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徳磨の時代  作者: 素元安積
一:時は平成
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 テレビ、と呼ばれる中のものが蠢き、音まで鳴る不可思議な絡繰。其奴からは長く、くしゃくしゃの茶色い髪の女達が、ソウショクケイダンシと言うものの話をしている。これが、現代に多い男だそうだ。対して、女がニクショクケイジョシと呼ばれるようにもなってきているらしい。

 名乗るのが遅れたが、拙者の名前は徳磨(とくま)。一応侍をやっている、しがない流浪者だ。

 拙者は持ち手のついた湯呑にはいっている匂いの強い茶を啜りながらこの話を聞いていた。其処へ、小さく白い手の童男(おぐな)が器に何やら入れながら此方へやって来た。

「おじさん、はいこれクッキーだよ」

「おじ……これでも拙者は十九でござるよ」

「ええっ!? ちょっと老けすぎだよ……」

 この拙者の痛い部分を突いてくる童男はゆうきと言う者らしい。名は漢字では無いものの、母上が勇気のある子に育って欲しいとの思いから付けたそうだ。ゆうきは拙者と同じこげ茶色の、首元までの長めの髪。此処に来るまで見てきた者達に比べると長めの方だろうか。後ろで一つに括っている拙者の方が余程長いが。

「でも分かった。失礼なこと言ってごめんなさいお兄さん」

 訂正の早く、物分りの良い子なのだが、老けていると素直に言ってしまう辺り、やはり少々抜けているところがあるように見える。出来ることなら訂正よりも言葉選びを慎重にやってほしいでござるな。


 拙者とゆうきの出会いは何か特殊なわけでもなく、道端で偶然拙者が声をかけたことで始まった。突然見知らぬ地にやって来てしまったのだ、誰かに帰り道を尋ねるのは当然だろう。周りにいるのは変な格好や変な頭をした者達で、周りも今にも倒れてきそうな程高い建物や、踏んでも足形が残らない程硬い灰色の地面。周りの者達は海の向こうにいる人間で、皆が異国の拙者を殺そうとしているのではないかと武者震いしていた。

 そんな時、彼は拙者を見た途端に駆け寄り、ほぼ拙者と同じ言語で話しかけてくれたのだ。このチャンスを逃せば拙者は野垂れ死にするかもしれない。拙者はすがる様にゆうきに家に泊めて欲しいと頼んだ。そして、今に至るわけでござる。いやはや、始めは彼の家族さんも拙者が泊まるとのことに大きく動揺していたが、今になっては彼の子守りとして仲良くしていただいている……いや、十九だから子供はおらんが。彼は十一歳だそうだし、弟分と考えれば良いだろう。此処が平成(ヘイセイ)と呼ばれる時代であることや、他にもこの平成のことはゆうきから沢山教えてもらった。

「徳磨さんは、どうしてここにきたの?」

「拙者か? うむ……どうしてつっても、拙者もいきなりだったもんで。皆目見当もつかん」

「そっか。でもその前のこととかは? 覚えてないの?」

 ゆうきに促され、拙者も何故この様な状況になったのやらと記憶を掘り起こしてみる。

 浮かぶは青き空。聞こえるのは川のせせらぎ。角度からして寝転がって見ているようだが……と思い返していたところで気づいた。

「拙者、川が近くにある草原で寝てたらこの地にいたでござる」

「それじゃあ何も分からないね。まぁ、僕は徳磨さん面白くて好きだからここにいてもらっても構わないけど」

「そう言うわけにもいかぬ! 拙者も元の地へと行って落ち着きたいのだ。こうも優しくしてもらったゆうきと離れ離れになるのは寂しいがな」

 拙者の言葉に、ゆうきも悲しそうに眉を下げ、「うん……」と答える。なんと(めぐ)しきものか。拙者も完全に兄貴分として情が移ってしまったみたいだ。 

かと言って此処にずっとお世話になるわけにもいかぬ。拙者はこの世を知らぬし、食費などもかさばるだろう。始めは快く受け容れてくれても、拙者は恩を返せる気がせぬ。なれば、せめてゆうきに拙者が出来ることをしてから元の世へと戻らねば。

「ゆうき」

「はい」

「お主は、今困っていることは無いか?」

「困ってること……」

 拙者の質問をそのまま呟くと、ゆうきの表情は暗くなっていく。困っていることはどうやらあるようだな。それも、重大な。

「何でも良い。金を払わぬことなら拙者が何でもするが故」

「い、いいよ! 助けてもらうとかって話じゃないし」

「うぬ? ……だが、その顔にはどうにかしたいと書いておるぞ?」

 ゆうきは顔に手を当てて立ち鏡を見よる。単純なところがまた滑稽だな。なんて、笑うのも失礼か。しかし、鏡を見なくとも彼の面持ちは深刻であった。やはり、拙者がどうにかしてやらねば。

「ゆうき、一人で抱え込んでも、事態は変わらぬ。変わるのは、己の魂だけよ。それも、ぐちゃぐちゃと歪な形になってしまう。誰の為でもなく、己の為に言うが良い」

 鏡の前で立ち尽くしていたゆうきに告げる。ゆうきは、その背を丸めて小刻みに震えだした。

「話してみるでござるよ」

 拙者の言葉に首をかくんと上下に振り、ゆうきは静かに鏡からテーブルの下へと移動した。その場に胡座をかくと、もう一度首を上下に振った。顔を上げれば、涙を浮かべて口をへの字にさせている。余程、辛いことなのだろうな。

「クラスの奴等にいじめられてるんだ」

「いじめとな?」

「うん。お父さんもお母さんも先生も優しいけれど、どうしても相談出来なくて……」

「己が弱いと知られるのは、怖いものだものな」

 ゆうきは首を縦に振る。震えたままのゆうきの頭を撫で、拙者はカラッと笑って見せた。

「ちょいと、外へ出てみるか」

「やっつけてくれるの?」

「んんや」

 よっこらせと声で勢い付けて地面から重たい体を持ち上げさせる。其処から振り返って下の方を見やれば、拙者の言葉に少々悲しげなゆうきの姿があった。

「ゆうき。其奴等はお主の敵なのだ。お主と其奴の勝負に、お主は拙者を使って勝つのかい? それは、お主の望む勝利なのかい?」

「……けれど、僕は強くもないから」

「もし拙者が加担して勝ったとしても、其奴等はお主を拙者がいないと何も出来ぬ弱虫だと思うはず。更に、お主を馬鹿にすると思うのだ。大丈夫、お主は名前に見合った、立ち向かえる強さがあるはずだ」

 拙者の言葉にゆうきは否定的に目を伏せてしまった。己が名前に適っていないと思っているのであろうな。奴等と言い方からして敵は数名いる。勝ち目がないのは目に見えていると感じ、諦めてしまっていると言ったところか。確かに当たり前のことなのだろうが、拙者のいた時代はこうでは無かったな。

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