表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/62

35.旅路の朝

ミゲルは執拗にわたしを抱きしめた。


『君だけを愛する。約束するから』と吐息のように、

うわごとのように、繰り返し耳元で囁く。

『だから、僕を愛して』と懇願した。


――これが、恋人どうしの睦言


わたしが、愛を言葉にすると、

深い口づけと共に、

金色の魔力が流れ込んだ。


惜しみなく与えられる熱に満たされながら、

わたしたちは溶け合うように眠った。


早朝、

安心してぐっすり眠るミゲルの頬にキスをして部屋を出た。


――


自室に戻って、侍女を呼び旅の身支度をする。


出発まで、あまり時間がなくてギグを呼べない。


気がかりに思いながら、

色のある衣に袖を通すのが、なんだか嬉しい。


聖女になってから、

身にまとうのはほとんど白ばかりだから、

たとえ旅人用の簡素な紺色の服でも鏡に映る自分は、

いつもより少しだけ自由に見えた。



侍女たちが衣を整えていると、

サシャが静かに入ってきた。


目立ちすぎる銀色の髪も、

彼に魔法で茶色に染めてもらった。


「髪色は三、四日で落ちてしまいますから、

お気をつけください」


そう言いながら、サシャは指先でわたしの髪をすくい、

丁寧に編んでいく。


力を入れすぎない、ゆるやかな三つ編み。

肩に落ちるその感触が、どこかくすぐったくて、

少し照れた。


「きっちり編まない方が、市井の者に見えます」


確かに、侍女たちが整える髪は、

香油をたっぷり含んで微塵も崩れない。


この髪は、風に揺れてほどけてしまいそうだ。


「お、なかなかいいじゃん」

振り返ると、

カイルが腕を組んで品定めするように見ていた。


「ブルネットだと、逆に紫の瞳が映えるな」

おしゃれ番長のお墨付きに、嬉しくなる。


サシャは出発の直前まで、

わたしの手を握り魔力をおくってくれた。


「俺がついてるから、

聖痕に痛みなんて出ないよ、サシャ」


「カイル様、聖女様をくれぐれも、

よろしくお願いします」


心なしか二人は、

少し長く目を合わせて何かを確認しているように感じた。


――


陽の昇りきる前に出発した。


わたしとカイル、わたしの騎士グレン・ハート、

護衛騎士のハロルド、ヒックス、ヘインズ。

六人での旅だ。


神殿が管轄する安全な街道を進む。


要所ごとに人が待機しており、

疲れた馬はすぐに新しい馬と替えられた。


――聖女様のために。

その言葉の裏で、

どれほど多くの人が動いているのかを改めて思い知る。


こんな旅は、はじめてだった。


鬱蒼とした森へ入ると、

むせ返るほどの濃い緑の匂いを吸いこんだ。


馬の足元では、

乾いた土埃が舞い上がり、

小石が軽やかに跳ねた。


整えられた公爵家の領地と違う荒々しさが、

どこか新鮮で思わず口元がゆるむ。


「馬に慣れていらっしゃいますね」

並走してきたグレンが、水筒を差し出す。


「ありがとう。

前に、乗馬できるって証明したでしょう?」


そう言うと、彼は一瞬、言葉に詰まった。


――マーカスとの婚約が解消された日。

王宮の裏口で、

馬車を拒んで、彼の馬を借りたこと。


「あ……」

思い出したらしい。


グレンの表情は珍しく動揺していて、

それがおかしくて、わたしは小さく笑った。


カイルが、なぜかグレンとの間に割り込んできた。


「俺の妻ってことも忘れるなよ、フェリ」


以前、メグに会った時に言った言葉を、

今頃返された。


心なしか少し前を行くカイルの耳が赤い。


――


休憩を挟みながら進み、


空が茜に染まりはじめる頃、


宿泊地の神殿の尖塔が浮かび上がってきた。






ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。


視察中はカイルとグレンのターンです。

(いないのに存在感をだすのもいますが……)

気に入ったキャラの回に、リアクションいただけたら嬉しいです。


カイルとフェリの女友達メグとの短い番外編を活動報告に貼ってあります。

よければのぞいてみてください。


リンクです。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3076772/blogkey/3655134/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