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徳磨の時代  作者: 素元安積
九:徳磨の時代(前編)
18/20

十七

 茜の言葉と共に、女子、そして男子までもがゆうきへと冷たい視線を向けた。ゆうきが黙っていると、クラスメイトの間を希羅と一郎が割って入ってきた。

「え? 誰?」

「あの眼鏡掛けた男の人かっこいい……」

「めっちゃ美形じゃない?」

 容姿端麗な希羅の登場に、女子の黄色い声が目立つ。

「貴方がた、今までゆうき君をかばってこなかったクセに、何を言っているのですか?」

「そうだぞ! 今までゆうきは一人でアイツ等にいじめられてきたんだ。言わばお前等ゆうきのお陰でアイツ等に何も言われずに済んで来てたんだぜ? ……何処が無様何だよ、スゲェカッケーじゃねェかよ」

「希羅さん……一郎さん……」

 希羅はジッと見つめる茜へ口を開いた。

「正直、貴方が声を上げた時、関心しました。いえ、感動すら覚えました。この世も捨てたもんじゃ無いなと。……でも失望しました、クズですね。みんな揃いも揃ってクズばかりです」

「希羅さん、もう、もう良いです……もうこれ以上は」

「……ゆうき君がそう言うなら。行くぞ、一郎」

「良いのかよ。だって」

「構わない。十一歳なのだからどうせ言っても分からないし、変わらない。ではゆうき君……また、授業後に」

 希羅と一郎はゆうきへ手を振り、その場を去っていった。残されたクラスメイト達の間には、長い沈黙があった。その沈黙を打ち破ったのは、話を出した張本人である茜だった。

「……ごめん」

「え?」

「言いすぎた。って言うか、有り得ないよね。今まで黙ってたクセに、急に加担して、そんで無様って。……本当に無様なの、私等だよ」

「そ、そんな、良いよ……」

「でも、もっと素直になっても良いと思う。アンタ見てると、何時も我慢してるから、見てるこっちが辛くなってくるし。……まぁアイツ等、どうせ女には手出さないだろうから、次からは何とか言ってあげるよ」

 茜は居心地の悪そうな表情を右へと逸らしながら言った。他の女子は茜程乗り気では無さそうだったが、数人首を縦に振っていた。男子も吹っ切れたのか、顔を見合わせると頷いた。

「今思えば、こんだけ味方が減ればアイツ等も黙るって。つか、黙らせてやろうぜ!」

 男子が一致団結してきた所に、ゆうきが首を振った。

「いや……大丈夫。暫くは一人で何とかやってみる。本当に、あまりでかい話にしちゃ駄目だと思うから。だから、みんなは今まで通りに接してよ」

 ゆうきは笑顔で言った。クラスメイトが驚いていると、休み時間終了のチャイムが鳴った。ゆうきが急いで席へ戻ると、他の生徒も教室へと入っていった。

「ゆうき、本当優等生ぶりすぎだよね」

 友達の女子の言葉に、南はゆうきの背中を見つめながら言った。

「……想像以上に、アイツは良い奴なのかもしれない」

「ゆうきが?」

「だって……給食費のこと濁したのって、金子のこと考えたからじゃ無いの? アイツの親、授業参観の時金子のことベタ褒めしてたじゃん」

「其処まで考えてるのかなぁ」

「君達、早く教室入りなさい」

 二時間目の担当、数学の教師が女子の背中を押して教室へと入れようとする。その反対側の扉から、金子が教室を出て行った。女子の一人が、思わず、「げっ、金子」と言葉を漏らした。

「あ、オイ、金子君」

「保健室行ってきます」

 金子は振り向きもせず真直ぐ保健室へと向かった。その後姿を見つめ、女子達が教師を挟んでひそひそと話す。

「さっきの会話、聞いてたのかな」

「逃げたってこと? まぁこっちとしては気が楽で良いけど」

「……こら君達」

 諭す様な教師の言葉に、茜達は急いで自分の席に着いた。


 授業が終わり、帰りのホームルームも今朝の話題には触れられずに終了した。清掃活動の後、ゆうきは急いで玄関へと向かった。外には希羅と一郎が待っていた。

「お疲れ様です。ゆうき君」

「お疲れ!」

「ううん。二人共、そういえば勉強は?」

「今日は休んできました。大学は勉強さえ出来れば融通効きますからね」

「まぁ俺は基本的にサボってるけどな」

「あはは、そっか」

 騒ぎの途中で退散した希羅と一郎は、ゆうきが心配でならなかった。ゆうきは良くも悪くも笑顔なので、二人共聞くに聞けない。

「お前」

 三人の前に一つの小さな体が立ち塞がった。希羅と一郎は自然と険しい顔つきになる。

「金子君」

 立ちふさがったのは金子だった。今回は何時もの四人連れでは無く、一人で。

「ごめん、今日は他の人と帰るから」

「何で此処までするんだよ」

「何が?」

「こっちはこんだけお前追い詰める様なことしてんのに……何で、お前は俺等を責めないんだよ!」

 金子の問いに、希羅と一郎の顔付きが変わった。口を閉ざしていたゆうきへ、希羅がさり気なく背中を押すと、ゆうきは一つ頷いて答えた。

「別に、自分がそうしたいって思ったことしただけだから」

「ぶりっ子しやがって」

「どう思われたって良いけど、君みたいに無理してまで嫌われたいとは思わないよ」

「は……!?」

 声と同時に手が出た。金子は咄嗟にゆうきの手首を掴み、数秒静止してから再度発した。

「何だよ……それ……」

 不意を突かれたらしい。金子はそれ以上の言葉が思い浮かばなかった。自分が嫌われていることも、無理をしていることにも気付いていたからだ。ゆうきはこれ以上口にする気は無さそうだと察した希羅が代わりに話す。

「優等生でいるのも疲れるでしょう。始めは、ゆうき君をからかったのもその気晴らしだったのでは?」

「あ? そうなのか? そうならそうだって今のうちに言っといた方が良いぞ。黙ると黙るだけ苦しいからな、そう言うの」

「そうですよ。この先もずっと意地を貼り続ければ、関係も自分自身も悪化するばかりです。そして、それは自分の破滅へも繋がりかねない」

「……今更謝ったって、馬鹿にされるだけじゃんか」

 ゆうきの手首をいっぱい握り、震えを抑えながら貢は言った。

「謝らなくて良いと思うよ」

「は……?」

「言わなくても、態度で分かることってあるから。そう言うのが分かる人、うちのクラスには沢山いると思う。その方が、みんな接しやすいだろうしね」

「ゆうき……」

 強く掴んでいた手を離すと、金子はその場にしゃがみこんだ。泣きも喚きもせず、ただ静かに呼吸を整えていた。一方、希羅と一郎はゆうきの今までとは違う毅然とした態度に終始驚いていた。強くなったゆうきの後ろ盾は、当然あの男存在なのだろう。

「それじゃあ金子君、また明日」

「ちょっと待て!」

 立ち去ろうとしたゆうきへ、金子は即座に立ち上がって声を張り上げた。

「……呼び捨てで良い」

 金子の言葉に、ゆうきは笑顔で手を振り、彼の名を呼んだ。

「それじゃあまた明日、(みつぐ)!」

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