攫われた女性達と村
一人の斥候の男がオディトさんと共に下調べに向かい帰ってきた。
「小さな廃村の様な村だ。そこに八軒の民家と小屋がある。住民の数は正確には分からないが、30人くらいだろう」
我々の戦力は御者の男の四人のうち、一人は馬車で待機するので三人と商会員に扮していた四人、お坊ちゃま、従者、オディットさんに私の11名だ。
「ただ⋯⋯あいつらは多分戦闘の素人ではない」
「あの動きは⋯⋯かなりの実践経験がありそうでしたよね」
だろうな。ほんの一瞬で三人を攫われたのだ。あの連帯はド素人の盗賊なんかじゃない。
パーティーを組んでいた元冒険者か元騎士か⋯⋯
「今まででどれくらいの人が攫われているのですか? やっぱり人身売買組織が絡んでいる感じですか?」
「いや違う。何故か女性ばかり攫われるので娼館や性奴隷として売られているのではないかと調べたのだが、その痕跡もないんだ。だからこそ、ここまで乗り込んで来て事実を明らかにしたかったのもある」
何だそれは⋯⋯むしろ嫌だな。そういえば昔、若い女性ばかりを攫って甚振って殺していた殺人鬼がいたよな⋯⋯。早く三人を助けなければ危険だ。
「よって事情が聞きたいから犯人を生け捕りにして欲しい」
「そりゃ大変だ」
実力者の生け捕りは難しい。実力が拮抗しているのに手加減したらこっちがやられるしな。
昔、気絶した奴を放置したら気絶は演技で背後から襲われた事があった。あれは冷や冷やしたな。今回はきちんと拘束しよう。
「じゃあ作戦開始するが、お前は少しでもおかしな動きをしたら切るからな」
「嫌だぁ~私の服を切らないで下さい。そういえば今朝『ロゼリーちゃん、ハァハァ⋯⋯今僕の体を舐める様に見ていたよね? ハァハァ⋯⋯エッチだなぁ⋯⋯グヘグヘ』っておっしゃっておりましたが、あなたがエッチですね」
「今から作戦だからな! 緊張感を削ぐ様な事を言うのは止めてくれ!!」
我々はお坊ちゃまの指示通り四方から村を囲んで待機していると、すぐに魔術による合図が光った。
作戦開始だ。一緒にいた商会員風の騎士が目の前の民家に向かったので、私は外にいる第一村人に向かった。
「畑仕事ですか? 精が出ますね! 拘束」
「え? うわぁ――――」
「じっとしていて下さいね」
中距離からの魔術による拘束。これなら指一本も触れる事なく距離を保ったまま無効化できるので安全だ。
それにロザリーの可愛い肌が汚れないし、お坊ちゃまみたいな変態に服を切られる心配もない。生け捕りだって完璧だ。 私が優秀過ぎる。
「おい、どうした? は? お前は誰だよ?!」
「こんにちは。拘束」
もう一人畑仕事をしていた男が私の前に出てきた。我々お坊ちゃま集団は11名で、この村の人は30名くらいなので二人を無効化すれば部外者である私のノルマは達成だろう。よって終了。
「なあお前たち、街道で攫った女性達はどうしてるんだ?」
「ひゃああ!? 縛られてる?! これは一体どうしたのよ?!」
拘束された男を見て驚いた女性がこちらに向かって走って来た。
「ごめんね? 拘束」
「きゃあ! あ、あなた!」
どうやらこの女性は初めに拘束した男の妻らしい。
「な、何があったのよ! ちょっと、止めて下さい!!」
女性に叫び声に反応して、また一人女性がこちらに走って来た。
「止められないのよ。拘束」
「え? 何でぇ?!」
計四人も畑で拘束してしまった。ロゼリーは働き過ぎだ。 四人を一か所に集めておく。
「じっとしていれば、今から指一本触れないから安心してね。だがなぁ、暇だし、少し話を聞かせてくれよ? どうして人攫いをするんだ?」
まだ各所で戦闘は続いているみたいなので、彼らから話を聞いてみた。
「おい! お前はここで何をしているんだよ?! サボってないでちゃんと戦闘に参加したのか?!」
