23.お披露目―ミゲル王子
魅了の余韻が、まだ場の空気にほのかに残る中、
アスランとカイルの手が離れる。
国王陛下の傍らにいた、ミゲル王子が前へと進み出て、
彼の肩に置かれた陛下の手がゆっくりと離れた。
陛下の硬い表情が、なぜか印象に残る。
正直、わたしは、聖痕が暴走しかけたことと、人々の溢れる熱狂で怯えていた。
「素晴らしい演出だね。
僕も負けていられないな」
わたしの震える手をミゲルがそっと取って、笑顔を見せる。
囁く声は冗談めいているのに、
その手だけは、不思議なほど揺るぎない。
彼は、特別なことはしない。
だけど、迷いなく歩むその姿に、
人々の視線が吸い寄せられていく。
浅黒い肌に肩まで流れる明るい金髪。
天性の美貌と艶やかさだけで場が華やぐ。
「皆、驚いただろう」
ごく自然に、語りかける。
少しハスキーでよく通る声が広場に響く。
「大地が揺れ、聖女が現れた。不安を抱くのは当然だ」
その言葉に、いくつもの顔がわずかに上がる。
責めるでもなく、ただ理解を示す声音だった。
「だが、はっきりさせておきたい。
光の聖女は、ひとりで世界を救う存在ではない」
ざわめきが広がる。
「王族が支える。貴族が支える。
神殿が支える。
そして——何より、ここにいるあなた方が支えるのだ」
民衆へ向けられた言葉に、空気が変わる。
「この脅威は、誰か一人に背負わせて終わるものではない。
聖女の使命は、我々すべての覚悟の上に成り立つ」
束の間、
強い光を宿す王族の青い瞳で、
確かめるように、わたしを見た。
そして、再び民衆へと視線を向ける。
「私は、彼女を犠牲にはしない」
わたしの胸が強く鳴った。
神官たちが息を呑み、
貴族たちの間に小さなどよめきが走る。
国王陛下は何も言わない。
ただ、厳しい眼差しのまま、
黙ってミゲル王子を見つめていた。
思わずミゲルを見上げる。
「守りたい。
だが、それは私一人ではできない」
ミゲルは民衆に向けて両手を広げた。
握ったわたしの手も一緒に。
ここにいる全ての人の視線がわたしたちに集まっていた。
「どうか、私たちに力を貸してほしい。
あなた方、ひとりひとりの力が必要なのだ」
広場に静寂が落ちる。
熱狂に呑まれていた人々が、
まるで我に返ったように互いの顔を見交わした。
やがて、
ひとりの老人が胸に手を当て、深く頭を垂れる。
それをきっかけにするように、
母親に抱かれた子供、
鎧姿の兵士、
祈るように手を組む女たちが、
次々と静かに膝を折っていった。
波のように、その動きが広がっていく。
今度は魔法ではない。自らの意思で。
わたしは息を呑む。
ミゲル王子は、カイルを盾にわたしを脅迫した悪趣味な男だ。
悔しい、認めたくない……
だけど、
この人――父たちのように、
わたしを、聖女という器として見ていない。
今までにない、
ミゲルという人へ向ける感情が、
わたしの中で動きだしていた。
この手を取った男が、
どんな狡猾な思惑を持っていたとしても、
彼は強い。
民衆を巻き込み、神聖なだけの聖女を、
皆と共に立つ場所まで着地させてくれた。
伴侶を持つということは、こういうことでもあるんだ。
恐怖はまだ、消えていない。
それでも――
わたしはもう、ひとりじゃなかった。




