表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/62

43.わたしにもできること


気づいたとき、

わたしは、崩れた町の真ん中に立っていた。


石造りの家々は無残に壊れ、

石畳は大地ごと引き裂かれ、

めくれ上がっている。


ところどころに、血の跡が残り、

動物の死体らしきものが転がっていた。


嗅いだことのない、臭気に思わず息が詰まる。


『……ここは……?』


息が苦しい。

こんな惨状、想像したことすらなかった。


『だいちが、ゆれたの。

それで、こわれたの』


ベルの声が、すぐそばで聞こえる。


『こっちにね、たくさん人がいるよ』


小さな手に引かれ、

魂だけのわたしたちは、ふわりと宙を滑る。


虚ろな目で座り込む男性の目の前をかすめるが、反応がない。


わたしたちの姿は、

他の人には見えないみたいだ。


町の中央――

神殿の大聖堂だけが、奇跡のように崩れず残っていた。


そう、わたしが来たかったのは、

この神殿だ。


中へ入ると、

床一面に隙間もないほど、

怪我人が横たえられている。


血の匂い。呻き声。

必死に祈る声。


『カノンお姉ちゃんね、

お医者さんなの!

おてつだいに、きてるの』


痩せた若い女性が、

怪我人を診ていた。

灰色の髪はくしゃくしゃだ。


その時だった。


カノンという女性が、

はっとしたように顔を上げる。


――こちらを、見た。


「ベル!

また勝手に、魂抜けして!」


鋭い叱責。


『きゃぁ!』


ベルの短い悲鳴とともに、

手が離れ、気配がふっと消えた。


ベルは身体に戻った?


ひとり残された、魂だけのわたし。


それでも、

カノンというその女性は治療の手を止め、

まっすぐ、わたしを見つめていた。


この人、わたしが見えている――


「貴女は? 聖女様?」


(……そう)


そうだった。


わたしは『光の聖女』


――なんて、無力な聖女。


傷ついた人たちのうめき声。


ここにいる人たちを前にして、なにもできないなんて。


やっぱりわたしは役に立たない……


聖痕が、トクンと脈打つ。


本当に?

なにもできないの?



――違う



ふわふわと漂う魂だけなのに、

身体をめぐる魔力を確かに感じる。


ギグがいない今、

伴侶たちから受け取った魔力は、

まだ、わたしの中に残っている。


そう、わたしの中には、

今、魔力がある。


これ、使えるんじゃ?


王宮でのお披露目を思い出す。


あの時、

兄たちの手から魔力を吸い上げ、

衰弱させた聖女の魔法。


今はひとりだ。


――聖女の癒しを、

わたしは、

光の聖女は、

使えるはずだ。


祈りのように手を組み、

聖痕に強く願う。



(傷ついた者たちを癒す力を

わたしに!)



途端、

魂だけの身体が、急激に熱を帯びる。


溢れ出した魔力が、

銀色の光の粒となって、

わたしの身体から飛び散った。


光は、聖堂いっぱいに広がり、

横たわる人々の上へ、静かに降り注いだ。


聖堂内の、すべての怪我が、

みるみる癒えていく。


「――聖女様の、奇跡よ!」

カノンが立ち上がって皆に告げた。


「聖女様が、現れた!」


「女神様は……我々を、

見捨てていなかった!」


人々が、次々に祈りを捧げ始める。



――わたし

ひとりでも、魔法を、使えた。


こんな力、わたし自身にはない。


これは、

伴侶たちから分け与えられた魔力。


ギグに変換される前の、

生の魔力を使って――



これだけの人を、癒すことができた。



(わたしにも、

できることがあるんだ……)





次回、やっと勇者登場

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