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徳磨の時代  作者: 素元安積
四:贈り物
8/20

 バスに揺られ、自宅へ着いた頃にはもう辺りは暗くなっていた。星が転々と瞬き、幻想的な風景を織り成している。

 戸を開け、クタクタになっているゆうきを先に中へと入らせると、ゆうきの母上が駆け寄って来た。

「おかえり。暗くなったから心配したじゃない。もう少し遅くなってたら警察に電話してたわよ」

「徳磨さんがいる限り狙われる心配はないよ……」

 クタクタになったゆうきは、力の抜けた声で答えた。実はその今日刃物を持った男に狙われたなど、この様子では言ったら叱られてしまいそうだな……心苦しいが黙っておこう。

「ご飯作ってるし、お風呂も沸かしてるけど……まさか寝ちゃうの?」

「寝ちゃうかも」

「ううむ……折角母上が作ってくれているのだぞ? どうせならば堪能してから寝るのが一番であろう」

「そうですよね徳磨さん。で、食事とお風呂どっちにします?」

 難しい二択だなぁ。食事を戴きたい思いもあるが、汚れた体で食うのも申し訳ない。かと言って、風呂に入れば食事が冷めてしまう。母上の愛情が篭った料理、ゆうきならば食べたいだろう。……となれば、拙者が先に入り、ゆうきが食べる。ゆうきが食べ終わった頃に拙者が風呂から出て、入れ違いになるのが一番か?

「だったら片方だけ作ればいいのに。お風呂入ったら食事冷めるし、どうせ食べるならお風呂で汗流した後の方が良いしさぁ」

「おいゆうき、そんな失礼なことを」

「ああ~ごめん、じゃあ食事炒め直しておくから、二人でお風呂入ってきなさい」

「そうしとく」

 ゆうきは疲れているからか、機嫌の悪そう声で返し、そのまま風呂場へと進む。……二人かぁ、窮屈になりそうだなぁ。って拙者が思ってるくらいだから、ゆうきも同じことを考えているか。


 何だかんだ言っても、風呂は気持ちがよかった。始めは二人だと狭そうだと思ったが、風呂が縦長なので案外入りやすい。ただ、二人だとのびのびと風呂を堪能することは出来なかったが、今思うと他人の風呂であんまりくつろぎすぎるのも失礼な話でござる。

 そうそう、ゆうきが母上に対して厳しい意見を言っていたが実はあれは今回だけでは無いらしい。母上は天然なところがあるらしく、同じ様な指摘を四、五回くらいはしているとのこと。其処まで言って覚えないとなると、逆に意地を張っているとすら思えてくる。

 脱衣所には既に替えの服が置かれていた。拙者はゆうきに服を買ってもらったが、有難いことに寝る時の為の服まで買ってくれたのだ。流浪の身、朝と夜で服を着替えたことなど無かった。この世の文化には驚いているが、この服を有難く着る。着物と違い、帯を巻き付けなくとも留め具さえ付ければ良い。足を開いて寝ても着物と違ってはだけることもないし、便利な服だ。

 それを着てダイニングと呼ばれる部屋へ行くと、和食らしきものがズラリと並んでいる。和食は和食でも、時代の違いなのか、どうも和食だと確証を持てる料理は殆どない。これは、また勉強会になりそうだ。

「いただきます」

 拙者とゆうきは声を揃え、勉強の前にまずは上手い料理を口に運んだ。

 食事を食い終えると、拙者もゆうきも色々あったことで疲れていたらしい。ゆうきの部屋がある二階へと上がり、部屋に入ると、ゆうきはベッドと呼ばれる物に、拙者は布団には横になると、ゆっくりと目を瞑った。


 翌朝、起床して二人で下の階へと降りていくと、母上が、「ねぇ」と二人に声をかけた。

「これ。宮條希羅(くじょうきら)さんってお宅からの届け物なんだけど。お知り合い?」

 希羅と言う名前からして、昨日出会った希羅で間違いないだろう。ゆうきもそうだと感じたのか、母上に頷いてみせた。白い厚紙製の箱に、茶色い付着物がある。この中に届け物が入っているのだろうか。

