79.王国編最終話―王国の伴侶たち
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ミゲルは
呆然と空を見つめた。
最愛の妻が
飛竜に攫われていく。
ミゲルにはない
あの力強い腕を持つ
異国の皇子に。
「フェリシア……」
動転して、
駆け出した。
「こんな、突然はダメだ!!」
ちゃんと、
旅立ちのハグをして。
もう一度、
必ず帰ると約束をして……
あの髪、
身体、
唇に触れて……
それからじゃないと
ダメだ。
こんな風に
僕の手から
すり抜けて行くなんて。
――あの日と同じだ。
あの降臨祭の夜……
19歳になったフェリシアに
求婚するつもりだった。
成人になれば、
親の意向に従わなくていい。
結婚の自由が手に入る。
本人の意思で結婚ができる。
だから、
12時をまわり
成人したフェリシアに
誰よりも早く
愛を伝えるはずだった。
ずっと愛していたと
花嫁になってと。
どれだけ、
自分に価値があるか
たくさんの理由をつけて、
逃がさないように。
自分だけの花嫁に
するはずだった――
ミゲルは展望台への
白い階段を駆け上がる。
なるべく
高い場所へ。
飛竜の影は、
広い空の彼方に
あっという間に
小さくなってゆく。
「フェリシア……」
妻を呼ぶ声は弱々しく
青空に溶けるように消えた。
崩れ落ちそうになるミゲルの身体を
強い確かな手が
容赦なく引き上げ、
立ち上がらせた。
「王子がこんなところで
膝を折るもんじゃない。
あの、
ミゲル殿下ならなおさらだ。
フェリが許さないよ」
緑の瞳がにやりと笑う。
濃紺の、
完璧な貴族の正装のカイルは
フェリシアを目で追わずに、
この国の王子を見つめていた。
眼下には王国の領土が広がっていた。
一方その頃――
狭い螺旋階段を登った先、
別荘の最上階に
ギグの部屋はあった。
ここが新しいギグの座標だ。
座標は、
フェリシアの影から消えると
ギグが戻る場所。
長い間、
大神殿の暗い地下が
ギグの帰る座標だった。
椅子の背もたれに身体を預けて、
天窓に向かって
顔を上げたまま
ギグはゆっくりと目を閉じる。
窓から差し込む太陽で、
灰色の髪が光をはらんでいた。
幼い頃に大神官に紐づけられてから
常に、ぼんやりと見えている
フェリシアのヴィジョン。
だけど今は、
全てを見逃さないように
集中する。
「フェリシア様は怯えていません。
危険はありません。
順調にイスファに向かっています」
そばでは、
サシャが簡素な椅子に座っていた。
美しい両指を顎の下で組んだまま、
微動だにしない。
瞬きもせず、
ギグを見つめている。
神殿はいち早く、
イスファの飛竜が
王都に近づいている情報を
掴んでいた。
ミゲルより先んじて、
フェリシアが奪取されることも、
可能性として想定していた。
だからサシャは、
ギグを、
影からフェリシアを見ることに
集中させた。
無事であることに安堵する一方で、
オズワルド皇子という男の存在に、
サシャは
ギリッと歯噛みをする。
ギグの小さなベッド上には、
開いた星の本。
天窓からは
抜けるような青空がのぞいていた。
――
数日後、
グレンはフェリシアの指示通り、
勇者を探しに旅立った。
銀色の伴侶の印が確かに
左手に息づいている。
朝の冷たい空気の中、
馬の蹄が石畳を打ち、
王都の門が、
ゆっくりと遠ざかっていった。
グレンは印に軽く唇を当て、
愛する人のいない王都を
振り返ることなく
昏い森へと消えて行った。
――
別荘へと続く湖畔沿いの道を
カイルは黒い馬を走らせていた。
湖を縁取る樹々たちは、
秋の色で湖面を染めている。
木立を抜けて
建物が見えると、
速度を緩めた。
別荘の玄関で
使用人に外套を預け、
目的の部屋へ向かう。
一瞬、
いつものくせで、
あの子を探して目が泳ぐ。
カイルの子豚は、
ここにはいない。
――攫われたはずの聖女は
イスファへ招かれて滞在している。
なぜか、
話がそうすり替わっていた。
王族専用の庭で起きた
結界石破壊の失態は隠された。
あれだけ派手に
聖女が拉致されたのにだ――
カイルはフェリシアと
最後に過ごした夜を思い出す。
『ミゲルは……
本当は弱い人なの。
わたしがいなくなることに
ずっと怯えている。
だから……
カイルなら、わかるでしょ?
わたしの代わりに支えてあげて』
魔法灯にたゆたう紫の瞳は
カイルを見つめながら、
違う男の心配をしていた。
「くくっ」
思わず笑いが込み上げる。
カイルはひとり、
早足で廊下を歩きながら
言葉を吐き出した。
「フェリ、
あいつがそんなたまかよ」
カイルは顔を上げ、
ノックもせずにその扉を開く。
室内の人たちの視線が
一瞬だけカイルに集まる。
すでに、サシャや
ミゲルの信頼する側近たちが
部屋には揃っていた。
「やぁ、カイル。
遅かったね」
ミゲルは
伴侶の印を
愛おしげに親指でなぞってから、
顔を上げた。
「さぁ、みんな。
フェリシアがいない間に
この王都をきれいにするよ」
ミゲルは青い目を細め
王子の顔で笑った。
王国編――終――
【あとがき】
ここまで読んでいただいて
ありがとうございます!
三部構成の予定で、
第二部は
フェリシア一人称の イスファ編
三人称の 王国陰謀編
二つが並行して続きます。
誰も読んでくれないだろうな〜と
ネガティブな気持ちでいるところ
読んでくださる方がいるって、
本当に、書く力になります。
感謝感謝です( ; ; )
次回は、
設定やキャラについてアップする予定です。
続きはしばらくお待ちくださいね。




