闇の彼方から(7)
「……くそっ。くそっ。くそっ!」
第5ブロックでゾゴイが、額に汗を流しながら地面でのた打ち回る。身体を捩じらせて、床で倒れこむ。
周囲の昆虫人が心配して寄ってくるが、ゾゴイは一睨みして、そいつらを下がらせた。
彼の腕は、腫れていた。ーーアトスに、やられたものだ。
「私の身体を貸したところで、結果がこれとは、どういう事なんでぇ」
<ーー貴様の慢心が、招いた事だ>
ゾゴイと同化している、怪物が語りかける。
「私が身体を貸せば千の痛みを奴等に与えられると、いったではないですけ!」
<少し寝ていれば治る!>
彼らはそのように会話し、尚静かに息を吐く。
「奴等、追ってきますぜ。そうしたら、私らは終わりです、年貢の納め時です」
<終わりではない、貴様の復讐の道は始まってすらない>
ゾゴイは心の中の怪物と話しながら、ごろりと寝転ぶ。
「ーー時間稼ぎは命じましたが、大丈夫でしょうかね」
<いいから布石は作ってある、休め。命令だ>
「ーーへ、へい」
ゾゴイは怪物の命令を聞き、素直に目を閉じた。
彼の寝ている横に、幾らかの昆虫人が近寄り、繭を作ってくる。
糸がどんどん付着していくーーいつもの、変態の儀式である。
この儀式を終えるたびに、ゾゴイは一段ずつ能力を上げてきた。
「この儀式が終わればーー私は奴等を葬れるんですね……」
<お前が器として、大成すればな>
「そうすれば、娘もーーこれで」
そう言っているゾゴイの身体に、快感が湧いてくる。
「お、おおぅっ……ぐ、ぐぉぉぅッ……く……か……ッ」
脳内の物質がデトックスされ、さらなる高みへと変身体の身体を作り変えていく。
幾段もの世代を超えた進化を、一人で行う痛みと快感。それがゾゴイを蝕み、位置づけている。
繭に包まれた身体は休眠状態へとなり、静かに一時的な安息を迎えた。
「ーーこれ以上の侵攻は危険だと、提案する」
無事だったイーゴンやレイブレッド、それに部下たちを含めた第3ブロックでの作戦会議。ガイアブレードが、首を振って提案した。
通常時であれば臆病風に吹かれたか、だのとアトスはガイアブレードを大いに馬鹿にしただろう。だが、今回こそはこれはしない。身をもってあの敵の恐ろしさを知ったからだ。
「ーーしかし、後詰めは既に1ブロックに到達した。今から引き返させるのか」
ミラカナは彼のいう事はもっともだと言いながらも、そう諭した。
軍が動く以上、一個人だけの判断で引き返させる事はできない。ワンマンではない以上、集団とはそういうものだ。ましてデルテ・アルベルト・イズンの名前を出した戦いな以上、おいそれと引き下がれはしない。
「ーーキャンプを張り、包囲戦に切り替えるというのはどうだろうか」
イーゴンがそこで提案する。
「いや……それは後ろの連中にさせる事だな」
ミクモが相槌を打った。
「しかし、君のいう敵と遭遇し君やガイアブレードが勝てないとなると、少なくとも私には倒せぬぞ。空戦には自信があるが……あの鎧の破壊された有様、尋常なパワーではない」
イーゴンはミクモに、言い返す。
「そこでアトスをぶつける」
「アトスを?」
「ーーさっきも言ったとおり、俺が戦えるのは長くて40秒が限度だ。通常形態や変身状態じゃ勝ち目はないぞ」
アトスがミクモに、軽口をぶつける。
「アトスを殺す気か?」
イーゴンは驚きの声を上げる。
「いや、こいつはやってくれるね。あいつと戦って死ぬ人間じゃない。そう感じた」
しかしミクモは首を振り、笑った。
「ーー言ってくれる。だが、致命傷は与えられるな。では、トドメは譲ってやろう、ミクモ」
売り言葉に買い言葉、アトスは半分困った顔をして、続けた。
「ーー貴様たち、中々に屈折しているな」
ガイアブレードは、2人の様子をみつつも、素顔の見えない状態でありつつ困惑の態度をみせた。
「アトスは、馬鹿なんだよ」
ソレイユがそこへ口を挟んだ為、
「違いない。それにミクモもな」
ミラカナはそう言って、場を開くといった。
「結局どうするんすかね」
レイブレッドが、ミラカナに意見を求める。
「ーー突っ込むにきまっている」
「ーー本気ですかい?」
「ーーあぁ。昆虫人間動乱ーー解明してみたくなった、それだけさ」
ミラカナは頷き、生き残った3人の兵士達の元へ向かった。




