54.夢の扉
やっと会いに行ける。
朝早くに別荘を出た。
誰にも見つからないよう、
誰にも止められないように。
アスランが好きだと言ってくれた、
薄紫色のドレス。
朝霧の中、
スキップするように、
歩く。
市場でアスランの好きな、
緑のブドウを買う。
昨夜、魔力をもらって、
体の中を魔力が巡っている。
ギグに魔力の固定をしてもらっていない。
それでもいい、
アスランに抱きしめてもらえるなら。
面倒なことは全て忘れて、
アスランのことだけ見ていられる。
公爵家。
少し前までわたしの家だったところ。
重い扉を押し開ける。
「アスラン!」
次々と扉を開ける。
わたし、来たよ!
開けても開けても扉が出てくる。
アスラン、
アスラン、
どこ?
わたしは、
扉を開け続ける。
奥へ、
奥へ。
焦りが足を早め、
手が震える。
扉、
扉、
また扉。
静寂の中、
扉の音とアスランを呼ぶ、
わたしの声だけが鳴り響く。
開け続ける。
――アスラン!
「はっ」と、
息を吸って目を覚ました。
現実の天井。
朝の光。
ミゲルの腕が、
わたしの胸の上に重なっている。
浅黒い肌から、
確かな熱が伝わってくる。
ミゲルはうつ伏せのまま、
規則正しい浅い呼吸を繰り返している。
その息遣いが、
わたしの髪を微かに揺らす。
……夢だ。
今わたしは、
ミゲルの隣にいる。
だけど心の中では、
アスランが消えない。
会いたい。
今日は、王宮へ来るようにと、
国王陛下から呼び出しがある。
だから、
まだ――アスランに会えない。
ぼんやりと、窓の外を見る。
薄いカーテン越しに、
夏の陽射しが強く差し込み、
部屋の埃が、
光の中でゆっくり舞っていた。
――聖女と王族の結婚式。
各国から、きっと賓客が集まる。
異教徒の国イスファからも、
高位の者が来るはずだ。
だってミゲルには、
イスファの血が流れている。
浅黒い頬を、
ひんやりとしたわたしの
白い指でなぞる。
肉感的なミゲルの唇が、
かすかに動く。
「フェリ……」
再び、
穏やかな寝息をたてる。
わたしは、
安心して隣で眠るミゲルを
心から、
愛おしいと思う。
触れると、
顔にかかった少し長めの金色の髪が、
さらりと耳の後ろに落ちた。
ミゲルの腕の産毛も、
キラキラと金色だ。
まつ毛も、
眉もキラキラ、
光る……
王族の色。
権力の色だ。
ミゲルの金色の魔力……
やっぱり、
ミゲルは王族の血が濃い。
指を絡める。
この、異国の肌の色……
純血の魔力は何色なのかしら?
膨大な魔力を思うと胸が震えた。
結婚式の日は、
早い方が良い。
なるべく早く、
魔力の多い人に接触しなくては……
そんなことを考えながらも、
わたしはまだ、
夢の中の扉を探していた。




