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42.変異の地へ


灰色の村からも数人の護衛が加わり、

わたしたちは目的地近くの神殿へ向けて出発した。


街道に出ると、再び馬に乗る。


昨日、わたしがグレンに抱えられたことが気に入らないのか、

カイルは終始、わたしの隣から離れなかった。


「フェリ、

髪色……戻ってきてるな」

移動の途中、カイルがふいに

髪に触れる。


「もう、ブルネットじゃない」


サシャが言っていたより早い。

結局、三日ももたなかった。


自分の三つ編みを手に取ると、

まだらな白銀色が朝の光に溶けるように輝いていた。


「……少し、残念?」


「そうだな。

ブルネットのフェリと夜を共にしたのは、

俺だけだからな」


皆に聞こえないよう、囁く声。


わたしの頬が熱くなると、

カイルは白い歯を見せて、

にこっと笑った。


――やっぱり、

カイルは陽の光がよく似合う。


ちらりと後ろを見ると、

グレンは変わらぬ距離で馬を進めていた。



反聖女派の襲撃もなく、

午後には、

次の宿泊地の神殿へ到着した。


「ここから、

被害のあった地が見えます」


神官に案内され、視界の先を見て、

わたしは思わずため息をついた。


「……遠いわ」


集落らしき影が、

はるか向こうに見えるだけ。


「近くに行きたいの。

こんな距離じゃ、

視察に来た意味がないわ」



あそこまで行く予定で、

計画を立てた。

なのに――



わたしは、ここまでだと告げられた。



思わず強く握り締めた手に、

カイルがそっと手を重ねてくる。


「フェリを、

危険な場所には行かせられない。

サシャと相談して決めたことだ」


そうよね――

あっけなくサシャが承諾したことを、怪しむべきだった。


「俺たちは、フェリに安全でいてほしい。

襲撃だってショックだったろ?」


そう、昨日の夜わたしはカイルの胸で泣いた。


「もう、辛い目に遭わせたくない……

それは皆、同じ思いなんだ。

わかるよな?」


手がふるえる。

わたしを心配するカイルの手を振り払えない。


「……わたしが行けるのは、

ここまでなのね」


グレンも、静かに頭を垂れている。


王都を離れて、ここまで来て、

襲撃まで受けて――


わたしは、ただ守られているだけ。

なにもしていない。


最初から、決まっていた道行き。

また、重たい無力感で心が落ちていった。



少しひとりになりたくて、

用意された部屋に入る。


テーブルの上には、

わたしの好きなお茶が、

よく冷やして置いてあった。


ギグとよく食べる杏の焼き菓子も。


――サシャの、

いつもの気遣い……

こんな優しさにも、わたしは傷ついてしまう。


情けない……


「あ……」


ふいに、冷えたはずの手に、

あの温かさを感じる。

驚いて見下ろした。



「また、道を通って来てしまったのね……」


ベルが、わたしの手を握っていた。

もう片手には杏の焼き菓子。


サクッと音がして、薔薇色の頬が膨らむ。

「美味しい!」


無邪気な笑顔に、癒される。


「お姉さん、あそこに行きたいの?」


「え?」


ぽろぽろと菓子くずをこぼしながら、

小さく首を傾げる。


「……とても、こわいところよ?」


大きな灰色の瞳は澄んでいて、

驚いたわたしの姿を、

まっすぐ映していた。


ベルは――

わたしの影の奥に

ずっといたのだ。

ギグのように、

気配を消したまま。


「あそこにはね、いとこの

カノンお姉ちゃんがいるの。

だからね、ベル行けるよ!」


「行きたいわ。

でも、そんなこと……

できるの?」


問いかけると、

ベルはにこっと笑った。


「できるよ。

だけどね、からだは――

おいていくの」


その言葉に、背筋がひやりとする。


「ベルは大丈夫なの?

危なくない?」


「うん! へいき!

お姉さんといっしょなの、

ベルうれしい!」


手を繋いでいない方の小さな手が、

わたしの銀色の三つ編みを掴む。


「お姉さん、

ほんとうにお姫さまみたい。

すごく、かわいい!」


……かわいいのは、

ベルのほうよ。


そう思って、ふふっと笑った、

その瞬間だった。


――身体が、ふっと軽くなる。


視界が反転し、


人形のように

ソファへ倒れ込む自分の姿が、

遠くに見えた。


(……え?)



黒い闇に

凄まじい速さで引きずり込まれる。



風も、

音も、

色もなく、


ただ落ちていく――


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