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45. 乖離した決意


「フェリ!!」


呼ばれる声。


身体に、重みが戻る。


神殿の客間のベッドにいた。


「戻ってきた……!

フェリ、倒れていて、

意識がなかったんだ!」


カイルが、わたしを抱き起こしていた。


空っぽの身体の、

聖痕が光って痛んだ。


身体に巡っていた魔力も、

大事に『格納』していた聖力も、

なにも残っていなかった。


「聖痕が……」


カイルは、急に光り出した聖痕の手を握り、

慌てて魔力を送り込んでくれる。


その手が、ひどく冷たい。


ベッドの周りには人だかり。

安堵の空気が、はっきりと感じられた。


「……トランス状態だったの」


わたしは息を整えながら言う。


「大丈夫。心が、飛んでただけだから」


「フェリ……いったい、なにをしたんだ?」



わたしは、

はっと顔を上げた。


(まだ、近くにいる……!)


「……行かなきゃ!」


制止の声を振り切り、

わたしは走り出した。



「聖女様!」


扉の外で控えていたグレンが、

腕を伸ばす。


「わたし、見つけたの!」


夕陽の沈む方角へ、外へ飛び出す。


カイルが、迷わずついてきた。


――こっちだ……間違いない。


神殿の裏庭を抜け、切り立った崖の縁へ。


荒野を、

馬で駆ける二つの影が遠くに見えた。


はるか遠いはずなのに、

なぜかわたしには、

二人の姿をはっきりと見ることができた。


魔剣を背に携えた赤毛の大きな男と、

フードを被った痩せた男。


一人が、

一瞬だけ振り返る。 

勇者ではない、フードの男が

青い瞳をわたしにむける。


そして、二騎は速度を上げ、

森へと消えていった。


「……勇者」


わたしは、息を呑む。


「伝説の勇者……

本当に、いたんだわ」


「勇者だって?

ほんとうに……」

カイルが、

なぜか不安そうな顔をする。


「……逃げられたわ」


脳裏に、伝説の一節が浮かぶ。



――女神は、

地上に光の聖女を遣わした。


八人の伴侶と

聖力を蓄えた聖女は、

魔剣に力を与え、

人間の勇者と共に、

暗黒竜を討った――


勇者と、

魔剣と、

わたしは、

呼応している。




「……大いなる厄災が来る前に」


わたしは、拳を握った。


「勇者を、捕まえないと」


勇者は、

わたしを『愚かな女』と呼んだ。


聖女だと知ってて、逃げた。


怒りで体が震える。


「どうやら、聖女は……

勇者に歓迎されてないみたい」


それでも、

絶対に、味方につける。


勇者に――

魔剣に膨大な力があることは、

よく、わかったから。


そして、魔剣には聖力が――

聖女が必要なことも確かだ。


カイルは、黙って目を細め、

勇者の消えた森を、

食い入るように見つめていた。


わたしは、深呼吸する。


「……来た甲斐があったわ」



世界は確かに、

滅びへの時を刻んでいた。



――



「ゴードン、いいのか?」


銀の長弓を背負った、

深い泉のような青い目の男が、

聖女の方を一瞬振り返り、

左目の下にほくろがある赤毛の大男に話しかける。


「聖女など、ただの女神の傀儡。

男を惑わす姿にも反吐が出る!」


聖女に勇者と呼ばれたゴードンは、

荒々しく馬を駆りながら吐き捨てた。


【膨大な聖力は聖女からしか得られない。

勇者よ、なぜお前は拒むのだ?

ワタシの力を存分に使いたくはないのか?】


赤毛のゴードンの背で、

魔剣が震え、

若い女の声で囁く。


「魔剣よ!

お前こそ俺の呪いだ。

聖女以上の毒婦め!」


「おい、ゴードン。

俺も女神の企みのひとつだぞ?」


青い目の男――トレースが、眉をひそめる。


「トレース、友よ。

運命に抗おうとする者は、俺の同志だ」


トレースのフードが風に流れ、

短い白銀の髪が夕陽に赤くきらめく。


その姿は、

女神そのものが男性になったかのようだった。


ゴードンは、

トレースの神々しい姿に一瞬、

魅せられたように目を細めたが、

しかし、きっぱりと言い放った。


「俺たちは、

女神のゲームの盤上には乗らない」


【盤上に乗らずに、

完遂できると思うのか?】


揶揄うように妖しく、

魔剣が震える。


ゴードンは噛み締めた歯の間から、

言葉を絞り出した。


「世界を、すべてを歪ませた

女神の言いなりになんて、

なるものか――

俺のやり方で守ってみせる。

そして、絶対に帰る!

俺の居場所に」


トレースはなにも答えず、

無機質な視線を

ゴードンに向ける。


二人はやがて、

昏い森へと消えて行った。





【あとがき】


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


感謝、感謝です。


このあとフェリシアは

女神の真意を知っていくことになります。


最近、

ロボットしかアクセスしていないんじゃないかと、

ドキドキしながら更新しています (>_<)


「生身の人間が読んでるよ」

というやさしい方、

絵文字ボタンをポチッとしていただけたら、

生体がいてくれる!と励みになります。




勇者パーティ


*ゴードン 魔剣を背負う勇者 赤毛の大男


*魔剣 女の声で話す兵器


*トレース 白銀の短髪 青い瞳 勇者と行動を共にする痩せた男


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