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16.甘やかな儀式

子供の頃の不安な夜のように、

ギグに手を繋いでもらっているうちに眠ってしまった。


昼過ぎまでぐっすり。



人払いをして、湯に浸かりながらギグを呼び出す。


ギグはいつも影の中にいる。

わたしたちは全ての時間を共有している。


昨夜のことも――全部。

ギグはもうわたしの一部だった。



「フェリシア様が聖女にならなければ、

俺の任務も、降臨祭の日で終わっていました」


「じゃあ、これからもギグは、わたしのそばにいてくれるのね?」


湯の中で皮肉に微笑んでみせる。

「ふふ……聖女になって、良かったことが一つ増えたわ」


湯に浮かぶ香油も、いつもと違い、神殿で使われたものと同じだった。


(聖女様用ってわけね)


湯気にたゆたう最高級の香りをゆったりと吸い込んだ。


「聖痕が痛んだときには、ギグに手を握ってもらえばいいわね」


「俺の魔力は闇の力です。

聖女様に魔力をあげられません。

なので、痛みを鎮めることもできないのです」


何気なく呟いたが、返ってきた言葉は、意外だった。


「……そうなの?」

思わず、肩を落とす。



「そんなに、がっかりしないでください。

闇魔法には、聖女様が受け取った魔力を闇で包み、

聖力として安定させ、聖女様の身体に貯める力があります」



「じゃあ……聖女が魔力を集めるのに、闇魔法は必須なのね」


「はい。俺の役目です」

わたしを見つめる目はいつものように穏やかで優しい。



(聖力に変える力……

もしかしたら、これが本当のギグの役目なんじゃ?)


「もし、わたしがギグを遠ざけていたら……」


「闇魔法を操る者は他にもいます。

俺は任を解かれるだけです」


変わらぬ穏やかな声に、わたしは動揺して目を伏せた。



「じゃあ、今すぐやってみて。

せっかくもらった魔力だもの」


「今、ですか?」


「そうよ。ギグが大丈夫なら」


そう言って、わたしは急いで湯から上がり、ギグの前に立った。


すると、彼の身体から、

黒い霧のようなものが静かに溢れ、わたしへと伸びてきた。


「……怖くありませんか?」


灰色の瞳が、わずかに揺れた。


不安そうなのは、わたしじゃなくて、ギグの方だった。


「ギグの魔法だもの、怖くなんてないわ。

闇魔法を見るのは初めてだけど」


霧は、ひんやりとした、柔らかな綿のように、わたしの全身を包み込んだ。


身体から霧散しようとしていたアスランの熱が、

ギグの闇によって、わたしの中に閉じ込められ、静かに沈殿していくのがわかる。


それは、受けた『愛』を、ひとまとめにして、

無機質な力に変えているような、残酷で、ひどく甘やかな儀式だった。


「……大丈夫ですか?」

ギグはまだ不安げだ。


「大丈夫よ。なんだか体が軽くなって……

『聖力が格納』されたわ」


ローブを羽織りながら、

そんな言葉が自然と口をついてでて驚く。


わたしの身体は、聖女の身体に変わっていた。


これからは、愛を交わす度に、常にこの儀式を繰り返すのだ。

聖力を集めるために……


「ありがとう、ギグ……」

わたしは力なく笑い、ギグはそれ以上なにも言わなかった。



――闇魔法を終えると、侍女たちを呼んで身支度を整えた。


サシャが、公爵家に来て、わたしを待っていた。






ギグは最初からこのための存在なのです。

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