護衛の仕事は大変だ
私は前世振りに手にしたギルドタグを首から掛けて掲示板に向かった。
「フンフフ~ン」
懐かしいギルドの雰囲気と胸に当たる冷たいタグの感触。そんな久しぶりの感覚になぜだか気分が高揚してきた。
思い出すな⋯⋯フェリックスもこうやって毎日の様にギルドに通ったな。
「さてさてベール王国の王都にはどんなクエストがあるのかな~? まずは薬草摘みね、これはいつでもどこでもあるよね。護衛は⋯⋯Cランク以上かぁ~残念」
できれば護衛をしながらトラム王国に向かいたかったのだが、初心者同然のEランクでは仕方がない。商人だってできるだけ強くて経験のある護衛を雇いたいだろうし。じゃあ簡単な魔獣狩りをしながらトラム王国を目指して行こうか――――
「すみません、冒険者の方ですよね?」
「私ですか? そうですが⋯⋯」
「突然ですが依頼を受けてもらえませんか? どうしても女性の冒険者が直ぐにでも必要なのです」
「え? 女性限定ですか?」
少し怪しいけれど、私は男の話を聞いてみる事にした。
「では皆様はお坊ちゃまの護衛をお願いいたします」
「「「「はい⋯⋯」」」」
安宿で一晩を過ごし、次の日の早朝に指定された場所に向かうと、そこには馬車四台程の小さな商隊が出発の準備をしていた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」「どうぞよろしくお願いいたします」「よろしく」「初めまして」
集められたのは随分と若い女性冒険者達五名⋯⋯本当に話に聞いていた通り女性のみだ。
さて、中々珍しいこの人員には勿論理由がある。それは⋯⋯
「今回は美人揃いだね! いいねぇ~暇な旅には美しい花々が必要さ! そうは思わないかい?」
「⋯⋯」
この小隊のお坊ちゃまは大の女好きらしく、自身の従者に女性冒険者だけの護衛隊がいいと頼んだそうである。
今回の旅の人員はお坊ちゃまとその従者、そして屈強そうな馬の御者四人と、ガタイのいいお坊ちゃまの商会の社員四名に、我々女性冒険者の五名である。
正直に言って馬車四台に対して人が多い。この都度、女性冒険者を連れて行くのは完全にお坊ちゃまの趣味というか、我が儘であると思われる。 金持ちの変態が考える事は私には分からない。
「可愛い子猫ちゃんは僕の側にいてね! 絶対だよ? この僕は先頭の馬車にいるから」
「⋯⋯はぁ」
⋯⋯ありえない。この坊ちゃまは阿呆だろう。煌びやかな銀髪と青い目のイケメンなのに残念過ぎる。これは何なのかな?
「では出発~!!」
朝露に濡れる街道を西に向かって進んで行く。目指すは王都から二日の距離にあるケーヴというトラム王国に近い大きな町だ。
「フンフン~」
ロゼリーはお坊ちゃまの乗る馬車の横を歩いて進む。この一歩一歩が確実にトラム王国に近づいて行っていると思うと気分が高揚してくる。
今頃ロゼリンの家族はキレていそうだが、ゲオルグから婚約破棄の慰謝料が届けば落ち着くだろう。特に母親は現金な女だし、父親はこの都度の婚約破棄は100パーセント浮気をした相手の瑕疵であると、悲劇の父親ぶった演技を上級貴族の前で披露するだろうよ。
しばらく大きな街道を進み、時々休憩を挟んで特に問題も無く一日目が終わった。
「今日はここで野宿かぁ⋯⋯」
「仕方がないよ。あの大きなお坊ちゃまが宿屋のある大きな街道から外れて、こちらの細い旧道を通りたい~! なんて我が儘を言うし」
「声がデカいよ! あそこにお坊ちゃまの従者さんがいるから!」
今回の護衛仕事を共にする女性冒険者の方々は、エリーさんにマリーさん、リリーさんと言うそうだ。そしてこの三人組は同じ地元の出身者で、二か月前から活動を始めたばかりのEランク新人冒険者らしい。彼女達はまだ十代半ばと若く、ロゼリーにも親切にしてくれる。
「ちょっとこの道は怖いです⋯⋯最近商隊が襲われたと聞きましたよ? 皆さんは知っていましたか?」
「知りません!」 「ちょっと怖いかも⋯⋯」
そしてもう一人、少しビクビクしている年上の彼女はオディットさん。いつもはパーティーでクエストを受けるのだが、メンバーが怪我をしているらしく、今回は一人でクエストを受けたのだとか。
四人とも感じの良い方々でよかった。昔フェリックスが受けた護衛仕事では感じの悪い冒険者がいて喧嘩になった事がある。仲が悪いと連帯にも影響するし、いざという時に命を任せられないし、とにかく精神的に疲れるのだ。
今回の護衛仲間は当たりだな~。まぁコレさえ無ければだけど⋯⋯