「見て下さいよ、部外者である私は四人も拘束しましたよ。隊長であるお坊ちゃまは何十人拘束されたのですか?」
「⋯⋯一人だ」
「ショボ!『ハァハァ⋯⋯ロゼリーさんはどんな〇〇が得意かなぁ~? ハァハァ⋯僕は何が得意だと思う~? ハァハァ⋯⋯』とか偉そうに、いやらしく聞いてきたくせに」
「俺はそんなに『ハァハァ⋯⋯』してねーよ!! それにその〇〇って何だよ! 魔法って言葉が入っていただろ! いやらしい言葉が入りそうな言い方をするな!」
「お坊ちゃまはハァハァ⋯⋯していますよ。自分の呼吸音なんて普段は気づかない物ですからね」
「え? ⋯⋯嘘だろう? そんな⋯⋯」
少しからかっただけで落ち込んでしまったお坊ちゃまは無視して、オディットさんに女性冒険者三人について聞いてみる。
「ロゼリーさん安心してください。あの三人は保護されましたよ。あちらで怪我などは無いか確認中です」
「よかった~。でもこれからどうするのですか?」
「そうですね⋯⋯どうしましょうか⋯⋯」
人攫いは良くない。絶対に駄目な事なのだが⋯⋯
――攫われた女性たちの声――
「いきなり攫われて始めは驚きましたし、失望もしましたが、今ではここでの生活に慣れてしまいました」
「子供もいますし、今更行く場所もありませんよ」
「いい人達なのよ? 女性を攫うのは良くないけどね」
攫われた女性達は売られる事もなく、ここで普通に生活をしていた。
ならどうしてこの様な事態が起きているのかと言うと⋯⋯
「俺達は元ベール王国の騎士だ。先の戦争で負傷して、何の保証も無しに騎士団を解雇された」
「仕事を探しても怪我をした俺達を雇う人はいなかった。あの頃は皆がその日を生きるだけで精一杯の世の中だったからな」
「たまたまこの村に辿り着いたんだ。戦争で住民達が亡くなったらしいこの村には家もあったし、畑も井戸もあったから⋯⋯」
ここで元騎士達は農業や狩猟をする生活を始めたらしい。その後、同じような境遇の村人がポツポツと増えて約20名となった。
だがここには女性がいない。仕方のない事だと思っていたのだが⋯⋯
「たまたま旧道で強盗が出たらしくてな。俺達の村とも近いから見に行ったんだ」
村のそばに強盗が出たなら自分たちの村も襲われるかもしれない。彼らは現場を見に行った。
「そうしたら怪我をした女性が二人いたんだ」
剣で切られた傷は深く、かなりの出血だったがそこは戦地帰りの騎士達だ。直ぐに処置を施し、村に連れ帰って看病を始めたそうだ。
彼女ら二人は姉妹で、両親と引っ越しの為に家財道具などを積んだ荷馬車で移動していたらしい。そこを強盗に襲われたそうだ。残念ながら彼女達のご両親はすでに亡くなっていた。
「親も親戚もいないし、家財道具もすべて取られ、大きな怪我までしてしまい、行く場所がないと⋯⋯」
姉妹はこの村で生活を始めた。そして所帯を持った。
「そうなると誰だって結婚したくなるだろ? でも出会いもないし、俺は怪我で左腕の動きが悪いんだ。これじゃあ普通に出会って結婚なんて無理だろ? だから⋯⋯」
女性を攫ったらしい。
「人攫いは犯罪だ。お前らの家族だっていきなり攫われたら嫌だろ?」
お坊ちゃまの言う通りなんだよね⋯⋯でもさぁ⋯⋯
「お父さん悪い事したの? どうして縛られてるの?」
「ハハハ⋯⋯すまないな⋯⋯」
これを見ていると何とも言えない⋯⋯どうすんだ?
「あの⋯⋯見逃してもらえませんか? もう人攫いはしないと約束させますから⋯⋯」
「男手を取られると村は危険になります。そばの旧道は強盗も多いですし」
「農作業も狩猟も私達女性だけでは無理です」
驚くほどに攫われた女性達がこの村での生活に馴染み、まぁ幸せそうであった。




