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徳磨の時代  作者: 素元安積
九:徳磨の時代(前編)
17/20

十六

 少年らしいスポーツブランドのリュックを背負い、ゆうきは一人教室へと入っていく。

「おお、ゆうきぃ。今日は早いじゃねぇかぁ」

「本当だよなぁ、いっつもギリギリの時間に来るのに。俺達避けられてるんんじゃ無いかって心配してたんだぜ」

 席に着いたゆうきの下へとやって来た四人の少年達はゆうきをほくそ笑みながら言った。周囲のクラスメイトの大半は、同情どころか何故早く来たんだと言わんばかりの怪訝そうな顔を向ける。割って入ってくる様な勇気のある者はいない。

「あ、そうだ。こうして朝じっくり話すのも久しぶりだしさ、今日の放課後寄り道してかね? なぁ、ゆうき?」

「はぁ? ゆうき連れてっても反応シブいじゃん、つまんねーって」

「オイオイ、本人の前で言うなって~」

 少年達はゲラゲラと笑った。時間もまだ早い、ホームルームもまだ始まらないので、教室内にいたクラスメイトは現実逃避する様に教室から出て行ったり、スマートフォンを取り出してイヤホンを付け始めた。

「ごめんなゆうき~悪気はねーんだよ」

「ごめんな? な?」

「……オイ。謝ってんだから何か言えよ? それとも許せないのか?」

 好き勝手人の心を散々抉っておいて、誰が許せると言うのか。ゆうきは爆発しそうな感情を押し殺し、無言で少年達を見上げた。

「何だよその目」

 少年達の態度が厳しくなる。会話が聞こえてきたのか、音楽を聴いていたクラスメイトが、画面に数回触れて耳を抑えた。

「良いのかよ、俺はお前と違って成績優秀だし、教師の好感度だって高いんだ。お前が俺に嫌がらせしたって言ったらすぐに疑われんだからな」

「だってよ、あーあ、怒らせちゃったな。こりゃ土下座しかねーぜ、土下座」

「どーげーざ、どーげーざ!」

 少年達の土下座コールが始まった。

すると、暫し黙っていたゆうきが机を叩き、席を立った。

「お、もう決めたのか? 良いね~潔くってかっこいい!」

「する訳無いでしょ、誰がそんなこと」

「おっ……?」

 ゆうきが短的に言い返すと、少年達は顔を見合わせてまたゲラゲラと笑った。

「だってよ」

「ほっとけ、そんな奴」

 少年達の仲で一番偉い少年の一声により、他の少年達も自身の席へと着いた。しかし本気で土下座を期待していたのか、表情は悔しそうだ。

 あまりにあっさりと撤退した少年達に、ゆうきは平静を装いつつも内心驚いていた。これならば、もっと早くこうして言い返しておけば良かった。そんな後悔と、彼等に初めて言い返せた。そんな喜びがごちゃごちゃに混ざり、結果的に安堵したゆうきは一旦トイレへと向かった。

 少年達の、この先の思惑を考えもせず。


 ホームルームが始まり、教師が入ってくる。挨拶をし、速やかにホームルームが勧められる中、教師が手を二回叩いた。

「それじゃあ、給食費を集めるぞ。みんな、忘れず持ってきたよなー?」

 生徒が続々給食費を教師に渡す中、先程の一番偉い少年が、「あれー?」と、カバンをあさり始めた。

「どうしたんだ、金子(かねこ)君」

「給食費が無いんです。今日貰ってきたはずなのに……どうしてだろう」

「何……?」

 教師が不審な表情をした。何の疑いもなくゆうきがリュックから給食費の入った紙封筒を取り出すと、あることに気付いた。

「え……?」

 ゆうきの取り出した給食費には、あの少年の名前、金子貢(かねこ・みつぎ)の名が書かれていたのだ。ゆうきは頭が真っ白になり、その紙封筒を見つめることしか出来なかった。

