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徳磨の時代  作者: 素元安積
三:開かずの心
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 拙者とゆうきは拙者の名を探そうと図書館へと来ていたのだが、ゆうきが本を探している最中、争いの声が聞こえてきた。争いと言っても一方的ないびり、ゆうきの言っていたいじめと似たような状況なのだろう。所謂いじめが起こっていたのだ。玉虫色頭の若人達からいびられていた黒髪の男を助けようと逃げ惑っていると、しつこく追いかけ回す相手がとうとう武器を持って挑んできた。

 幸い、怪我人は一人も出ずに騒ぎも落ち着いたが、一歩間違えばゆうきを怪我させていたかもしれない。本当に何事もなくて良かったでござる。

 そして今、拙者とゆうきは助けた黒髪の男に連れられ、レストランと呼ばれる食事を提供する場所へと来ている。

「好きなものを頼んで下さい。助けてもらったお礼なんで」

「そもそもお主、何故狙われておったのだ?」

「さぁ。金が欲しくてやったんでしょ? きっと」

「けど、お金くらいであんな人の多い静かな場所で大きな騒ぎ起こさないんじゃ……」

 ゆうきの言い分はもっとも。多くの目に付けば止めにかかる人物も多いだろう。脅しだけで金を盗る人間のする行動にしては派手すぎる。黒髪の男はゆうきの言葉に答えようとはせず、涼しい顔を貫いておる。あくまでも、ゆうきの言葉に対しての否定はないらしい。

「俺、希羅(きら)って言います。お恥ずかしい限りですけど」

「ん? 恥ずかしい名前なのか?」

「当たり前でしょう、希望の希に羅針盤の羅ですよ? それで希羅。……痛くてしゃあない。改名したくてなりません」

「キラキラネームって言うものですよね。確かに、あんまり珍しすぎるのって恥ずかしいって気持ちはあるかも」

 希羅、なぁ……拙者には綺麗な響きに聞こえるのだが。其処まで気になりはしないが、人と違うと言う点に違和感を覚えるのはあるかもしれぬな。

「そうでしょう? ったく、親なんて所詮子供を玩具としか見て無いんですよ」

「お主は、その名の意味を聞いたか?」

「別に。でも、どうせ好きなキャラを真似たとか、単にかっこいいからって意味で付けてるに決まってますよ」

 希羅は顔を顰めて答える。機嫌を損ねている点に触れて欲しく無いのか、ツルツルとした紙を拙者達の前へ差し出すと、「好きな食事を、好きなだけ選んで下さい」と言った。

「ほ、本当に何でも!?」

「こう見えて、金持ちの息子なんで」

 懐から光沢のある皮の入れ物を取り出したかと思うと、中から紙を幾つか出した。金持ちと言っているのだから、出しているものも金なのだろう。一見すると、よく分からない男の肖像画が書かれた紙だが。ゆうきは、「すっごい……!」と目を輝かせている。余程高価なのだろう。あの見知らぬ男の肖像画の書かれた紙が。

「ですから、どうぞ」

「じゃあお言葉に甘えて食べちゃおうよ徳磨さん」

「へぇ、徳磨さんですか」

「すまぬ。申し遅れたが拙者は徳磨。此奴は弟分のゆうきでござる」

 ゆうきは軽く会釈をし、希羅は、「どうぞ宜しく」と手を差し出した。拙者とゆうきが握手を交わすと、希羅は頬を緩ませた。此奴、出会ってから初めて笑ったな。

 何はともあれ頼まなければ希羅の気も収まらまい。二人で料理を選ぶことにしたのだが、拙者は見知らぬ料理ばかりで戸惑うばかり。ゆうきは恐縮そうに肩を竦めながらも、どんどんと料理を頼んでおる。そんなところを見ると、此奴もまだまだ子供だなと微笑ましく眺めてしまう。

「徳磨さんは?」

「ゆうきの頼んだものを味見してみるでござるよ」

「貴方も頼んで構わないですよ?」

 希羅の言葉に首を振る。すると、希羅は不思議そうに眉間にシワを寄せて拙者を一瞥した。何を疑っているのであろう。……ああ、拙者余程の大食らいに見えているのであろうか。

 ゆうきが注文を終え、先に飲み物がやって来た。一服しつつ、拙者は話を戻した。

「先程の連中に対し、先程の……スマートフォン、を、見せていただろう?」

「スマートフォンって言えるんですね」

「馬鹿にするでない」

 ゆうきも毒気のある言い方だと思ったが、希羅も毒気は負けてないらしい。此奴の場合、ゆうきと違って毒気があると分かってわざと言っているのであろう。時折返しに皮肉が篭っている辺り、ゆうきの何倍も罪深い。

「やっぱりほじくり返します? 貴方変な人ですね。普通なら相手が触れて欲しくない話題に首つっこみませんよ」

「掘り起こさないと、根深い問題は解決しないのではないか?」

 希羅は頼んだコーヒーと呼ばれる黒い液体を口に入れ、一息つくと拙者の方へと目を向けた。明るい緑色のメロンソーダと言う飲み物を白く細長い管から吸って飲むゆうきは、希羅の顔色を伺っているように見える。

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