トラム王国に着いた
「では参りましょうか」
「はい! よろしくお願いいたします!」
町で一泊し、これからトラム王国騎士団の方々と共に王国へ向かう。
「本当にこの一般人も連れて行くのか?」
「酷いですね。この前は『こ、今回は美人揃いだねぇ! ハァハァ、いいねぇ~暇な旅には美しい花が必要さぁ! ぐふふふ』って言いながらいやらしい顔をしていたくせに⋯⋯」
「そんな言い方してねーだろう?! なあ皆? ⋯⋯え? どうして誰もロゼリーを否定してくれないの⋯⋯?」
いつもは従順な部下達なのに、その時は誰も隊長と目を合わせようとしなかった。
「オディットさん、この荷馬車には何が積んであるのですか?」
幌の掛かった四台の荷馬車には何が乗っているのだろう? 本当の商隊ではないのだから商品ではないはず。
「そうですね、例えば甘芋ですね。トラム王国の南部であれば育ちそうですから試しに買ってみましたよ」
「へぇ~」
甘芋かぁ。ベール王国の平民に人気の芋で、砂糖の買えない人々にとって大事な甘味となっている。庶民の間では人参の甘味でおやつを作る事もあるけれど、甘芋の方が甘いので子供達に喜ばれるのだ。でもあまり貴族は食べない芋である。
「後は本とか、流行りの商品ですかね。どうぞ? 変な物は無いので見てみて下さい」
お隣の国の流行は気になるらしい。それに文化レベルも軍事レベルも気になるのだろう。馬車の中には木箱に入れられた様々な分野の本が積んであった。
荷馬車は昨日よりも少し速度を上げて進んで行く。
そしてとうとう⋯⋯
「おお~! ロゼリーのトラム王国初上陸!!」
「よかったですね!」 「おめでとう!」
国境を越え、ロゼリーは念願のトラム王国への入国を果たしたのだった。
ただ奇しくもその場所は前世で幾度となく戦った戦場でもあった。
「感慨深いね」
自分達が命がけで戦ったからこそ、今ここに国境線があるのだ。人によってはもっと土地を奪えたんじゃないの? と思うかもしれない。でもここがあの時の精一杯だったのだ。
国境を超えると直ぐに慰霊碑が建てられているのが目に入った。
「よし国境も無事に超えたし、ここで少し休憩するぞ」
しばし休憩となったのでロゼリーは慰霊碑を見てみる事にした。
まず真ん中に大きな慰霊碑があり今でも花が供えてある。その左右には小さな横長の石があり、文字が沢山刻まれていた。
「へぇ~戦没者の名前じゃん」
そうなると気になるのが自分の名前だ。近づいてフェリックスの名前を探してみる。
「フ、フ⋯⋯フェリックス! あった~!」
自分の名前があったので嬉しい。もちろん亡くなった事は嬉しくないが、何故だか胸が熱くなる。フェリックスは慰霊碑に名前を刻ませてもらえるくらいには存在感があったらしい。
「しかし驚くほど名前が沢山あるな⋯⋯こんなに戦死者が出たんだな」
あの戦争で一体何を得たのだろう。フェリックスみたいな下っ端はいつだって命令されるだけだったけれど、お偉いさんは何を求めて戦争を始めたんだろうな。私には難しい外交なんて分からないけど、それはこれだけの死者を出してでも叶えたかった事なのか。
「親御さんも戦場で息子の命を散らさせる為に育てたんじゃないだろうに」
力のない平民には、ままならないよな。
「何してんだ?」
「あぁ、エロ隊長⋯⋯」
慰霊碑前にいると後ろから声を掛けられた。
「エロくねぇよ! あれはすべて演技だからな! っておい、どうして『そういう事にしておきますから⋯⋯』みたいな顔してんだよ?!」
え? ツッコミが長いし細かいし⋯⋯ しかも面白くない⋯⋯
「⋯⋯あぁ慰霊碑を見ています。ここで随分と多くの方々が亡くなったんだなと思いまして」
「⋯⋯ああ、そうだな。だがこの慰霊碑に刻まれた名前はトラム国民だけだぞ。お前の国側の死者じゃない」
「⋯⋯そうですね」
フェリックスも戦って敵国に死者を出している。俺は強かったからな。
「そろそろ先に進むぞ」
「はい変態長」
「俺が変態長ならお前は変態員だ!」
荷馬車はトラム王国の王都を目指して走り始めた。
「本当にありがとうございました」
「いえ、ロゼリーさんはこれからどうするのですか? このトラム王国で冒険者活動ですか?」
「そうですね、まずは住む所を探して⋯⋯あの人を探したいと思います」
この国を目指した理由。それは前世で過ごしたトラム王国に帰りたかったのもあるが、一番の目的はやっぱり⋯⋯
「そうだ、オディットさん達はトラム王国の騎士ですよね? だったら知っていますか? ルーカス・グロリアって騎士を。あぁもう冴えない爺でしょうけど。むしろ昔から冴えなかったですけど」
そう。フェリックスの親友はルーカス・グロリアなんて大層な名前をしていた。
――その昔――
『君達が戦争に向かう騎士候補者だな。私が君達の指導をするルーカス・グロリアだ。よろしく』
あれは俺がまだ冒険者として活動していた時の事だった。いきなり戦争が始まって、ギルドのクエスト欄には騎士募集の紙が貼られた。そこには破格の値段が記載されていたので、その日暮らしをしていた俺はすぐに食いついたのだ。そこで出会ったのが親友との始まりだった。
「ん~? すみませんが知らないですね。でもグロリア家ですか⋯⋯」
「もうとっくに引退しているのかもしれませんね」
あの親友は嫡男ではなかったはずだけど、家業を手伝っていると言っていたしな。きっと今頃は安全なデスクワークをしつつ綺麗な妻と子供と⋯⋯
「微妙にムカつくな。妻子には悪いが一発殴りに行こう」
「えぇ?! ここまで復讐に来たのですかぁ?!」
ロゼリーは騎士団の皆さんにお別れの挨拶をしてその場を後にした。




