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11. 公爵家に帰る

フェリの怒涛の19才の誕生日は誰にも祝われず、まだ続きます。

公爵家に戻れる頃には、空はすっかり暗くなっていた。


「……申し訳ありません。

私は、今すぐに聖女様のお側にお仕えすることができません」


馬車に乗り込む前、サシャは静かに頭を下げた。


「神殿の周囲には、すでに聖女様を一目見ようとする民衆が集まっています。

これから先、どこへ行かれても同じです。どうか、お気をつけて」


サシャは、今日会ったばかりのはずなのに、

もうずっと前から知っていたかのように、

当たり前の顔で、わたしを気遣い、必要なことを教えてくれる。


信用していいかどうかは、まだ別だけれど。


わたしを乗せた馬車は、

人目を避けるために秘密の通路を通り、神殿を後にした。


墨を流したような暗闇を馬車は行く。


人生で、最悪の誕生日だった。

そして、人生で一番泣いた日でもあった。


わたしが聖女だということ。


生まれる前から、

神託によって『聖女として用意されていた』ということ。


わたしの誕生そのものが、計画だったということ。


すべてがあまりにも衝撃的で、

今もまだ『嘘なんじゃないか』と思ってしまう。


だけど、右手の聖痕は、そんな淡い期待を打ち砕くように、

じくじくと、現実の痛みを訴えてくる。


嘆いて、絶望しても、

――それでも、今、死にたいわけじゃない。


前を向いて、生きなければならない。

もう、元の生活には戻れないのだから。


門前には、神殿から先に公爵邸に戻っていた義父と母が待っていた。

館の外で出迎えられるなんて、今まで一度もなかった。


母は、感極まった様子で、

聖女となったわたしに抱きつこうとしたけれど、

神殿から付き添ってきた聖騎士が、無言でそれを制した。


「……わたしに、触れないでください」


そう言うだけで十分だった。

サシャが教えてくれた通り、今のわたしより『上』なのは、

国王陛下だけなのだから。


自分を産んだ母なのに、びっくりするほど何の感情も湧かなかった。

母は、常にわたしに無関心だった。

思えば、この人は、フェリシアという子供は必要じゃなかったのだ。

はじめから、聖女しか待っていなかったのだから。


義父は、ずっと前から『聖女用の部屋』を用意していたらしい。

やっぱり――すべて、計画通りだったのだ。


見知らぬ豪華な部屋には、興味がなかった。


悲しむより、むしろ可笑しくて、

わたしは小さく微笑んで辞退し、

慣れ親しんだ自分の部屋へ向かった。


扉を開けると――


カウチに座り込み、頭を抱えたままのカイルがいた。


次回

公爵家次男 カイル回です。

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