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58.カイルの告白


カイルの手に口づけを落として、

そっと彼から離れ、

チェストの上のオートマタを回す。


静かな、スローな円舞曲。


カイルは、グラスが床に転がるのも構わず立ち上がり、わたしの手をとった。


音楽が流れると、

わたしたちの身体は自然に動き出す。


軽く回りながら、

満天の星空の下のバルコニーへ。


「ステップは、

いつも早くなくてもいいのよ……」


「スローなのは、

フェリは兄貴と踊るから。

俺は無愛想にただ立っているだけで、

兄貴やミゲルみたいに女にモテるタイプじゃない……」


「モテないのは、知ってるわよ。

子供の頃から乱暴で意地悪だったもの」


嘘だ。


アカデミーでは、

カイルはいつでも人気者だった。


「フェリが好きだったからだよ。

思い通りにならないから、

腹を立てて憎まれ口を言ってた」


吐息のような告白が、

耳をくすぐる。


「ほかの人の気を惹くのは

上手くなっても、

肝心のフェリの気持ちを、

俺に向けられなかった」



「でも……今は、ちがうわ……」


軽く口づけ、

焦らすようにくるりと回る。


聴衆がいなくても、

踊るたび、

カイルが無意識に、

深緑に赤の混じる魅了の魔法が、

身体から滲み出して、

舞い上がり、

星空に消えていくのを感じる。


「イライザとは……」

カイルの言葉が、

円舞曲の拍子に重なるように落ちた。


「二、三度会っただけだ。

マーカスがフェリを独占して、

こんな風にダンスもさせなかった頃だ」


「どうして、イライザと……?」


わたしの問いに、

すぐには、

カイルは答えず、


深くわたしの髪に顔を埋めた。

腕の力が強くなる。


「マーカスが、

イライザに気があるって聞いて。

フェリという婚約者がいるのに、だ!

……許せなかった。

……結婚なんて無くなればいいって願った。


だからそそのかしたんだ。

マーカスを落として、婚約をぶち壊せって」


カイルがそんな風に、

わたしのこと想ってたなんて……


あの頃は夢にも思わなかった。


「あぁ、ほんと……

馬鹿なことをした。

フェリが破談になった後は、

イライザのことなんて、

全然忘れてたんだ。

お前と結婚できるんじゃないかって、浮かれてて……」


「……だから、

降臨祭の日あわててたの?」


「あの日は穏便に済ませるつもりが、

フェリが落ちたって聞いて、

頭に血が上った。

フェリ以外はどうでもいいって、

イライザの目の前で言って……」


カイルの声が、不自然に震えた。


「そのあと、

イライザの友達がなだめに来て、

それきり会ってない。

なのに、さっき読み返した手紙には……」


「何が書いてあったの?」


「ミゲル殿下のことは書かれて無かったよ。

ほとんどは、俺の知らない、

架空の思い出だ。

俺と隣の国まで行ったことになってる。

それと、俺の幸せを願うって……」


「架空の……思い出……?」

ステップが止まる。

冷たい夜風がバルコニーを吹き抜け、わたしの背筋を凍らせた。


イライザがおかしくなっていた。


――この時、わたしたちは、

そう思い込んでしまった。


タイミング良くなだめに来た

イライザの友達。

隣国の話や、王族の暗殺未遂。

それらが一つの線で繋がることになるなんて、

この時のわたしは微塵も考えてなかった。



「ミゲルに、彼女を殺させたのは俺だ」

カイルは、吐き捨てるように言った。


「色仕掛けで、

黒焦げにされるなんて、

誰も思わない。

知らなかったんだもの」


怖くて、

息がつまりそうになる。


「カイル、彼女は今、

女神の庭で安らかでいるわ。

わかるの」


嘘だ。


「わたし女神の声を聞いたのよ、

だから……」


これは、本当だ。


けれど、声が震えて、

カイルには、通用しなかった。


信じてない瞳でわたしを見る。


「イライザが死んだのは、

わたしのせい」


「いや、彼女を巻き込んだのは、

俺が勝手にやったこと……

フェリのせいなんかじゃない」


カイルの声が優しくなった。


震えるわたしを、

包み込むように抱きしめる。


「フェリ以外はどうでも良くなる、

俺が悪いんだよ」


「カイルも、ミゲルも、

わたしがいたから、

イライザを受け入れられなかった。

伴侶の印だって、

わたしがあげたものだわ」


「そうだな……」

カイルは、苦笑した。


「だったら、イライザの死は、

フェリと俺、

ミゲル殿下みんなのせいだ……」


わたしを抱きしめる腕に

力が入るのを感じた。


それは、カイルが出す、

いちばん残酷な結論のような

気がして……


わたしは心から、


イライザが女神の庭で

安息を得ていることを願った。


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