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徳磨の時代  作者: 素元安積
一:時は平成
3/20

 拙者の時代の兵達は、多くの敵襲にもたった一人で捨て身になって挑んだ者もいた。

 この時代では、それが戦ではなくいじめと言う形で起こっているようだ。テレビでもいじめの具体例はゆうきから幾つか聞いた。例を聞く辺り、戦とは違う苦しみが彼を襲うのだろうな。多き者が少なき者を対象とし、少なきものの魂をじわりじわりと侵食していくかのような、タチの悪いものだと感じる。

 だが、多き者共が、少なき者共を倒すのは当たり前のことだと思わないか? 多き者共は自分以外の仲間がおるのだから。少なき者を多くでいじめる仲間など、仲間と呼べるかも曖昧だが。

 比べて、少なき者が弱いかどうかは思い次第だろう。多き者は、体外個々では弱いものだ。弱い者達に彼がいつか牙を向けられる時が来たら。絶対、ゆうきは彼等に打ち勝つことが出来る時が来るはずだ。

「気分転換にで良い、この世の紹介でもしてくれないか?」

 なるべく彼の気持ちを落ち着かせねば。遊びに出れば、その者達のことも忘れられるであろう。拙者はゆうきにこの世の案内役を頼んだ。

「いいけど……だったらまずは格好どうにかした方が」

 ゆうきは眉間に皺を寄せて拙者の格好を見やる。確かに、この時代の若者は、拙者が着る着物とは違う薄っぺらい服を着ている者が多いな。あまり妙な視線を向けられるのも困るな。

「そうか。けれど、服の替えがあるのか?」

「無いけど、一着くらい買ってもいいよ。僕お小遣い出すから」

「んやっ!? それはいかんでござる、子供に金を出してもらうなど」

 両手を激しく左右に振り、拙者はゆうきを止めようとするも、ゆうきは首を左右に振って口を尖らせてしまった。

「いいの。徳磨さんとの思い出いっぱい作りたいから! ……だから、徳磨さんはお金以上に僕との思い出を作ってよ!!」

「ゆうき……」

 こんな愛しきことを言う。本当に弟を持った様な気持ちになる。……全く、仕方のない童男だな。

「……お金が減ってもお主の責任だぞ?」

「うん!」

「おっし! んじゃ早速服を選んでくれ!!」

「うん!!」

 純真無垢な笑みを向け、ゆうきは財布をカバンに入れて我先にと玄関扉へと駆け出した。


 ゆうきに連れられ、早速近くの服屋へと向かう。道中、周りの視線はやはり妙だ。服を恵んでくれるゆうきには心から感謝せねば。

「でも僕、お金持ちってわけでも無いから高いのは買えないよ?」

「着られるのであれば問題ない」

「分かった」

 道中よく見るのは周りの方だけでもない。拙者も辺りの人物、特に男の方を見ていた。

 拙者の過ごしていた時代も拙者の様に腰まで髪の毛が伸びている男は少なかったが、此方の時代も其処ら辺の事情はあまり変わらないらしい。

「髪が短い者が多いな。おなごは長い者もいるが」

「うん、今の時代徳磨さんくらい髪の毛長い男の人って、あんまりいないんじゃないかな」

「拙者、女と見間違われていないだろうか?」

「たくましい体が全否定してるから大丈夫」

 ゆうきと何気ない会話を交わしていると、あっという間に服を売っている店の前に来ていた。

 驚くことに、店の扉は勝手に開いたのだ。それも、勝手に閉まるときた。挟まる者がいないか心配になる。それと、この時代へ来て思うのは、透明になったお店が多いと言うことだな。戦国時代では、中の様子が透けているのは、「どうぞ家の代物を盗んで下さい」と言っている様にしか見えん。本当に、平和な時代になったものだ。勿論平和は良きことで、拙者達の理想なのであるが。拙者達の理想だった世界は、何だか少々寂しいものだな。これもきっと、住めば都になるのだろう。

「徳磨さん本当にたくましい体してるから、サイズ合うかなぁ……あの、すみません」

 ゆうきが細長い体型の男を呼ぶと、何やら拙者の服について尋ねているらしい。話を聞き終えると男が拙者の体型を見て服を探しに言ってくれた。挨拶する間もなく走ってしまった。別にそこまで刻を争うことでは無いのだが。

 素早くいなくなった男は、戻ってくるのも早かった。服を幾らか選び、着てみて下さいと拙者に渡してくれた。渡してくれたのは良いのだが、見知らぬ形状の布達の着方が一切分からん……聞くべきなのだろうか。否、此処で聞くと確実に変な者だと思われる。

「徳磨さん、僕が似合うか見定めてあげるよ!」

 助け舟を出す前にゆうきが有難い言葉をかけてくれた。拙者は頷き、ゆうきが先へ進む狭く細長い個室の中へと入っていった。


 服を着替え終え、二人で個室から出る。個室にこの大男が入った所為で、ゆうきは出てくる頃にはフラフラになっていた。悪いことをしてしまった、面目無い。

 ゆうきは何とか態勢を立て直し、壁に手を当てて拙者を見た。

「……ああ! うん、いい!! 中じゃ狭くてほとんど見えなかったけど、すごく似合ってる」

「左様でござるか? ゆうきがそう言うのならばこれにしたいでござるな」

「うん、しよしよっ! 値段もお手頃だし」

 両手を合わせ、ゆうきは愉快そうに笑った。

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