「開けてもいい?」

「母さん宛じゃないのに……まぁいいけど」

 母上は嬉しそうに笑って礼を言うと、ダイニングの台の上へと白い箱を置き、茶色い付着物を勢いよく剥がした。付着物は留め具替わりだったのか。では、現代の紐と言っても過言ではないでござるな。

 箱の上部を展開させると、奥から出てきたのは分厚い本だった。首を傾げる母上を他所に、ゆうきが手に取って本をめくる。

「歴史本みたい。でも、徳磨さんの名前はやっぱりないね」

 歴史本、なぁ。拙者もゆうきも、歴史の本のことは希羅には言っていない。かと言って、あの時の希羅に拙者達の様子を見に行く余裕は無かったはず。と言うことは、会話の音の遠さで何の本を調べていたか想像したと言ったところか。あの様な人の集まりそうな場所に若人達がいたのか不思議であったが、彼が図書館好きだったとしたら理解出来る。希羅はよく彼処を来ていたのだろう。それで、何処に何があるかまで大体分かるようにまでなったと。凄い才能の持ち主ではないか。

「あ、これお手紙よね」

 箱の中から母上が取り出したのは、白を基調とした封に、固まった蝋燭だろうか……それらしきものが開け口に付いた物だった。ゆうきが母上から受け取ると、蝋燭を垂らしたような物を簡単に剥がした。折角なので置かれた其奴に触れてみる。……うむ、やはり蝋燭だ。

 引っかかっていた糸が解けたところで、ゆうきの手紙を横から覗いてみる。すると其処には、「おさない君に対して言いすぎました。おわびの品として受け取って下さい」と書かれていた。子供にも分かり易い柔らかい文章にしている。此処に皮肉は一切篭っていないだろう。

「良かったでござるな」

「うん!」

 母上は事情を知らないので、事情を教えて欲しそうに笑顔で拙者とゆうきを見ていたが、教えることこれ即ち昨日の珍事件の始終を言わなくてはならなくなり、面倒が増えそうなのであえて母上の視線には気付いていないフリをしておく。すまぬ、母上。

「徳磨さん、今日も出かけるでしょ? 昨日は金曜日で学校帰りだったからあまり出かけられなかったけど、今日は土曜日だから沢山外へ出られるよ!」

「そうでござるなぁ。あ、母上や父上は如何がなさるか?」

「実は……今日、パパとデートなのよ」

 母上は頬を赤らめて言った。デート、と言うワードが赤らめさせる要因なのだろうか。デートとは、一体どんなことを……?

「お父さんとお母さんは二人っきりでお出かけ。一ヶ月に二回は土曜日に出かけるって決めてるらしいから。僕は暇なの。ねっ? 行こうよ」

 なんだ、二人きりで出かけることをデートと言うだけなのだな。色々と勘違いしてしまった。ならば、拙者がゆうきと出るのと同じではないか。

「楽しんできて下され」

「ええ、息子を頼みます」

 あまりいても二人の時間を邪魔してしまうだろう。拙者とゆうきは急いで着替え、母上から食事代を頂くと家を出た。

 仲の良い夫婦とは羨ましい限りだ。拙者も、互いを愛し合える素敵な妻を貰いたいものだ。

 これから何処へ行こうと話題を切り出す前に、家の前に一台の黒光りした横長の箱がやって来た。箱の戸が開き、出てきたのは希羅であった。

「おはようございます。暇ですか? 僕も今日は暇なんで、宜しければ一緒に出かけません?」

「その黒い箱で、でござるか?」

「ああいえ、こんな小っ恥ずかしい物使わず普通の公共車両で行きましょう。何だか、父がこれで行けいけってうるさいんで」

「じゃ、じゃあ……行き、ませんか? 徳磨さん」

 意外にも、ゆうきが進んで声を出してきた。これには希羅も目を丸くしていた。ゆうきが行こうと言えば、拙者は従うのみ。

「ゆうき君が行こうと言ったら断れませんよね、徳磨さん?」

希羅も察してか拙者に尋ねた。こんな柔らかな笑みも見せられるのだな、勿体ない男だ。などと、心の中でぼやいていても仕方ないな。

「行くか、ゆうき、希羅」

ゆうきは、「はい!」と弾んだ声で言い、希羅は頬を緩めながら小さく頷いた。さて、今日は三人旅でござる。

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