番外編:前編
ここベール王国にあるモッシュ公爵家の屋敷では、若夫婦たちが言い争いをしていた。
「ゲオルグ様のせいで、私はもうお茶会に誘われないし、結婚式にだって友人たちは誰一人として参列してくれませんでしたわ!」
「泣かないでくれアンジュ、それは俺のせいではなくてロゼリンのせいだ。あいつが俺らの悪口を社交界で言い触らしているのだ。そうに決まっている!」
元ロゼリンの婚約者であったゲオルグは、高額の慰謝料を支払ってロゼリンとの婚約を破棄し、その後幼馴染であったアンジュと婚約し直した。
そして数年後、無事に結婚した二人だったが、徐々に社交界での居場所を失ってきていた。
「まぁ俺に任せておけ。ロゼリンに文句を言って来てやるからな」
「でもロゼリン様はベール王国にはいないって聞いたわ」
「問題ない。探し出して説教してやる!」
「本当?! そうしたらまた楽しいお茶会に誘われるようになるかしら?」
「ああ。引っ張りだこさ」
「ありがとうゲオルグ様!」
「詰まんないわ~」
ゲオルグと結婚したアンジュは暇だった。病弱と周囲には思われているので仕事は免除されているし、ゲオルグの母はまだまだ健在で、家の采配はすべて義母が熟してくれていたからだ。
元貧乏子爵家の娘であるアンジュは、金持ちの家に嫁ぐ事が物心ついた頃からの夢だった。
なぜなら実家は貴族の邸宅とは思えない程の化け物屋敷で、隙間風が吹き荒れ、雑草が家屋に浸入し、屋根裏には鳩が勝手に住んでいたからだ。
それでも小さい頃は家や家族が大好きだった。
「どうしてお父様のお洋服には穴がたくさん開いているの?」
「⋯⋯これは風通しを良くしているんだよ。いつも暑くてね」
「冬なのに?」
「ああ。アンジュの父はいつでも熱い愛に燃えているんだ! 暑くてたまらないよ!」
「すごいね! お父様!」
「ほら二人とも、早く食べないと鳩の丸焼きが冷めますよ」
「は~い」 「いただきます」
小さい時はこれが普通だと思っていたが、アンジュは大きくなるごとに家が貧乏だという事に気づき始めた。
「お母様っていつも同じ服だね」
「ええ。同じ服を100枚持っているの」
「本当に? どうして違う色や柄にしないの? クローゼットの中を見せてよ」
「アンジュ、そんな事を言う物ではありませんわ。もうアンジュの分かっているのでしょう? うちはド貧乏よ。貴族の中でも底辺中の底辺よ。ヒラメのように地べたに張り付いているのが我が家よ」
「⋯⋯やっぱり」
そんな私には幼馴染のゲオルグがいた。彼は私なんかとは違う生粋のお坊ちゃまで、とても純粋でアホな子だった。⋯⋯まぁ正直言って仲良くなんてしたくなかったけど、身分上、嫌でも接待しなくてはならなかったのだ。
「コホコホ」
「また咳をしているね。アンジュは病弱だな、こんなに痩せて⋯⋯」
「だ、大丈夫よ(キモイから体をジロジロ見ないでよ)」(※カッコ内は心の声です)
咳の原因は屋根裏に住む鳩のアレルギーだし、痩せているのは食べ物がギリギリなだけ。でも恥ずかしくて本当の事なんて言えなかった。
「ほら。蜂蜜だよ。のどにいいらしい」
「⋯⋯こんなに高価な物をありがとう。ゲオルグ様(この守銭奴公爵家が!)」
アンジュは家が貧乏なのは、寄親であるゲオルグ様のモッシュ公爵家のせいだと両親が話しているのを聞いた。公爵家は寄子からお金を巻き上げて贅沢しているって⋯⋯
「い、いいんだよ。その⋯⋯アンジュが喜んでくれれば⋯⋯」
「ゲオルグ様だ~い好き!(キモ~。でも蜂蜜はいただく。蜂蜜分は褒める)」
「えへへへへ⋯⋯」
ゲオルグ様なんてちょろくてアホだし、金持ちって以外に好きな所もないけど、金持ちだから私は彼と結婚したいと思ったのだ。世の中は金次第だって聞くし。 実際にそうだし。
あの頃の私は、ゲオルグ様が侯爵家のお嬢様であるロゼリン様と婚約をしている事を知らなかった。
少し大きくなってからその婚約について知った私は、あぁ私の人生設計が狂ってしまった⋯⋯。と嘆いたが、早く他の金持ちを探さないとな~と思っていた時⋯⋯たまたまモッシュ公爵家に来ていた私はソレを見てしまった。
「ロ、ロゼリン、止めてくれ⋯⋯!」
「おいおい~? 侯爵家の男がこんなにナヨくてどうすんだ~? ほら、もう一度剣を持てよ! お前チ〇〇付いてんだろ? ⋯⋯そうだ⋯⋯ちと見せてみろよ?」
「や、止めてくれ~~~!!!」
「オラ、大人しく脱げ。あ? ハハハハ~!! 小せぇ~! ギャハハ!!」
「うわあああああん!!!!」
なんとゲオルグ様が美しい女の子にパンツを脱がされていた。私はその様子を木陰からガン見していた。
「はぁ~⋯⋯いい⋯⋯何かしら? この気持ち⋯⋯」
金持ちで地位のある男が女の子に甚振られているのを見ると気分が高揚した。




