拙者とゆうきは寡黙を貫いた。病院と呼ばれるかなり大きな医療場へと到着すると、寝台に乗せられたおなごが運ばれていく。一人の隊員によって治療室の前まで先導されると、此処で待っていて下さいと横長の椅子へと手を差し伸べ、一礼してからいなくなった。

 拙者とゆうきはおなごの回復を待つことになった。

 待っている最中希羅とも合流し、希羅は拙者の腕を軽く叩いて話しかける。

「わざわざ他人の手術に同行だなんてお人好し過ぎません? 個性のない自己主張女が事故に遭ったんです、望み通り個性が爆発したじゃないですか」

「そんなの酷いよ!」

 ゆうきが眉間に皺を寄せて怒りを顕にする。今の言葉は言いすぎでござるな。此奴の何時もの癖とは言え、今回は特にキツく感じる。

「すみません、ああ言う女性、嫌いなんですよ」

「どうして?」

「それでは、ゆうきさんはいじめられたことはありますか?」

 希羅の質問に動揺したゆうきは、視線をあちらこちらへ動かし、拙者を見つけると救いを求めるような視線を送る。残念だが、既にバレバレでござるよゆうき。

「……あるみたいですね。彼女はいじめられることを恐れ、普通を装いたがります。人と違うと目を付けられていじめられる。俺のように」

「希羅さんもなんですか……!?」

「いじめと言っても冷やかし程度ですけど、不愉快だったことには変わりありませんね。話を戻しますが、彼女のように無難を行きたがる人間に限って、私はわざと合わせてるんだ、本当はこんなんじゃないって思っていますから。その外道っぷりが嫌いなんです。まぁ思うだけなら俺もそうですから別に良いんですけれど、口になんて出した暁には、人として疑いますね。欲張りすぎなんだよ、と……妬みだと言われてしまえば其処でおしまいですが」

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