「あ、そう言えばさっきゆうき君の所で話したんだっけ。ねぇゆうきくーん……アレ? ソレって……」

 近づいてくる貢に、恐怖が走った。顔が青ざめ、手を震えだす。あまりの衝撃に声も出そうにない。貢がゆうきの目の前へ来ると、ゆうきの耳元でボソッと言った。

「謝れ。そしたら今回のことは無かったことにしてやるよ」

 ビクッと体が震え上がった。冷や汗がたらりと流れる。

「コレって……」

 金子はさも知らない様子で首を傾げた。そして、チラリとゆうきの方を見た。

 雲行きの怪しい教室の隣。廊下では、二人の青年が出るべき時を待ち構えていた。

「オイ、準備は出来たか希羅」

「ええ。むしろ、これ以上遅れては手遅れになり兼ねない。行きましょう」

 ゆうきが一人でいじめっ子に立ち向かうと聞いて心配になった希羅と一郎は、ゆうきが学校にいる間に作戦を練り、ゆうきのサポートに回ろうと話していた。

「行くぞ」

 一郎の掛け声で入った瞬間、一人のクラスメイトの女子が立ち上がって声を上げた。

「ゆうき君じゃありません! ソレ、金子君が自分でいれてたんです!!」

 女子の声に、クラス中が視線を女子に向けた。

「……ね?」

 女子が自身の友達に促すと、友達も立ち上がって頷いた。

「うん。さっき、ゆうき君がトイレ行ってる間に……見ました」

 すると大半の女子が、「そうです」と声を揃えた。ゆうきはただただ声を失っていた。

「金子君が……? 何故そんなことを」

「ゆうき君をいじめてるからに決まってるじゃ無いですか。嘘じゃないですよ、ついでに其処の男子三人も混ざってました」

 今までの不満を爆発させる様に、女子は事実を吐露する。給食袋の現場を見ていなかった女子達も、いじめには肯定した。男子は金子達に睨まれることを恐れてか、女子に比べて消極的だ。

「……どう言うことなんだ、金子君」

「それは……」

 追い詰められた貢は、先程までのゆうきとまるで同じ状態になっていた。言葉を失い、頭が真っ白になっている。

「君だって腹立ってるんでしょ? あんだけ馬鹿にされてたんだから」

「え……?」

 普段、女子から話しかけられる機会に恵まれなかったゆうきは、驚きその女子を見る。彼女の名は貢同様成績優秀な、南茜(みなみ・あかね)。頭の良い方では無いゆうきは彼女と一切話したことが無かったのだが、名前を覚えられている辺り、相当金子達によって名前が浸透させられたのだろう。

「……う、うん。けど」

「けど?」

 ゆうきはずっと下を見つめ、震える金子を見て言った。

「けど、もう良いよ。ただカバンの中に入っちゃっただけだし」

「は!? アンタ何言ってるの!?」

「金子君、そして君達も。反省しているのかい?」

 教師の言葉に、貢や彼と共にゆうきをいじめていた少年達も、「はい、反省してます」と即座に答えた。

「た、退散するぞ希羅」

「……ああ」

 教師はうんうんと頷き、事無きを経て一時間目の授業が始まった。

 一時間目の授業が終わり、休み時間に入ると、少年達がまたゆうきの下へとやって来た。

「さっきは助けてくれてどーも。やっぱお前は最高の友達だなぁ」

 休み時間になると、男子達はそそくさと教室を抜け出した。飛び火を避けたかったのだろう。

 出会い頭の様な変わら無い態度の四人に、ゆうきは冷めた顔付きで言った。

「助けたワケじゃ無いよ。面倒事になるのが嫌だっただけ。君達だって親に知られたら嫌なんでしょ? だったらもう学校で騒ぎになる様なことしない方が良いよ」

「調子乗りやがって……!」

 貢の言葉も今となっては負け犬の遠吠えにしか聞こえ無い。ゆうきは無視をして教室を出ると、横からグイッと何者かに引っ張られた。

 ゆうきは無視をして教室を出ると、横からグイッと何者かに引っ張られた。何事かと力の起こった方向を見ると、そこには先程ゆうきをかばってくれた女子達がいた。中でも、開口一番でゆうきを救ってくれた茜に、ゆうきの視線がいく。

「えっと……南、さん……!?」

「アンタ、何で許したのよ」

「何でって」

「私達が言ったのはアンタの為だけじゃ無いんだよ! 私達だってアイツ等には迷惑してたの! だから黙らせてやろうと思ったのに……何優等生ぶっちゃってんの? これじゃあこっちまで何言われるかわかったもんじゃ無いわよ。今までビクビク無様に震えてただけのクセに、調子乗ってんじゃ無いわよ」

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