七十一 ヒーロー? 魔王?
神妙な顔をしていた信用できる兵士が、たっぷりと、長い間、沈黙した後で、力の抜けているような感じの笑みを顔に浮かべた。
「分かった。そうしてくれるか?」
信用できる兵士が、頭を撫でようと思ったのか、言ってから、柴犬に向かって手を伸ばす。
「ちょっとだけだからわんね。勘違いしちゃ駄目なんだからわんね。主様。これは浮気じゃないんだからわんね」
柴犬が、恐る恐るといったような体で、ゆっくりと目を閉じると、耳をイカ耳にして、信用できる兵士に頭を撫で撫でされ始めた。
「やってみよう。それで、見付けた時の連絡は、どうやって取ろうか」
町中一は、魔法を使うのは当たり前として、どうしようか? どこにいても俺にすぐに状況を伝えられるような魔法にするか? それとも、そうだな。携帯電話とかを出すとか? カメラ付きの物ならば、映像で俺も見られるしな。などと、頭を撫で撫でされて、最初こそ、硬い表情をしていたが、段々と、気持ちの良さそうな表情になっていっている、柴犬の顔を見つつ、考える。
「魔法で作った何かしらの機械のような物を、そこそこ、そこなんだわん。渡すのが良いと思うんだわん。撫でるのがうまくなって来てるんだわん。もっともっとなんだわん。脳内同士で連絡とかだと、正確な情報が、伝えられなくなる可能が、あるんだわん」
柴犬が、撫で撫でに関する言葉と、連絡手段に関する言葉を、ごちゃ混ぜにしながら言った。
「そんな事ができるのか?」
信用できる兵士が、柴犬の魅力にどっぷりとハマっているらしい表情を見せつつ、柴犬を撫で撫でし続ける。
「できる。取り敢えず、適当に出してみるから、それを使ってみて、それの駄目な部分を改良して行こう」
町中一は、カメラ付きの携帯電話を二台。バッテリーとか電波とか故障云々とかはご都合主義的な奴で。というような文言で魔法を使ってみた。
「君は、本当に、凄いな。それは、なんだ? そんな物は見た事がない。どんな風に魔法を使えば、そんな物が出せるんだ?」
一瞬にして町中一の手の中に出現した、二台の携帯電話を見て、信用できる兵士が、柴犬を撫で撫でしていた手を止める。
「どうして出せるのかは、俺にも分からないんだ。まあ、それはともかく、どんなもんか、すぐに使ってみよう。使い方は」
町中一は、信用できる兵士に、自分でも操作方法を確かめながら、携帯電話の使い方をレクチャーした。
「これは、遠隔伝達魔法のようだが、こんな物を使うのは初めてだ。使い方も、この画面? という物を指で触って操作するなんてのは、なんていうか、斬新というか、面白い」
信用できる兵士が、新しい玩具をもらって喜んでいる子供のような目で、携帯電話を見つめ、懸命に町中一から教えてもらった操作を覚える為に、同じ操作を繰り返す。
「うん。操作の方は覚えられて来たみたいじゃないか。何かあったらいつでも連絡してくれ。俺がすぐに出られなくっても留守電もあるし、必ず連絡は取れるはずだ。後は、そうだな」
他に何かあるかな? おお。そうだ。まあ、この兵士さんに関しては、平気そうだけど、他の奴らはどうなるかは分からない。一応言っておこう。町中一はそう思うと、一度閉じた口をすぐに開いた。
「その、あれだ。その道具の事とか、俺の事とかは、あまり、いや、絶対に人には話さないで欲しい」
「どうしてだ? 何も悪い事をしてるわけじゃないのに」
「理由は、なんというか、えっと、目立ちたくないからかな。ないとは思うけど、変に話題とかになって、有名にでもなったら色々面倒そうだし。それと、あれだよ。そんな事になったら、この活動にも支障が出るかも知れないしな」
町中一は、わざと真剣な目を作って、信用できる兵士の目を見た。
「そうか。確かにそうかも知れないな。絶対とは言えないが、できる限り、君の事は誰に話さないように努力はしてみる」
「自信がなさそうだな。まあ、絶対は無理かも知れないもんな。だが、極力、その方向性で頼む」
「ああ。絶対と言えないですまない。嘘は吐きたくないんでな。家族がいて仕事もあって毎日の生活もある。そんな中で、こんな重大な秘密を守り続けながら、人々を見守るのは難しいと思ってな」
町中一は、信用できる兵士の目を見ている目を、細める。
「正直な人なんだな。絶対とか言って悪かった。あんたの事を信用する。だから、あんたの思うようにやってくれ」
「じゃあ、大々的に宣伝しよう」
「って、おいおい。本気か?」
「嘘だよ、嘘。冗談って奴だ。君の言葉が嬉しくって、ついからかいたくなった」
「前言撤回だ。この嘘吐きめ」
「すまんすまん」
「むうぅぅぅわん。二人だけでイチャイチャしてずるいんだわん。これも混ぜるんだわん」
柴犬が、町中一に飛びかかって来た。
「よーしよーし。わしゃわしゃわしゃわしゃ~」
町中一は、柴犬の全身を、盛大にわしゃわしゃする。
「これは、また、なんとも。頭のかわいそうな生き物の事が、なんだかとっても、かわいく思えて来てしまってるよ」
「そうだろう。こいつは、飛び切りかわいいからな」
「おーい。どこだ~?」
「隊長が戻ったぞ~。帰還命令が出たぞ~」
信用できる兵士の、仲間の兵士達の声が、森の木々の中から、聞こえて来た。




