最終章ーアナザー・ゼット・ストライカーH゛ー
サブタイトルはやはりシンプルに。
ミラカナと別れたアトスは、渦巻く時の狭間ーー異空間に居た。
(ーー遍く時の狭間に飛ぶ事を選ぶとは……時が来た、という事だな)
心の中に、声が届く。懐かしいあの声だ。
「ーーあぁ、よろしく頼む。我侭に付き合ってくれてありがとう」
(では、あの【時】に送るぞ。健闘を祈る)
「ーーあぁ」
アトスは、いや、須賀谷士亜は時の狭間に飛び込んだ。
俺は俺を救う。
俺の悲しみを、俺の苦痛を。全て、解き放つ。
眩い光が、全身を包むーー。
ーー空が開き、アトスはあの土に降り立つ。懐かしい、校内大会の場所。
少し前の事のはずなのに、遥か昔にも感じ、それでいて昨日の事のようでもある。
ーー遠目に、古き友ーー群雲 順が倒れている。そして、そこよりやや近くにデバイスを託されている、あの日の俺がいるーー。イフットに、網が掛かっていたあの時の事ーー。
「奴の頭一つ下げられないような状況で、こんな事が許されるか!」
あの日の俺が、怒る。
黒岩田と戦い既に血塗れで、ボロボロだ。
あの日の俺は苛立った顔のまま、網を引き剥がそうとする。ーーだが、網は思ったよりもしっかりとくっついて、剥がれやしない。
「私が黒岩田の頭を下げさせる? ……そんな事、出来ない」
彼女が反論してくる。
「あぁ、そうかい!」
それでも、彼女をフランベルグから引き剥がしたくて反論する。
「何処までも、お前は裏切るかよ!」
あの日の俺は少し悲しい目をしながらも、呟く。
「私は貴方の自己顕示欲を示す為のものじゃない」
「ーー分かってるよ!」
ーーあぁ、分かってる。俺もだ。
「それに、松葉杖でも、なんでもない」
「そんな事分かっている! 俺はその逆で足蹴にされていても良かったがな! 多少の不満はあれど問題ないくらいだったわ!」
ーー空しい気分になる。だが、それでも研鑽しようと前向きになれる人間だった。お前という奴は。
「勝手に思い込んでいた事を言われてもーー」
「ああそうかい! 無様ですまなかったな! 全部嘘なんだろ!?」
「それは違う、昔は昔ーーでも」
「ーーでも」
「今はね。大嫌い」
ーー一瞬、あの日の俺の腕の力が抜ける。
イフットを掴もうとしている抵抗が無くなり、フランベルグに吸い込まれていく。
「はははははははっ……!!」
悪夢の、あの時ーー。
「ーー 今 だ。」
【マジック・スロットル!】
俺は加速して先回りし、奴が吸収しようとする前に網を素手で両断する。
「ーーっ!?」
3人の認識外から、そのまま遠くにイフットを放り投げる。
「きゃああぁぁっ!」
イフットは大きな声と共にふっとんでいったが、どうせあの女だ、心配はしていない。
「邪魔者か!」
忌まわしき敵ーーフランベルグがこちらを見る、だが、アトスーー俺の顔をみた瞬間に固まった。
「ーーお前、は」
その言葉を無視し、アトスは、須賀谷士亜(あの日のおれ)の背中を軽く叩く。
「ーーすまなかった。お前を救うのに、時間を掛けすぎた」
「ーーっ!? あんた、俺と似ているーー」
あの日の俺が、俺の顔を、見て驚く。ーー無理もない。俺はお前の末路だよ。
事実を認められず自己憐憫と、自己陶酔の果てに、自力救済を願った、最後の黒い血の塊。
超状存在の力を借りて、平行世界を渡り歩いて復讐を誓った、最後の男。
「士亜。君を、救いにきた」
アトスは、困惑している士亜に抱きつき、頭をがしがしと手でやると、すっと、フランベルグに向き直った。
「もう、俺が君を守る。お前は順に被害が及ばないようにしてくれ」
最後の決意だ。此処で順が死んででもしたら、また悩みが増える。
「ーーさっきのスピードを見る限り、君はあの女とほぼ同格の力まではあるようだね」
フランベルグが、こちらを値踏みするような目付きで言う。
ーー順の事を、指しているのだろう。
あの時の俺は、ブラッド・タブレットを使ってまでしても奴を倒す事が出来なかった。
「俺は貴様を逃がす気はない」
だからそう言ってやる。
【エクステンション!】
【fill up】
俺の身体に、鎧が装着される。
それを見て、士亜がまた驚くーー。
「おれとーー同じ」
「勉強しろよ、須賀谷ーー士亜。お前なら、俺を越える事が出来るかもな」
既に時間制限は克服している。あの頃はタブレット摂取時しか鎧を展開出来なかったが、最早1時間以上の通常変身は可能だ。
「ーー魔法使いの中でも、中々だ」
舌なめずりする、フランベルグ。
「だったら、貴様を地獄の底に叩き落す!」
アトスは叫ぶと、1インチ距離にまで入った。
「フン!」
【サイバー・アームドガントレット】
フランベルグが黒岩田の手を出し、こちらを薙ぎ払おうとしてくる。
「ーー未来を切り開くとは、こうする事だ!」
俺は、巨大な手を真正面から殴り破壊する。
「でぇりゃあ!」
さらに一歩距離を詰めて腕の再生前に、体重を限界まで込めた裏拳で奴の顔面を思い切り殴打するーー。
拳が一撃入ると、フランベルグの軽い体は数十メートル吹き飛び、近くの岩に叩きつけられた。