エピソード3「デュアル・ゴア」(6)
翌日、ミクモが風邪を引いたと欠勤の届出を出してきたので二人で顔を見合わせたが、このまま何もしない訳にもいかないために急遽アトスを他の13人衆のうちの一人に紹介することにした。
「今日紹介するのは、僕よりは序列は下ですが……かなり勤務に関しては我々の中でも真面目な方です」
「そうなのか」
「13人衆とはいっても色々各自の家庭によって抱えているものはありますが、彼は少なくとも親の跡を継ごうと、頑張っておりますよ。我々の立場としては何をしても親の七光りである以上、中々評価してもらえる事は少ないですが……彼は何をするにしてもとても真摯なんですよ」
特殊課ではなく、歩いて数分の距離である本庁の方へアトスを連れて行き、手続きを僕の方で終えてから応接室の方で座って待つ。
暫くすると、オレンジ色の髪をした気弱そうな少年が2m近い背丈の異形の生物を引き連れて部屋に入ってきた。
「お初にお目にかかります、アトスさん」
僕がよく知る少年が物腰柔らかくアトスに話しかける。
「どうも」
アトスは頭を下げた。
「僕はレイブレッド・マルバードと言います。僕は次期十三人衆における席次7の人間になりまして……そこのミラカナさんの一つ下の位階になりますね。仕事は国家保安区治安維持課庶務、そして此処の僕の後ろにいる方が、僕の召還した方になります。なんでも、本人曰く竜人という種族だとか……名前はイーゴンというそうです」
レイブレッドは、若干本人も緊張していたようだがアトスに笑いかけた。
「宜しく願いたい……そちらの竜の方も」
アトスはまずレイブレッドに頭を下げ、それからレイブレッドの後ろの竜人に話しかける。
ーー竜人と呼ばれた生物は、僕の知識には無いものだった。なんと表現していい物だろうか。僕から見れば二足歩行だがその特徴として表皮は茄子のように黒光りしていた。……さらにその背中には折り畳みが可能な翼が付いており、腕や足の筋肉に関しては人間を一回り超えた太さであった。
「……貴公は私と同じく此処に、呼ばれたのか」
イーゴンという竜人は、しげしげとアトスを観察するかのように眺めつつも話しかける。
「えぇ、私と貴方が同じ呼ばれ方をしたのかは、分かりませんが」
一回り大きなイーゴンに対しても、物怖じせずにアトスは応対する。
「私は他の者よりも召還とやらが遅れたらしくてな。気付いた時には周囲は惨劇の中であった。ーーレイブレッドに聞いたところによると、君がノルドシュトルムという悪意を退けてくれたらしいな」
「一応そうなりますね。ただ、あれはまだ生きています」
「……詳しく聞きたいな、アトス君」
「いいですよ、イーゴンさん。僕はこの子……ミラカナとは数年しか歳は違わない、けれど貴方は相当にお年を召して感じられる。それに、戦闘も得意そうだ。勉強させて頂きたいです」
アトスは向上心のある素振りをみせつつも、僕の方に目をやる。まるで、……後押しをしてもらいたいかのように。
「レイブレッドさんの予定を邪魔しないようにするならば干渉はしないよ、アトス」
僕はそう言ってから、レイブレッドに投げる。
「そうですね、でしたら退勤後はいつも予定は空けて置きますので、自由にイーゴンと会話なりしてくれて結構ですよ。今からもまたミラカナさんと少しお話をするので、アトスさんはイーゴンと話してくれていて結構です」
「お、そうなのか。では有り難い」
「ええ、こいらは仕事になりますので……」
レイブレッドはにこやかにそう告げると、ふと真面目な顔に戻る。
「ところでミラカナさんに一つ耳に入れたい事があります」
「何だい?」
「調べている件についてですが……何かつかめましたか?」
「アレ、か」
「えぇ。貴族街のあれです」
「十中八九、ミクモが今全力で駆け回っているはずだ。奴が変なタイミングで欠勤の届けを出している時は、大抵裏で血眼になっているからな」
僕はそう言いながらも、茶菓子に手を伸ばす。
「咎めないんですか? ミラカナさんはミクモさんの無断行動を」
「無駄だよ、アイツはやろうとした事にはどれだけ自分の時間を削ってもやり遂げようとする頑固さがある。半分諦めてるけど、あの強さは方向性さえ制御できれば相当な武器になるからね。……ま、僕が成長出来れば良い事なんだけどさ」
「そうはいっても……適度に休暇は与えてますか?」
「それはどういった意味だ?」
「治安維持課では各地でミクモさんが昨夜から色々聞き込みをしていたという報告が入っています。彼は基本日勤ですしプライベートな時間を削っているのなら少し、その……可哀想かなとも思いまして……」
やや困ったような顔の、レイブレッド。
「……分かった、彼にはそのうち、お金を渡して無理やりにでも慰安旅行という形で休みを取ってもらうよ」
僕は困惑しつつもその意見を受け取り、アトスを見る。
アトスはイーゴンと話し込んでいたようだが此方に気付くとやっぱりなと呆れた顔をして、ジェスチャーをしてみせた……。




