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闇の彼方から(2)

「……ミラカナ様」

 手配した馬車が進みだすなり、横のミクモが話しかけてくる。

 ミクモは外出用の外套を身に纏い、普段よりもよそ行き感がある。

「ーー何だ?」

「正直今回の命、私は嬉しく思いました」

 微かに笑みを浮かべるミクモ。普段の堅物な態度からは合いもしない。

「何か理由があるのか?」

 それが気になり尋ねてみると、

「いえ、私の存在理由に墨を付けていただいた事ですよ。まだ私がこの国にお仕え出来る、必要とされているという事を身をもって感じられた為……それが嬉しかったのです」

 嬉々として理由を言ってくれたミクモはこちらの疑問に、そう答えてくれた。


「ーー別に僕はミクモを少しも雑に扱った覚えなど、ないぞ?」

 年甲斐もなく、嬉しそうなので喜ばしい事だが、そう告げておく。

「それはそうでしょうとも。 ですが貴方様ほどの権力者に扱われる側は、常に気が気ではない……それだけは、覚えておいてくださいませ」


 ミクモは弾むような心持ちが現れた顔で、言ってくれた。

「ーー分かったよ」

 アトスなら面倒な女か! と怒りそうだなと、密かに思いつつもミラカナは頷く。

「ーーところでミクモ。君は今回の任務の件、どう推理する?」

「私の考えですか?」

「ーーあぁ。討伐任務ーー兵士を動かせば時間こそ掛かれど、我々の手を使わずとも鎮圧は出来ないものではないはず」

「ーーミラカナ様はそこを気にしていらしたのですか。何やら情けない事に、昆虫人間に対して恐怖心を兵が抱いているという話を聞き取りしましたので、それが原因なのではと推測できます。 恐らくは我々が拠点を壊滅させた事をそのまま美談とさせて、軍の士気をあげようとするという話を恐れながらお聞きしました」


 ーー言われて気付く。そういえばミクモは軍の中では相当な使い手だった。

 確かに軍の中の者どもが、ミクモが功をあげたと聞けば、相当に喜ぶだろう。

「ーーそうか。ならば、期待をしているぞ、ミクモ。同行するガイアブレードに対しミクモ=ヒチリキの力がここにありと示してやれ」

 ミラカナはミクモに、そう命令する。

「ーー仰せのままに」

 ミクモは頭を軽く下げ、それから馬車の外の光景に目を向けた。

ーー夜は、まだ始まったばかりだ。


「現地に着くのは明日の朝だ。無理をせず、今は身体を休めるといい」

 そうミラカナが言ったところでがたごとと、馬車が揺れ始めた。どうやら足場が悪くなったようだ。

「ーーそれではミラカナ様が」

 ミクモは納得いかないみたいで、首を振る。だがしかし、こちらは既に考えていた手がある。

「重要任務の前だぞ。配下の体調管理も上の勤めだ。だからお前は休むんだ、ミクモ」

 そう、言いこめる。


「ーーミラカナ様は?」

 ーー出鼻をくじかれたようで縋るような目をミクモがしてきたが、

「資料に目を軽く通したら寝る。頼むから無理をするな、お前を頼りにしている」

 そう告げると、渋々とミクモは馬車の背もたれに背中を付け、少しだけ楽な姿勢をとった。

「横になってくれていいぞ」

「ーーしかし」

「それで身体は休まるまい。ブランケットがあるぞ」

「しかし私如きにそれはもったいない」

「ーーいいから!」

 ミラカナはミクモに強引にブランケットを掛け、静かに自分の冊子を広げた。

ーーこちらをを横目でちらりと見ていたミクモだが、これ以上こっちがミクモを相手をする気がないと悟ったのか、静かに背を向けて休息体制に入るのが分かった。


ーーこれでとりあえずは、大丈夫だ。

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