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徳磨の時代  作者: 素元安積
二・名を探しに
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 拙者も平成の服へと転化し、随分と此処の街並みに染まることが出来ただろう。体格が周りの者より大きく、髪が長いのが所以か、まだ少々此方を見る者も多い。しかし、いちいち気にしていてはキリがないでござるな。何より、折角ゆうきが拙者に提供してくれた物。素直に喜ばねば。

「そうだ」

 ゆうきが思い出した様に声を出した。拙者が顔を向けると、ゆうきも拙者の方へと顔を上げて話し出す。

「徳磨さんは昔の人なんでしょ?」

「ああ。一応……そうでござるよ」

「だったら、図書館って言う色んな本がある場所に、徳磨さんのこと書いた本があるかもしれないよね? 見に行こうよ」

 ほぉう。拙者の名前が……なぁ。拙者の名前だけなら良いが、何処どこで死ぬなんて情報まで知ってしまうのも嫌だな。だが、ゆうきが見る分には構わんだろう。拙者も名だけの確認ならしておきたいし。

「うーむ。けれど、名前があるかだけの確認だぞ。拙者は時代的に本来この世にはおらぬ、いつ死んでいるかも書いてあるかもしれぬ」

「そっか……僕も名前だけ見たらすぐに閉じるよ」

「頼む」

 予め言うべきことは言った。トショカンとやらには書物が多いようだし、中もどうなっているのかもいささか気になる。拙者達はトショカンと言う場所へと、バスと言う動く金属箱を使って移動した。


 時代は便利になったものだ。バスと言う物は多くの人々を乗せ、一気に目的地へとつく。目的地も一つずつ教え、透明な硝子からは歩く人々や、形も色も違う乗り物が幾つも一人の人間の手によって動かされる。馬を走らせる必要もなくなった。

 暇さえあれば小さな板のような物を取り出し、指先で操って遊んだりもする。この板のような物を、スマートフォンと呼ぶらしい。ゆうきは、「まだ若いから」と両親から持たされてはいないようだが、他の若人が使っているのを拙者が見ていると小声で説明してくれたのだ。この世は拙者の知らないことばかりである。

 着く頃にはゆうきは頭を垂れておった。此処最近拙者が来たことで迷惑被ったであろう。学校も楽しいものではないようだし……身も心も疲れ果ててしまったのだろうな。

 ゆうきから止まるべき地点は聞いた。その場所にもうすぐで着くと聞き、ゆうきの背中を軽く叩いて起こす。

「有難う、寝過ごすところだったね」

「いいや。この頃世話になってばかりだったのだ、拙者にも少しくらい世話をさせてくれ」

「うん……そうだね。それじゃあおあいこだ」

 正確にはまだまだ拙者は返すことがあると思うのだが。ゆうきは心優しい子だな。きっと良い大人達の中で育ってきたのだろう。

 などと考えている間にゆうきは働き主に小銭を渡し、拙者へと手招きをしていた。拙者がゆうきに頷くと、ゆうきは一人歩き出し、拙者も働き主に一礼すると急いでゆうきが出て行った扉から出て行った。

 拙者が外へ出てから数秒後、プーッと音が鳴ったかと思えば次にプシューっという音を立て、扉が勝手にしまった。小さくなっていくバスを見送るわけにもいかまい。ゆうきも行こう行こうと腕を叩くし、このトショカンの中へと入っていくことにしよう。

 今回の扉は勝手に開くものではなかった。全てがそうではないと分かると、少し安心した。拙者の時代、家の扉は木造が多かったが、最近の扉は硝子だったりツルツルの金属だったり。色合いも明るくなった。勝手に移動して大勢の人間を運ぶ階段に、縦に上がる移動用の箱。前者はエスカレーターと言い、後者はエレベーターと言うそうだ。夢の様な景色がいつまでも広がっている。

「どうしたの? ボーッとして。景色を見るなら本を見つけた後にしてよ」

「すまぬ! いやぁ、まるでこの世界が夢の様な気がしてな」

「夢……か、僕にしてみたら徳磨さんの存在が夢みたいだけどね」

「お互い様と言うことだな」

 二人で笑い合い、ゆうきが歩き出すと拙者もついていった。縦長に置かれている絡繰の前へ行くと、ゆうきが()が浮き出ている場所へ指を触れる。その度に画が変わり、最終的には多くの文字が横書きになり、縦に並べられている。

「検索機の感じなら、二階へ行けばあるかもしれない。早速行ってみよう」

「ゆうきについて行くでござるよ!」

 前に少し言ったエスカレーターに足を乗せ、拙者達は一つ上の階へと上がっていく。エスカレーターとやらは何時足を上げるべきかタイミングを躊躇う物だな。慣れれば簡単なのだろうが、拙者は少し狼狽えてしまった。ゆうきに手を差し伸べられて足を上げてやっと動かぬ地面へと足を付けられた。情けないったらありゃしない。とんだ大失態でござる。

 此処で困った顔をしていてはゆうきに励まされてしまう。それも面目無い。暫くは大人しくゆうきについて行くことにしよう。ゆうきの背中を追ってただ進む。こうして彼の背中を見ると、何だかしっかりして見えるな。拙者がこの空間に戸惑っているから余計にかもしれぬが、拙者の為に自分がしっかりせねばと言う気迫が感じられる。これ程のしっかり者ならば、やはりいじめる子供達にも立ち向かうことが出来ると思うのだが。

 ゆうきは方向へを変えると、本棚と本棚の間へと入っていった。

「ここら辺は歴史ものだからあると思う。それと時代は戦国だから……徳磨さんの字も紹介の時書いてもらったし、漢字を探すだけでいいね」

「うむ」

 一つの分厚い本を取り、ゆうきはページをめくり始めた。

 トショカン……拙者の名の入った本を探す為に来るだけあって、書物だらけの場所でござるな。城の書物部屋とは比べ物にならん量でござる。これだけの本読みきっている人間などいるのだろうか。拙者がこれを全部読めと言われたら、頭がおかしくなりそうでござる。

 ゆうきは読むと言うより見つけようとしているのだろう。ページをめくるのも早い。

「何処まで読むつもりでござるか?」

「うーん……見つかるまで探すつもりだから、歴史って書いてある此処から彼処の本棚まで」

「どひゃあー、気が遠くなるでござるな。拙者の為に其処までしなくとも」

「僕が知りたいから別にいいの!」

 気を遣って言ったつもりだったのだが、却って怒らせてしまった。そんなに拙者について知りたいのか、随分と物好きな童男だ。自分の意思だと言うならば無理に止めることも出来ぬ、拙者はただ待つとしよう。心を決めたとろこで、ゆうきが首を捻って本をめくるのを止めた。

「最後まで読まないのか?」

「目次を見ても見つからなかったから」

「そう言うことでござるか。賢いな」

「これくらい普通だよ」

 そうか、拙者は普通以下の頭なのか……。ゆうきの言葉遣いにはやはり少々毒気があるな。今まですっかり忘れ、つい気を抜いてしまっていた。これ以上毒気のある言葉は抑えてもらえないだろうか。

 それから幾分かの時間を費やしたが、結局拙者の名前は此処には載っておらんかったそうだ。何となく予想は付いていたけどな。悲しそうなゆうきには悪いが、ちぃと安心してしまっている拙者もおる。

「無かったね。侍なのに、名前載る程活躍してこなかったの?」

 ……だから、毒気のある言葉は自重して欲しいでござるよ。……紛れもない事実だが。

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