これは罠だったのか
「これは一体何事ですか?!」
盗賊が一瞬で現れて一瞬で去って行った。ロゼリーは直ぐに馬車に戻り被害の確認をするのだが、四台の馬車に積まれていた荷物には一切何も手を付けられた痕跡はなかった。
何故なら盗賊が奪った物は――――
「お坊ちゃま、三人はどこです? エリーさんとマリーさんとリリーさんは?!」
「攫われたね」
「はあ?!」
意味が分からない。三人が攫われた事もだが、何よりもこのお坊ちゃまが全く動じていない事に。
「⋯⋯単刀直入に聞きますが、あなたが女性をここまで連れて来て奴らに売ったという事ですか?」
「ちょっと待て、この喉の剣を離してくれないか? 俺の首が切れそうだ」
ロゼリーはお坊ちゃまの背後から彼の首に剣を当ている。
それに気づいた商隊の男達が剣を抜いてロゼリーを囲んだ。
「ヤダね。お前らは信用できない。始めからおかしいと思っていたんだよ。お前ら全員体格いいし、商人に見えないんだよ」
ここにいる男共だけでも護衛は十分そうなのに、わざわざお金をかけてまで五人もの経験の浅い女性冒険者を雇う意味が分からなかった。ただ単に女性が好きなのかとも思ったが、エロ男の持つ欲望に塗れた独特の目をお坊ちゃまはしていなかった。
そうだ、こいつらは初めから女性達を売るつもりだったのだ。Eランクの冒険者ばかりなのも不審だったし、冒険者は生活に苦しい平民が多く、クエスト中に行方知らずとなっても怪しまれない。そして頻繁に人の通る大きな街道を通らず、こちらの旧道を選んだのも初めから予定していた事だったのだろう。
「お? お坊ちゃま、変な動きはするなよ? 頸動脈を間違って切ってしまうぞ?」
「チッ」
こっそり魔法を発動しようとでもしているのだろう。悪いがそんなのはお見通しである。
「誤解だ。俺らは人攫いとは関係な――――」
「きゃあ?! これは一体どうしたのですか?!」
「あ、オディットさ――――くっ!」
トイレから戻ったと思われるオディットさんの声に驚いた、ほんの一瞬の隙を突かれ、お坊ちゃまに逃げられた。さてどうするか⋯⋯
「お嬢さん、剣を仕舞って俺の話を聞いてくれよ。むしろ俺達はだな――――」
「隊長、奴らの拠点が分かりました」
「オディットよくやった! じゃあ作戦を立てるぞ!」
「はい!」「は!」「よし!」
「⋯⋯えぇぇ?!」
これはどういう事だ? 私はそのままその場に放置された⋯⋯ので、いそいそと剣を仕舞った。
「ここから南西に一キロ地点の村です」
「やっぱりベール王国側じゃないか。トラムのせいにしやがって」
どうやら彼らはベール王国の民ではなくトラム王国の人間らしい。
「ロゼリーさん。私達は何度もベール王国に言ったのよ? 街道に出る人攫いをどうにかして欲しいってね。でもトラム王国側の人攫いだと言って対応してもらえなかったのよ」
「そうですか。所でオディットさん、あなたは何者ですか?」
「トラム王国第三騎士団のオディット・バークレーよ」
「任務でしたか⋯⋯」
彼らはトラム王国の騎士団員で、ベール王国内に蔓延る人攫いの対応の為に身分を隠し、秘密裡にやって来た方々だった。
「⋯⋯それでも目の前で三人の女性冒険者が攫われたんですよ? 良くないと思いますが」
「こちらとしてもトラム王国の人間が何人も攫われているんだぞ? ベール王国は何も対応しないし、それに一般人ではなく、冒険者を選んだのだから悪い選択ではなかったと思うが」
ムムム⋯⋯これはベール王国側が悪い。でもあの三人は悪くない。ならば⋯⋯
「早く助けに行きましょうよ。場所は分かっているのでしょ?」
「そうだが、お前に助けてもらうつもりはない。俺達でするから大人しくここにいろ」
「えぇ? ちょっとお坊ちゃまの性格が変わり過ぎじゃない? さっきまではあんなにもいかがわしく『ハァハァ、か、可愛い子猫ちゃんは僕の側にいてねぇ。ハァハァ⋯⋯この僕の先っちょの――――』」
「俺はそんな事言ってねーよ!!」
「はぁ~~~。言っていましたよ。ボケてるんですか?」
自分で言った事も忘れるなんてトラム王国の騎士も昔とは変わってしまったのかね。
「それに『皆どこがイイの~? ハァハァ⋯⋯け、経験は多いの? 長いのは好き? パンティーは何色なの? 彼氏はいる? ハァハァ⋯⋯可愛いね~!』って言っていたじゃありませんか」
「言ってねぇ!! 俺は『皆どこの出身なの~? 冒険者経験は長いの? パーティーなの? 彼氏はいる? 可愛いね~!』って言ったんだよ!」
「同じではありませんか」
どちらもキモい。だから同じだ。
「違げぇよ! ⋯⋯何だろうな、お前みたいな奴にどこかで会った事がある気がするんだよな」
「『ハァハァ⋯僕たち前にも会った事あるよね? ハァハァ⋯う、運命じゃないかなぁ?』って言うの止めて下さい。キモいです」
「お前いじめっ子かよ?!」
「隊長が楽しそうでよかったです」
「オディッド?! お前は何を見て楽しそうだと感じたんだよ?!」
へ~。流石隊長と呼ばれるだけはある。変態扱いされてもきちんとツッコミ業務を怠らないとはな。これはきっと⋯⋯
「変態扱いに慣れてんだな。本物か」
「はあああ?! 誰がだよ?!」
何だかんだ駄々を捏ねて、私も人攫い犯の確保と三人の救出作戦に連れて行ってもらえる事になった。




